【インタビュー】ウェルドレッサー長山 一樹・大島 拓身・尾崎 雄飛が語る<ジェイエムウエストン>の愉しみ方「Meets your J.M. WESTON」
- 05.03 Wed -05.23 Tue
- 伊勢丹新宿店 メンズ館1階 ザ・ステージ
2021年より春の恒例となっている<ジェイエムウエストン>のポップアップストア。過去2回ともに大好評の内に幕を閉じたこのイベントが今年、5月3日(水・祝)から23日(火)まで、3つのテーマ「レアカラーの先行販売」「ウエストン・ヴィンテージ」「コードバンオーダー」の構成で開催されます。
そこで今回は、フォトグラファー、ビンテージショップオーナー、デザイナーとファッション業界でも職種の異なるウエストンLOVERの3名に、<ジェイエムウエストン>への思いを語っていただきました。イベント予習としても、役立つお話をお聞きください。
ウエストンLOVER:1
フォトグラファー 長山 一樹さん
ビスポークスーツに合うフレンチカラー
初ウエストンはパリで出会ったタンブラウンの「#641 ゴルフ」
数々のメンズ誌をはじめ、コマーシャルフォト、最近では「THE FIRST TAKE」の映像撮影でも話題のフォトグラファー、長山一樹さん。その作品とともに、撮影現場の如何に関わらず、つねにビスポークスーツ姿でカメラを構える自身のスタイリングもよく知られています。
「スーツを着始めて6〜7年でしょうか。若い頃はアメカジ古着を着ていた頃もありますし、バイクに乗っていた頃は革ジャンばかりでしたが、フォトグラファーとして独立してからはジャケットにBDシャツとか、トラッドというかベーシックというか。だからスーツっていうのは、特別な服ではなかったです。ただトロピカルウールのような、ビジネス調のウールのスーツは着ません。ツイード、フランネル、ギャバといったちょっと風合いのある生地を選びます。」
初めてのオーダーはラルフローレン。その後は知人に紹介され、渋谷のテーラーケイドに出入りするようになります。現在所有しているスーツは、ほとんどこちらのテーラー山本さんが手掛けたスーツだそうですが、そのスタイリングについては長山さん流のテクニックがありました。
「季節に合わせたスーツを7着、シャツとネクタイまで決め込んで壁に掛けてあります。天候や行き先で、順番を入れ替えることはありますが、基本的に端から順に着ていくのでコーディネートに悩むことはないですね。このスーツにはこのシャツ、このネクタイとほぼ決めてあるし、靴もこのスーツにはこれというふうに決めています。なかでも<ジェイエムウエストン>のゴルフの登板回数は多いですね。というのも、私のスーツはどれも結構タフな素材のものが多いので、華奢な靴より男クサい靴が似合うんです。」
この日のウールギャバジンスーツはパンツも太く折返しのダブルも5.5cmと太幅仕上げ。体格のよい長山さんのスーツスタイルは、どこか60年代のエスカイヤ誌から抜け出てきたようにクラシックな趣です。ここに合わせた<ジェイエムウエストン>の「#641 ゴルフ」は、パリで買った一足だそう。
「たまたまパリで茶色い靴を買おうと思って。フランスで靴といえば<ジェイエムウエストン>かなっていう軽いノリでした。シグニチャーローファーのイメージが強くて、可愛い靴ブランドだなっていう印象だったのですが、店でこのグレインレザーのゴルフを見たときに、こんな男っぽい靴もあるんだ、と。履いてみたら、これがぴったり。よく聞くじゃないですか、小さいサイズを勧められるとか、慣れるまでは修行だとかのウェストン神話(笑)。私のゴルフは、ぜんぜんそんなことなくて、最初からずっと快適です。ソールもラバーで硬さがちょうどいい。他ブランド靴のラバーソールより全然擦り減らないですよ。これ、まだ一度も修理・交換してないんですから。」
<ジェイエムウエストン>で富士山五合目へ
長山さんは「#641 ゴルフ」を履いてアウトドアロケもこなします。自身のインスタグラムでは、富士山五合目に「#641 ゴルフ」を履いて佇んでいる写真も上げているほど。スタジオ、海山、海外ロケまで、かなりタフな履き方をされていて、しかもお手入れはそんなにマメじゃないというから奮っています。
「浜辺ロケでスタッフ全員スニーカーの中、私だけゴルフとかよくあること。スニーカーはメッシュのアッパーに砂が入っちゃったりするけれど、革靴ならそんなことないですからね。海外ロケは機材もあるし、靴を何足も持っていけないけれど、街ロケから夜の会食までこなせる靴となるとゴルフが便利です。これだけタフに履いているだけあって、よくみるとコバとかアッパーとか細かい傷が付いているんだけど、グレインレザーだから目立たないでしょ。結構ぎりぎりまで手入れもしないんですけど、それでも品格を損ねないのは凄いと思いませんか。」
