光石研の谷根千散歩【後編】「レコードに針を落とせば蘇る、青春時代の思い出」|イセタンメンズ散歩
イセタンメンズのバイヤーが、各界から迎えたキュレーターと共に気になるスポットを散策する、好評連載企画の「イセタンメンズ散歩」。第7弾となる今回は、なんと日本映画界屈指のバイプレイヤーであり、そのファッションやライフスタイルにも視線が集まる俳優の光石 研さんが登場します。ご一緒させていたくバイヤーは、連載第5弾にも登場し、アメトラの名店を巡った井上隆之。リアルタイムでアメトラブームを経験した光石さんと共に、新旧のカルチャーが入り乱れる谷根千エリアを散策して来ました。根津のホテルを訪れた前編に引き続き、後編はシティポップが流れる谷中のBAR星くずにお邪魔しました。
前編記事はこちら>>
シティポップの世界に浸れる『BAR星くず』
光石研(以下、光石) いやー、谷中も面白そうなお店がたくさんあって、ついつい寄り道したくなっちゃいますね。お、BAR星くず。ここだな。初めて入るバーって、なんだか緊張しますよね。
井上隆之(以下、井上) 僕はバーにはあまり行ったことがないので、余計緊張しています。でもこのお店も知り合いから教えていただいたのですが、なんでも、ここは70年代〜80年代のシティポップばかりを流しているお店みたいで、昭和レトロな世界観が、若者や外国人にも人気みたいなんです。
光石 落ち着いていて洒落た雰囲気ですね。うわー。懐かしいレコードがたくさんある!
井上 光石さんは、やっぱり行きつけのバーとか、いくつかあるんですか? こういう場所での身のこなしを勉強させてください。
光石 いや、僕も全然バーは初心者で、知り合いに連れて行ってもらうことはあっても、一人で行くようなところはないんですよね。バーっていうとあれでしょ? 綺麗なお姉さんのところにスッとカクテルが出てきて、「あちらのお客様から」ってやるやつでしょ? そんなことできないなー(笑)。 だからカクテルもよくわからないから、ウイスキーのソーダ割りばっかり頼んでます。
井上 ハイボールですね。それなら僕も自然に頼めそうです。このお店はお酒も全部日本のお酒で揃えているんですね。
光石 あ、本当だ。ジャパニーズウイスキーとかもたくさんあって、洒落ていますね。昔はハイボールって言わずに、ウイスキーのソーダ割りって言っていたんですよ。でも僕、お酒を覚えたのも遅かったし、いわゆる銀座のクラブに行って、みたいな遊び方をしたこともないから、ちょっと子どもみたいな遊び方しか知らないんですよね。若い頃は、音楽が好きだったから、ディスコにはよく行っていました。そういうところでも踊らないで、何がかかるんだろうって、ただ黙って曲を聴いているだけでした。あ、まあ、女の子は見ていましたけどね(笑)。
井上 僕は全然音楽に詳しくないのですが、そうやって音楽から広がっていく遊びって、すごく憧れます。
光石 あとはソウルバーにも行ったかな。ソウルバーには必ずおじさん達がいて、音楽のことを色々と教えてくれるんですよ。ある日黒縁の眼鏡をかけて行ったら、「お、今日はデヴィッド・ラフィン(※)意識してきたな」って言われるわけですよ。で、「だ、誰ですか?」って僕が聞くと、丁寧に教えてくれるんです。それこそサーフィン繋がりで言うと、ユーミンの「天気雨」って曲の歌詞の中で“ゴッデス”っていうサーフショップが出てくるんだけど、そうすると僕らなんかは田舎もんだから、「ゴッデスって何?」ってすぐに調べるんですよ。
井上 あ、ゴッデスは知っています! 茅ヶ崎にありますね。
光石 それにしても、ここのレコードはすごいセレクションですね。今、こういうレコードっていいお値段するんですよね。渋谷のタワーレコードもワンフロアがレコード売り場になっていて、いつもお客さんがいっぱいいるイメージです。
井上 大滝 詠一さんとか、山下 達郎さんとか、また人気が高まっていますよね。イラストレーターの永井 博さんも再ブレイクしていますし。
光石 達郎さんの初期の頃のレコードは再発されましたからね。僕は達郎さんが大好きで、達郎さんがやっている毎週日曜日のラジオは必ず聴いています。でもかかる曲がマニアックすぎてね。ほとんどわからないんですよ。
井上 面白そうですね。今度聴いてみます。
光石 僕らの時代って、レコードには絶対に指紋をつけちゃいけないものだって先輩から教えられていたから、DJが流行り始めた時に、みんなレコードをワシ掴みする姿をみてびっくりして、本当にカルチャーショックを受けました。
井上 こすったりもしますもんね。雑に扱うと音が変わっちゃうんですか?
