緒方陽一さんの熟成百花蜜
緒方陽一
中学生の頃はインドアだったという緒方さん。大学時代は歯科大に通いながら抽象画家を志す。意外なことに蜂蜜はもともと苦手で、どちらかと言えば好きだったのはメープルシロップ。現在は、「RabbitRadiance(ラビット・ラディエンス)」の最高経営者。カンボジア・プノンペンで『クメール・ラビット』ブランドの石鹸も作っている。
日本では絶対に出会えない動物や昆虫、植物たちが躍動しているカンボジアのジャングル。カンボジアの発展が進み、森林が減少するなか、ハニーハンター緒方陽一さんは、野生の蜂蜜を求めて1年のうち約4カ月を人里離れた森で過ごしていると言います。緒方さんがカンボジアに移住したのは2011年。当初は画家として活動しながら親戚が計画した農業の手伝いをしていましたが、カンボジアの森の視察で出会った部族の蜂蜜に衝撃を受け、ハニーハンターとしての道をスタートさせたのだとか。
「僕があの蜂蜜に感じたのは圧倒的なパワー。同じ森で採れるマンゴーやバナナも素晴らしいのですが、多種多様な花の蜜や樹液からできている野生の蜂蜜はまったくレベルが違う代物でした」。その後、部族の村に通い続け、森に入れてもらえるようになるのに1年半はかかったという緒方さん。
蜂は人間が住んでいる地域を嫌い、森の入り口から、さらに3日ほど進んだエリアに生息しているそうで、森を管理する部族とともに蜂の巣を探すエピソードにも、かなりワイルドな内容が。「途中でお腹を下すことほど迷惑なことはないので、その間は蜂の幼虫と蟻しか食べないようにしています。虫や蟻はお腹を壊さないんですよ」。
そんな緒方さんのハニーハントは、惚れ込んだ森の自然と蜂の営みを壊さないことが流儀。殺虫剤を使って一帯の蜂を絶滅させ乱獲していく方法もあるなかで、「僕たちは蜂の巣の3分の1しかとらない。一部を残しておくと近くに分蜂し、次の年もまたそこで蜂蜜がとれるから。蜂たちと共存共栄なんです」。
さて、そんな緒方さんの蜂蜜『エイプリルビンテージハニー』とは、実際どんな味なのか。まるで照り焼きのタレのような色からしても普通じゃない雰囲気の蜂蜜。試食させていただいた本誌編集スタッフですが、口にした全員が目を丸くする想定外のインパクトが。なんとか言葉にするなら、蜂蜜とは思えない杏のような風味と酸味が、甘さを包んでいるような味わい。一つのスイーツとしても楽しめる摩訶不思議なおいしさなのです。
「部族やカンボジア人のスタッフは幼虫がまざっているような粗い下処理だけで食べてしまうこともあるのですが、僕は自分の舌を信じて出荷まで何度もドリップとあく取りをしています。この蜂蜜は突き抜けておいしいのだから、パワーがあるのだからと価値を感じ手間は惜しみません。今回は、この蜂蜜の魅力を日本の方にぜひ体験してもらいたい。部族が幸せで、僕が楽しくて、その上でこの蜂蜜を知ってもらえたら、僕たちの森だけは守っていけるんじゃないかと思っています」。
緒方さんがカンボジアの森で拓いた蜂蜜の新境地へ、ぜひあなたも!