【連載】伊勢丹バイヤー・和泉圭が“オーダーシャツの無限の可能性”を楽しみ倒す|イセタンメンズ散歩
好評連載企画「イセタンメンズ散歩」、バイヤー×キュレーター第3弾は”オーダーシャツ”の世界へ。
伊勢丹新宿店メンズ館5階 メンズテーラードクロージングのバイヤー・和泉 圭が、メーカーズシャツ鎌倉・新宿三丁目店へお邪魔して、パターンオーダーシャツを作成。さらに、メーカーズシャツ鎌倉の若きホープ2人が、メンズ館5階のオーダーシャツで、“伊勢丹で初めてのシャツのオーダー”に挑みます。3人ともシャツに関するエキスパートですが、好みはさまざま。話を聞いていると、「オーダーシャツに沼っていく」のがよく分かります。
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お互いのお店でオーダー体験
メンズ館で、メーカーズシャツ鎌倉の2人がオーダーしたシャツとは
須田滉介(以下、須田) 自分が大学生のときに、動画配信『Kay_Standard_Style_TOKYO』主宰の慶伊道彦さんや、<Tailor Caid/テーラーケイド>の山本祐平さんなどから、「大人になって襟がないと恥ずかしくなってくるんだよね」というような話を間近で聞いていました。その当時はピンとこなかったのですが、30歳が間近になってその感じが分かってきて、最近では旅行の時にもシャツを必ず持っていくようになり、オンもオフもシャツが一番のデイリーアイテムになっています。
川田真之介(以下、川田) シャツはどんなTPOにでも合わせられるのが魅力ですね。「シャツを着ていればOK」というのは一番楽で、自然体でいられます。たとえばボタンダウンシャツなら、ネクタイでタイドアップ、ノータイ、襟のボタンを外して着るなど、いろんな着方ができます。日常で着るのにこんなに楽しいアイテムは他にありません。
須田 伊勢丹で初めてシャツをオーダーしますが、お世辞ではなく、着たかった生地に出合ってしまって、即決でした。イタリア<MONTI/モンティ>の白の厚手のブロード「MTR10501」です。薄手のブロード生地はイタリアンな雰囲気になりますが、アメリカントラディショナルが大好きなので、厚手の「透けないブロード」を探していました。既製シャツではなかなか出合えないんです。接客していただいた花野さんとも盛り上がりました。
スタイルは、アメリカのボタンダウンシャツに非常に忠実にしました。シンプルですが、ずっと着ていけるのが一番です。メンズ館は生地見本の種類が豊富にあって興味津々でした。こんなに揃っているのは羨ましいです。襟型の種類もたくさんあって、何年かに一度トレンドを取り入れた上で作り直している、と聞きました。
川田 自分は、今年、茶のリネンのスーツを作ったので、それに合わせるシャツをオーダーしようと思って来ました。口元さん(メンズ館カテゴリースペシャリスト)にも「このスーツに合うシャツ」として薦められて決めたのが、<THOMAS MAISON/トーマスメイソン>の白地に、茶と相性の良いボルドーストライプの「TMS51090」です。アングロアメリカン調に大柄のプリントタイも似合う生地にしました。
スタイルは、ネクタイができるレギュラーカラーで剣先を少し長くしました。襟、カフスなど芯地があるところは柔らかくして、背中にはプリーツやダーツを入れず、ポケットもネームもないドレス仕様。ただ、シルエットはゆったりめにしています。
来る前は、オーダーシャツは敷居が高いのかなと思いましたが、スタイリストさんと話すととてもアットホームな雰囲気で、カウンターに座って慣れていくと心地良い空間ですね。メーカーズシャツ鎌倉のオーダーシャツのプロセスはシンプルで分かりやすいところが好評ですが、伊勢丹のオーダーシャツは補正箇所が多くて、「シャツにこだわりをもった人ほど楽しめるんだろうな」と思いました。
今、お客さまはどんなシャツを求めていて、オーダーで何を叶えるのか