光石 やっぱりホコリとかアブラとかが詰まって音が悪くなるんだと思いますよ。だから、レコードを買ったらまずカセットテープにダビングして、それをカーステ(※)なんかに入れて聴いていましたよ。レコードは大切に保管しておくんです。ミックステープもものすごい作りましたよ。※カーステレオ
井上 今で言うプレイリストですね。またカセットテープもブームになっていることを考えると、本当に70年代〜80年代のカルチャーが再燃していますね。
光石 とっておきのミックステープを作って、デートの時はこれを使おうと思ってかけるんだけど、僕はほら、これを聴いて欲しいから黙るでしょ。そしたら車内がシーンとしちゃって、でもその子は全然興味がないから、全く聴いていないんですよね。僕はもう、ずっと心にズキンズキン来ちゃってるのに……。しまいには寝ちゃったりしてね。何度そんなことがあったか。
井上 奥さまとのデートの時も、そう言う感じのほろ苦いエピソードはあったんですか?
光石 いやぁ、まぁ、その時にはまぁ、カセットとかもかけましたけどね。
井上 (笑)。
光石 それと、留守番電話が出てきたときに、昔は固定電話に中にテープが入っていて、それに好きなように応答のメッセージを吹き込んでおけば、留守の時にそれが流れるようになったんですよ。で、そこもこだわりたいから、カセットデッキの前に電話を持っていって録音ボタンを押して、好きな曲をかけてから、ちょうどいいところでまたボリュームを落として、「光石研です。ただいま留守にしております」っていう感じでやっていたんです。でもやっぱり僕は曲を聴かせたいから長くなっちゃって、大概途中で切られちゃうんです(笑)。事務所の社長なんかには、「長い!」って怒鳴られました。
井上 すごく生活に遊びがあっていいですよね。そういうところは本当に見習いたいです。いまはいろんなことが便利になって個人でなんでも出来るようになりましたが、カセットも、ウォークマンも、レコードもそうですが、いま僕たちが惹かれているのは、そういう遊びの部分なのかもしれませんね。
光石 そうそう。この大滝詠一さんのアルバム、『ナイアガラムーン』。これね、名盤ですよ。ジャケットもイカしてるんですよ。裏表紙の写真もかっこ良くてね。大滝さんの後ろにスタジオの壁が写っているんですが、そこに7インチのドーナツ盤がたくさん飾られているんです。僕もこれがやりたくて、本当はマニアックなレコードばかりなんだろうけど、僕はただ飾るだけだしいいやつだともったいなくて、50円とかで売っている演歌のレコードなんかを買ってきて真似していましたね(笑)。
井上 確かにかっこいいです。これ、かけてもらいましょう。なにかおすすめの曲はありますか?
光石 全部おすすめなんですが、僕は特に、B面の『シャックリ・ママさん』『楽しい夜更し』・・・の流れが大好きなんです。もう最高。ああ、懐かしい! 本当に20代の頃は、夜な夜なこれをかけながらラーメンすすって、絵を描いて、一人でそんなことばっかりしていたんです。
井上 それは最高の過ごし方ですね! こうやって音楽を聴きながらゆっくり夜が更けていく感じ、本当に素敵です。僕も趣味といった趣味がないので、これからは仕事ばかりではなくて、遊びも充実させていきたいと思いました。
*本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。掲載情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
お問い合わせ
伊勢丹新宿店
電話03-3352-1111 大代表
メールでのお問い合わせはこちら