光石研の谷根千散歩は、ポロシャツがちょうどいい。【前編】|イセタンメンズ散歩
イセタンメンズのバイヤーが、各界から迎えたキュレーターと共に気になるスポットを散策する、好評連載企画の「イセタンメンズ散歩」。第7弾となる今回は、なんと日本映画界屈指のバイプレイヤーであり、そのファッションやライフスタイルにも視線が集まる俳優の光石 研さんが登場します。
ご一緒させていただくバイヤーは、連載第5弾にも登場し、アメトラの名店を巡った井上隆之。リアルタイムでアメトラブームを経験した光石さんと共に、新旧のカルチャーが入り乱れる谷根千エリアを散策して来ました。
レトロな街に暮らすように泊まれる、『HOTEL GRAPHY 根津』
光石研(以下、光石) 正直「谷根千」って呼ばれるエリアにはあまり来たことがないんですが、いまはこんなにお洒落な場所があるんですね。びっくりしました。井上さんはこういうところによく来られるんですか?
井上隆之(以下、井上) 僕もなかなか来たことはなかったのですが、今回はここら辺の事情に詳しい知り合いから色々と教えてもらいまして、光石さんにも気に入っていただけそうな場所をピックアップさせてもらいました。
光石 そうなんですか! わざわざありがとうございます。すごく新鮮です。なんか、いいですよね。前に行ったタイのチェンマイとかバンコクの中心地からちょっと離れたあたりにも、ちょうどこんな感じの古い物件をリノベしたかっこいいホテルが増えているみたいでした。
井上 来ている客層を見ると、海外からの旅行客の方が多いみたいですね。海外旅行の時に、忙しい大都市のど真ん中ではなくて、こういう落ち着いたローカルな雰囲気のエリアに泊まるのってすごくいいですね。
光石 こういう落ち着いたところに泊まって、椅子に座ってゆっくり本なんかを読む感じ、すごく憧れるんですけど、いくつになってもわちゃわちゃしたところに行きたくなっちゃうから、なかなかできないんですよね(笑)。でも今日なんかは天気も良くって、こういうところでくつろぐのも本当に気持ちいいですね。ところで井上さん、いいポロシャツ着ていますねー(笑)。
井上 光石さんも(笑)。お揃いですね。実はラコステのポロシャツがお好きだっていうことをどこかの記事で読んでいたので、今日はなにかのお話のきっかけになるかなと思って、お気に入りの一着を着てきてくださるようにお願いさせていただきました。それはどのサイズですか?
光石 これはサイズ4ですね。井上さんは?
井上 僕はちょっと大きめを選んでいてサイズ6です。いつもはジャケパンでもキャップを被ることが多いんですが、ポロシャツにキャップだと少しゴルフっぽく見えてしまうので、今日はビーニーにしてみました。光石さんは昔からラコステがお好きなんですか?
光石 東京に出てきたばかりの10代後半から20代前半の頃は、古着屋さんでアイゾッドラコステ(*アメリカ製のライセンス生産品)ばかりを何色も買って、ずっと着ていましたね。昔はアイゾッドの古着が5,800円とかで安く売っていて、日本製のライセンス生産品よりもだいぶ安かったから、古着のアイゾッドばかりを着ていたんですよね。フレンチラコ(*フランス製ラコステ)もあまり出回っていかったですし。フランス物の古着が入ってくるようになったのって、1988年ごろからなんじゃないかな。
井上 僕も最初は古着のアイゾッドからでしたね。そこから古着を好きになっていった感じだったと思います。
光石 僕は上京したばかりで本当にお金がなかったから、古着屋ばっかりで買っていたんですよ。当時から原宿にはサンタモニカとか、シカゴとか、かっこいいお店がありましたから。それで、明治通り沿いの地下にデプトができたんです。そこがすごく広くて、コンクリート打ちっぱなしの内装で、ピンク色のキドニーシェイプのカウンターとスツールが置いてあって、そこでコーヒーを飲ませてくれたりしてね。LAから大量に仕入れてきたいい古着がバーって並んでいて、感じのシャツが2,800円とか3,800円で売っているんですよ。本当にデプトができた時はびっくりしました。井上さんはいつ頃ファッションに興味を持つようになったんですか?
井上 僕は小学校から高校まで野球ばっかりやっていましたから、目覚めは大分遅かったと思います。でも横須賀っていう土地柄もあってか、父親が元からアメカジが好きで、サーフィンをしていたり、母親も文化服装学院を卒業して百貨店に勤めていたりしたので、自然と興味を持つようになったんだと思います。僕自身も文化服装学院から百貨店に就職したので、そこは母親の影響ですね。父親はちょうど光石さんと同世代なので、同じようなものに影響を受けていたと思います。
光石 横須賀! 僕は北九州の田舎の生まれですから、環境は全然違うと思いますけどね(笑)。何もないところでポパイを読んで、そういうカルチャーにただただ憧れていました。近所に海もないから、サーフィンなんて夢のまた夢。でもまだ中学三年生ぐらいの時だったかな、ポパイの誌面で若者たちがスケボーに乗って坂を下っているのを見て、かっこいい! って思って、町中でスケボーを探し回ったんですよ。そうしたらようやく売っているところを見つけて、いま思えばニセモノみたいな安物なんですけど、お金を貯めてそれを買って、坂を見つけちゃ滑ってました。
井上 スラロームですよね。父親もサーフィンの流れでクルージングをやっていたので、僕も高3の夏に部活を引退してから、父親について行ってサーフィンとスケボーをあまり上手に乗れなかったのですがかじる程度にやったりしてました。
光石 高校になって博多駅の近くにパークができたからやってみたけど、全然できなかったのを覚えています。だって僕らの時代は雑誌で写真しか見たことがなくて、スケボーが実際に動いているところは誰も見たことがなかったんですから(笑)。
井上 光石さんはファッションも、ライフスタイルも、いつも力が抜けているのに本当にかっこよくて、とても素敵だなと思っています。以前インタビューで光石さんのご自宅の写真を拝見しましたが、最近も新しい物を買ったりしていますか? 僕も2020年にマンションを購入して、一通りインテリアを揃えてみたんですが、なかなかかっこよく決まらなくて……。
光石 いや、もう全然(笑)。あれはインタビュー用にかっこつけただけで、いまは見る影もないですよ。うちは10年前にワンちゃんが来てから、犬の物で溢れちゃって。しかも最近は足腰が悪くなってきてフローリングだと滑って危ないから、リビングから玄関までずっとヨガマットを敷いているんです。全然かっこ悪いけど、しょうがないんですよ。彼のためだから(笑)。僕らは雑誌で育ったから、こういう服を着て、こういう音楽を聴いて、こういう物を食べて、こういう物を読んでっていうのが好きだったんですよね。でも無理やりやっているからどうしても不自然になったりするんだけど、いまの世代の人たちは、なんでも自然にできちゃうんですよね。うらやましいな。
井上 そうですかね(笑)。僕は光石さんみたいなかっこいい先輩たちのスタイルに憧れて、それを真似しながら自分たちの世代に落とし込んでいる感じがしますけど。この後は谷中のバーに移動する予定なので、そういう場所での身のこなし方も、光石さんから盗めたらいいなと思っています。
Text:Shingo Sano
Photograph:Naoto Date
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