バイヤー和泉 圭(以下、和泉) イセタンメンズのオーダーシャツは、全部で14ヵ所を採寸し、細かい補正ができます。その実寸に沿って、スタイリストがゆとりを調整していき、お客さまが好むディテールを伺って、スタイルとフィッティングを決めていきます。
須田 メーカーズシャツ鎌倉・新宿三丁目店は、洋服好きでシャツのことをよくご存知のお客さまが多い印象ですね。オーダーシャツは生地選びを楽しまれる方が多いです。
和泉 既製のシャツとオーダーのシャツを購入される割合はどうですか。
川田 そうですね。新宿三丁目店では7対3くらいです。オーダーシャツを好む方は、ご自分の趣味や嗜好性で、「着たい生地をオーダーする」という楽しみ方をされています。
和泉 コロナ前と現在では、お客さまに変化はありますか。
川田 コロナ前は、イージーケアや形態安定など、シワにならない機能性などを重視する方が多かったですが、最近はあえて綿100%の生地を選んだり、色やデザインにこだわる方が増えてきています。特に、いまオーダースーツが流行っているので、その「こだわりのスーツに合わせるシャツもこだわる」オーダーシャツも人気です。
須田 今回、川田と共にメンズ館で初めてシャツをオーダーしましたが、オーダーに慣れていないお客さまにはどうアドバイスされていますか。
和泉 私たちは常日頃シャツに携わっているので、着てみたい生地やスタイリングのイメージがありますが、初めてのオーダーのお客さまには、まず「どんなシーンで着るのか」を伺います。そのシーンやイメージが分かれば、作りたいシャツがほぼ決まってきます。そして次に、「どう着こなしたいか、どう見せたいか」を聞いて、襟型や色柄などを決めていきます。
川田 なるほど。そうしてオーダーシャツを着こなしていくうちに、次のステップの「既製品では見つからない生地で作る」になっていくわけですね。
和泉 そうです。それでオーダーが楽しくなって、沼っちゃうんです。(笑)
須田 では和泉さん、良い機会なので、メーカーズシャツ鎌倉でシャツをオーダーしてみてください!
<テーラーケイド>のスーツに合う、トラッドっぽいカジュアルシャツを
和泉 メーカーズシャツ鎌倉のオーダーシャツはどんな特徴がありますか。オーダーシャツのお客さまのデータをしっかりモノ作りに反映させていると聞きます。
川田 ありがとうございます。自分の手持ちのドレスシャツはほぼメーカーズシャツ鎌倉のオーダーですが、シルエットがきれいに見えて、細めに作っても窮屈に感じないフィット感が特徴です。日本人の体型の特徴を捉えて、「見えるところは細く、他の部分は分量をとる」のも鎌倉シャツならではだと思います。和泉さんもオーダーシャツをよく着ますか。
和泉 実は、自分は手が長いのでインポートシャツをお直しなしで着られるんです。国産だと手が短くて着られないので、インポートの既製シャツを愛用しています。今回は今日着てきた<テーラーケイド>のコットンスーツに合うシャツを作りたいです。
川田 メーカーズシャツ鎌倉では、まず生地を選んでいただきます。店頭に常時300種類以上の生地があり、生地によって価格は3段階になっています。次にフィッティングを行います。通常は、既製シャツの基準サイズを選び、部分補正で調整します。そして、iPadを使って、ボディ・襟・カフスのデザインと、ポケットや刺繍などのオプションを選んで完了します。スタイルは、スリムフィット・クラシックフィット・着丈短めのカジュアルの3種からボディデザインが選べます。
和泉 とても分かりやすいですね。生地は、このシアサッカーのタッタ―ソールチェックにします。これから夏に着るのにちょうどいい清涼感があって、スーツにはもちろん、1枚でカジュアルにも着られますね。スタイルはクラシックフィットで、ボタンダウンにしたいと思います。
川田 ボタンダウンなら、薄く芯地の入った「SPORT(スポート)」をお薦めします。長めの襟とやわらかい芯地が特徴で、ニットタイをしたときにきちんと感も出ます。
和泉 完成が楽しみです!