これまで所有してきた靴はほとんどが黒。そこへ茶とバーガンディが数足。つまり茶色の「#641 ゴルフ」は、長山さんのなかでは希少な存在です。にもかかわらず登板回数が多いのは、それだけスタイリングに合わせやすい茶色に惚れ込んでいるからこそ。実は長山さん、シグニチャーローファーはお持ちでないそうですが、それには理由があるのだそうです。
「ローファーはずっと気にはなっているんですが、あえて避けているのもあります。さきほどもお話しましたが、スーツを作るときパンツを太く仕立てるので、シグニチャーローファーだと足元が小さく見えちゃうかなっていう懸念があるんです。黒だと、どうしても足元が控えめになりすぎてしまうような気がして。そのうえ足のサイズが10(約28cm)だから、在庫がないだろうという思いもあって積極的に探していないんです。」
そこで長山さんに、「#641 ゴルフ」と「#180 シグニチャーローファー」のハンターグリーンをご覧いただきました。今回のイベントではこの2つのモデルに加え「#690 ヨット」にも、ハンターグリーン、バーガンディ、ダストスエードの限定カラーが登場します。
「ハンターグリーン、いいですね。定番靴でも素材と色が多彩に揃うのが<ジェイエムウエストン>だとは知っているのですが、この色なら足元がタフに見えて存在感もある。ベージュのスーツとの相性も抜群なうえ、主張しない品格がありますよね。デザインもそうだし色出しとかもヘンに際立ってないところがいいじゃないですか。そういうところがフランス靴らしいようにも思います。それをエスプリと呼ぶのかどうかわからないですけれども。」
ウエストンLOVER:2
ビンテージショップオーナー 大島 拓身さん
履きやすさ、革質で勝るビンテージ
そっけないのに上品。意識しないで履ける靴
海外のデザイナーがお忍びでやってきては、アーカイブを掘りにくる街、高円寺。南口の商店街アーケードを抜けた先に、大島拓身さんがオーナーを務める古着ショップ「ボンビュー」はあります。ビームスのドレス部門に20年以上勤め、昨年独立。もともと古着好きということもあり、ドレスと古着のミックスに長ける大島さんのセレクトは、アメリカ、イギリス、フランスなど「大島さんの好きなもの」で埋め尽くされていました。
「自分のスタイルが何系っていうのは、あんまり考えたことはないんです。今日のサファリジャケットはオリジナルで、シャツはギットマン ブラザーズ。パンツはジェルマーノの別注です。古着に新品も織り交ぜた独自のスタイルだと思っています。でも足元は、だいたい革靴を合わせています。基本的に革靴が好きなんです。」
店内にも、ユーズドの革靴が国籍を問わず並んでいました。ラックにはデニム、レザー、テーラードジャケットなど。さまざまにミックスコーディネートを愉しむスタイルの足元は、圧倒的に革靴だという大島さんは、<ジェイエムウエストン>の「#641 ゴルフ」を愛用していました。現在は2足を所有しているそうです。
「一足はパリで購入したものです。日本だと小さめのサイズを勧められますが、パリでは2サイズぐらい大きいサイズを持ってこられたので、逆に小さいサイズをお願いしました。シグニチャーローファーも一緒に買ったのですが、出番は圧倒的にゴルフのほうが多いですね。もう一足のグレインレザーは東京・青山で。共に茶色ですが、表革のほうがちょっと濃い色かな。どういうときに履くか、ですか? あまり意識したことないんです。むしろその意識しないで履けるところが<ジェイエムウエストン>のいいところだと思っているので。」
大島さんにとって、靴はコーディネートの最後に選ぶもの。「所詮、道路を歩くときに、足を守る道具でしかない靴。高級っぽく見せなくてもいいし、そっけなくていい」と語るように、靴から入るスタイリングや、強烈な思い入れと共に神格化された靴スタイルは好まないそうです。
「これどうだ! みたいな感じは服にしても靴にしても苦手です。靴はそんなに目立たなくていい存在だと思っているので、わざとらしくないほうがいい。そういう意味で<ジェイエムウエストン>は、そっけないのに上品に見えるところが好きですね。ブランドとして変わったことも絶対やらないじゃないですか。ベヴェルドウェストみたいな、絞り込んだデザインもないし、ピカピカに磨かなくてもサマになる。そういう道具のような靴を作り続けていて、しかも品があるところが魅力なんだと思います。」
