2019.07.25 update

【Amvaiコラボ企画】名著から紐解く達人のファッション考vol.4|山下英介という“マニアック界の超ミーハー” 後編(1/3)

「無難」でも「どうでもいい」でもなく、「ちょうどいい」アイテムを探し、発信する男性向けファッションメディアサイト「Amvai」で異彩を放つのが、こだわりを持ち、あらゆるモノを知り尽くしているAMVAR=メンバーたち。これまでイセタンメンズネットのコラボ企画として、「名著から紐解く達人のファッション考」をテーマに3人のデザイナーにインタビューを敢行してきた。

今回4人目の賢者として、雑誌『メンズプレシャス』(小学館)のファッションディレクターを務める山下英介さんが登場。山下さんが鞄から取り出したのは、アラン・フラッサーの名著『Dressing the Man: Mastering the Art of Permanent Fashion』だった。
前編に引き続き、山下さんによる「名著から紐解く達人のファッション考」をご覧ください。



 

令和元年の2019年に、80年代後半のアルマーニスタイルが刺さる理由


柴田 今気になっている時代感として80年代後半を挙げられましたが、どこから湧いてきた気分なのでしょうか??

山下 ドレスクロージングの世界は、2000年代後半からクラシコイタリアの派生的なものが主流です。ピッティ・イマジネ・ウオモで披露されるスタイルを見ていてもイタリア的な理詰めの世界で、決まり事が多い。そういう論理的に成立する着こなしの楽しさを感じてきましたが、どこか不自由さを感じることもあって、そういう世界に飽きてきたところに80年代的な自由さがありました。
理論からニュアンスの表現に気持ちが移って、そこから80年代的なるものに惹かれたというか。単純に「ほら、この色がきれいでしょ」というファッションはいいなと。

柴田 なるほど。でも山下さんの主戦場である『メンズプレシャス』ではニュアンスの表現は難しいですね…。

山下 はい、『メンズプレシャス』は40代から50代のエスタブリッシュな男性向けなので、表現はソフィスティケードしていますね。でも濃縮された気分を表す「濃縮ジュースのような着こなし」は自分ができます。僕は邪道なんですよ(笑)

柴田 僕もどちらかというと邪道派(笑)。確かに、メンズクロージングの世界はルールありきで、それを極めた人が型を破り、崩して、遊びで身につけていく順番を楽しんでいく世界です。
山下さんはご自身の経験の中の余白がベースなって理論の面白さに気づいたのか、まず理詰めがあって、気分によって余白が楽しめるようになったのか、どちらですか。


山下 う~ん、どうでしょうね…。どちらかというと理詰めでしょうか。昔の人のファッションが好きで、ルールは快適で合理的に思えていましたが、一つのものが例外的に「あり」になると、その他にもいろいろ「あり」になっていて、クラシックな中での遊び方が楽しくなってきた感じでしょうか。

柴田 とても山下さんぽい答えですね(笑)更に突っ込んで具体的にすると…?

山下 僕の場合でいうと、古着にハマっていたのが大きくて、「クラシックな範疇なら何をやってもいい」と思っています。スリムパンツを穿いている時にシルエットがつまらなく感じて、ジョッパーズパンツを買って穿いたらとても新鮮で、調子が良かったことがあります。
その格好で海外へ行ったら、ロンドンやフィレンツェのおじいちゃんやおばあさんに喜ばれました。自分は「街の雰囲気に合うクラシックが大事」だと思っていて、たとえばフィレンツェでナイロン製のジャージーセットアップを着ることの方が僕にとっては勇気がいることなんですよね。街の雰囲気を壊さず、街に馴染んでいればOKという独自の基準があります。

柴田 それは、東京でもそうですか。

山下 東京でもそうですね。自分は人の目を気にするタイプなので、いわゆる派手な着こなしはしないと思っているんですが、その街や場所をリスペクトするのは気にしています。
ローマなど歴史ある古い街には黒づくめは合わないけど、パリならしっくりきます。東京は比較的何でも合いますが、「街の色」を気にしながら着ていますね。

柴田 街に溶け込むことは本当に難しい。それを“さらっ”とこなす山下さん。さすが洋服の達人です!!