自分だけの一足と出会う一期一会のビンテージ
「#641 ゴルフ」は、その名の通りゴルフ用のスポーツシューズ。1955年に誕生し、現在はオールコンディションシューズとして、あらゆるシーンにフィットする靴とされています。デザインが類似する外羽根Uチップ靴はたくさんありますが、大島さんにとっての「#641 ゴルフ」は、上品さが別格なのだそうです。
「ラバーソールでもそんなに分厚くない印象なので、合わせる服もワークからドレスまで幅広く対応できます。カーゴパンツに合わせても、品のあるスタイリングに仕上がるのは圧倒的に<ジェイエムウエストン>です。革質もいいし、ほどけにくい靴紐の質感も好きですし。他のブランドの靴って「こう履かねばならない」みたいなセオリーのようなものがあるじゃないですか。<ジェイエムウエストン>には、それがないですよね。フランスというお国柄のせいかもしれません。洋服もイギリス、アメリカ、イタリアって、それぞれ独自の文化がありますが、フランスは洋服全般において、イギリスのいいところ、アメリカのいいところ、イタリアのいいところを吸収して成立してる感じがします。<ジェイエムウエストン>の靴も、同じなのかなって思うんです。それぞれのいいところを持ち寄ってミックスしてる。だからこそ、いろんなスタイルに似合うのだと思うんです。」
この日、大島さんにお見せしたかったのは<ジェイエムウエストン>が自社で回収した靴を修理・修復して販売する「ウエストン・ビンテージ」。定番の「#180 シグニチャーローファー」をはじめ「#641 ゴルフ」のほか、一部レアモデルやレアカラーも登場予定です。創業地リモージュの工場で、現地職人の手によってリペアされており、価格は定価の5〜6割と靴好きには堪らない一足が見つかります。
「やっぱりこの頃の靴は革質がいいですね。このシグニチャーローファーなんか、サイズが私にちょうどいいんですけど、たぶんレディスかな。「ウエストン・ビンテージ」にはレディスモデルも紛れているんですね。あ、これはヨットですね。これだけ横にブランド名が刻印されてる。今日の私のスタイルにも似合いそうです。」
そういって試し履きすると、何度も感触を確かめるように靴を踏みしめています。
「新品と違ってアッパーの曲がりがよくて、インソールが沈んでいるから、履きやすいですよ。”修行”しなくていいのは嬉しいという人、多いんじゃないですか。ビンテージって、好きな色や自分のサイズと出会えることを期待して探すのが楽しいですよね。前回も大行列だったそうですね。またきっと、並んじゃうんでしょうね。」
ウエストンLOVER:3
サンカッケー デザイナー 尾崎 雄飛さん
2022年に伊勢丹ポップアップでオーダーした限定コードバン
インライン全色揃えた「#180 シグニチャーローファー」
自身のYouTubeチャンネルをはじめ、さまざまなメディアで自身のファッション遍歴を紹介していることで知られる「サンカッケー」のデザイナー、尾崎雄飛さん。こだわりの詰まったアトリエでお話を伺うと「#180 シグニチャーローファーなら既製品は、ほぼ全色持っているんじゃないかな?」と、我々を驚かせてくれました。
「セレクトショップに勤めていた頃から半年に1度、パリに出張に行っていたので、そこで少しずつ買い集めてきました。ここ10年ほどはパリに行けてないのですが、青山のお店にサッカー仲間がいるんです。彼に情報を聞いて、気になるモデルをお願いしています。正確にはわからないけど、全部で20〜30足ぐらいはあるんじゃないかな。自分ではコレクターではないと思っています(笑)。でも、次に買うならロシアンカーフのオールテランソールをオーダーするのもいいかも、なんて考えたりしています。」
専門誌などで靴について語る機会も多い尾崎さんですが、<ジェイエムウエストン>についてこんなにも造詣が深いとは。さらによく聞けば、珍しいモデルも数足お持ちなのだそう。オーダーで仕立てたオーストリッチのサイドゴア、ハンターグリーンのハントダービー…、マニアも垂涎の代物です。
「オーダーは結構作っていて、今日履いてるのは、去年の5月、伊勢丹新宿店の<ジェイエムウエストン>イベントでオーダーしたコニャックのコードバンです。1月に上がってきて、まだ3回しか履いてなのですが、コードバンならではの全体にムラ感のある色合いや、履き皺の部分の色が変わってきているのがわかるので、すでにもう楽しんでいます。他のブランドでもコードバン靴を持っていますが、この独特の光り方は何物にも代えがたいです。それと見た目には硬そうなのに、履いてみるとムニュっと曲がる柔らかさ。馬革の性質なのか、足馴染みが良いところはカーフでは得られないものがありますよね。」
カーフにはないコードバンの魅力
実はコードバンのシグニチャーローファーは、インラインには存在しないモデルです。昨年のイベントに際して登場しました。今年のコードバンオーダーはブラックを用意して、「#180 シグニチャーローファー」と「#641 ゴルフ」を展開予定です。
「コードバンって単色なのに、多色に見えるところが魅力です。このコニャックも、ベージュっぽいところが出てきたり、黒でも部分的にグレーっぽい色合いが出たりしますよね。そんなコードバンのアンティークのような味わい深い色合いが好きなんです。だからといっては何ですが、きれいめなドレススタイル以上に、アメカジベースの古着とかデニムには確実に似合いますよね。」
尾崎さんの今日のジャケットはベルベストのオーダー。あえて昔のスクールストライプのような生地を選んだものだそう。ウェスタンシャツに結んだネクタイは、馬の顔が手書きでペイントされているヴィンテージ。「コードバンの靴にあわせて馬」と笑いながらウェスタンテーラーを意識したスタイリングが見事な着こなしでした。こんなスタイリングにも「#180 シグニチャーローファー」は似合うんです。
「シグニチャーローファーって、アメリカ靴ともイタリア靴とも違うけど、ファッション的には、アメリカ的なトラッドやカジュアルに似合うし、逆にクラシックに合わせられるという意味で振り幅が広い靴と言えます。逆にいえば、どこにも属さない靴という言い方もできるかもしれません。アメカジ、アメトラに合わせたとき、アメリカンローファーよりも上品さを漂わせるし、スーツに合わせてもだらしくなく見えないけれども、ちょっとだけ違和感を楽しませながらスタイルとして成立するんです。その微妙なバランス感覚こそ、ほかの靴では出せない魅力。そして周りからは、<ジェイエムウエストン>を履いているってわかってもらえる。そんな、さりげないのにちゃんと目立てるって言うのは不思議な魅力ですよね。」
革靴だって、もっと自由に愉しんでいい
尾崎さんは、週に5日革靴、2日スニーカーを履かれるそう。最近は意識的にスーツを着るようにしていることも理由だそうですが、自分が若い頃そうだったように、若い人にも革靴の楽しさを知ってほしいと話します。
「21歳で入ったセレクトショップはフレンチ系のスタイルが得意だったこともあって、<ジェイエムウエストン>に限らず、革靴を履く機会は多かったんです。でも最近の若い人たちって、会社どころか結婚式にもスーツにスニーカーで出席しますよね。革靴かと思えばスニーカーソールだったりして。個人的には靴のTPOが崩壊しつつあることに憂いを抱いていたこともあるんです。でも、仕事ではなくプライベートでスーツを自由に着るように、革靴ももっと自由に履いていいんじゃないかと思っています。たとえば私は、アトリエにひとりで来て事務仕事だけして帰るだけなのに、スーツに革靴で来ることもあるんです。デニムに革靴とか、カーゴパンツに革靴とか、ファッションとして楽しいですよね。革靴ってもっと自由で楽しいものだと思うし、長く履けるっていう意味ではSDGs的で今っぽいかもしれない。そんな自由に考えていることを、こうやって取材していただいたり、自分のYouTubeで話せたりすることはとても嬉しいです。この記事を読んでいただいた方が、尾崎は今日どんな靴履いているんだろうとか、どんな服にどんな靴を合わせているんだろうって気にしてもらえるだけでも有り難いですね。」
最後、尾崎さんが語ってくれた思いはスニーカー全盛の時代に、あえて革靴の良さを再認識する視点。たくさんの靴を所有し、オーダーし、履いてきたからこそ説得力がありました。5月3日(水・祝)から開催されるポップアップストアも、そんな革靴の魅力を再確認できる機会となるはずです。
- 館開催場所:伊勢丹新宿店メンズ館1階ザ・ステージ
*撮影時のみマスクを外して、撮影を実施しています。
*本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
Text:Yasuyuki Ikeda
Photograph:Tatsuya Ozawa / Natsuko Okada(Studio Mug)
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