仕上がったシャツで三者三様のスタイリング
須田さん「こだわりが詰まったアイテムで、シンプルなコーデを」
和泉 シャツ、出来上がりましたね!須田さんから着用した感想を教えてください。ネクタイがぴったりですね。
須田 80番手のブロードの生地が思った通りの厚手で、今まで着たことがない感覚です。身体に沿って作っていただいたので、ボタンダウンですがきれいなドレスシャツになっています。
世の中に細いネクタイがないので、個人で「THE NARROW TIE」というブランドを立ち上げました。今日は、シンプルなネイビーブレザーに、白のブロードのシャツ、6.5cm幅のネクタイと、自分だけにしか分からないこだわりが詰まったスタイリングです。
和泉 ボタンダウンの襟の開きがカッコイイですね。Vゾーンはケネディっぽいです。
須田 6.5cm幅のネクタイに合うように、「襟先の幅」を1cm広げてもらい、ネクタイのノットの小ささと襟幅がきれいにマッチしました。“スーツにも合わせられるボタンダウン”だと思います。
川田さん「リネンスーツとネクタイとの相性抜群のシャツ」
和泉 川田さんは、「茶色のリネンスーツに合うシャツ」というオーダーでした。
川田 一番こだわった襟の収まり具合が理想的でうれしいです。レギュラーカラーに芯地が薄いプリントタイを合わせたかったので、細かく相談しましたが、収まりが良くて、一発でここまで決まるのはビックリしました。
和泉 まさに、ザ・ドレスシャツです。
川田 生地のタッチも良くて、肌触りが柔らかいので、満足度が高いです。
和泉「スーツ+シャツ+ニットタイで、アメトラが完成」
須田 和泉さん、メーカーズシャツ鎌倉のオーダーシャツはいかがですか。
和泉 <テーラーケイド>のスーツに合わせるシャツをオーダーしましたが、着てみてイメージ通りです。思った通りのクラシックな緩めのフィッティングで、今の季節にうれしい肌離れの良いシアサッカー素材。「こういう既製品があったらいいな」と思いますね。
川田 自分がお薦めした襟の「スポート」もきれいなロールが出ていて、正解でした。
須田 和泉さんのVゾーンだけ見ると、ウディ・アレンのような雰囲気です。
和泉 スーツの雰囲気を和らげるシャツとニットタイの遊び具合がちょうど良いです。
新宿の名店「新宿らんぶる」で、新宿の街の魅力を語り合う
和泉 メーカーズシャツ鎌倉・新宿三丁目店と伊勢丹はご近所ですが、新宿はちょっと歩くと街の様子や雰囲気が変わって面白い街ですよね。実は、僕は高校から新宿で、もう13年ほどこの街に通っているんですよ。
川田 13年も!そうなんですね。新宿はお好きですか。
和泉 何でもあるので好きですよ。西口はビジネス街ですが、三丁目や歌舞伎町はゴチャゴチャした繁華街で、鎌倉シャツの店がある周辺はちょっと丸の内ぽくて、御苑の方に行くと人がいなくて、緑が濃い。丸の内のような整然とした街が苦手なので、新宿は落ち着きます。
須田 僕は新宿は人が多くて少し苦手ですが、映画が好きなので、映画を観てから伊勢丹に寄って帰る街です(笑)。新宿は、角川映画に出てくるようなディープな街ですね。
川田 僕は純喫茶やカフェが好きなので、休日も来ます。新宿は仕事場でもありますが、多種多様な人がいて、そういう混沌とした感じが街の独特な雰囲気を作っています。
須田 自分は新宿の魅力を知らないだけかも知れないので、今度どこか面白いところに連れてってください。
和泉 御苑方面には、個性的で美味しい飲食店が多いので、ぜひ行きましょう!
趣味性や好みが詰まった三者三様のシャツ。オーダーの未来予想図は?
川田 コロナ禍が落ち着いて、オーダースーツからのオーダーシャツという流れは盛り上がってほしいですね。
須田 スーツを着る人が限られてきたからこそ、その人たちがコアになって、オーダーに行き着く、そして自分の趣味性を極めていくような時代になっていくと思います。
和泉 新宿はそういうコアな人たちが“クールな大人の趣味”としてオーダーを楽しむ街にしたいですね。
川田 多種多様な人がいる新宿だからこそ、ドレススタイルを楽しむ人ももっと増えてほしいです。
和泉 いわゆる大量生産・大量消費の時代から、生地や縫製のトレーサビリティにまでこだわるオーダーへの移行は、サステナブルとも関連していて、「思い入れのある一着を大事に長く着ることがサステナビリティ」という意識へと変わっていくはずです。
須田 確かに、「納得できるオーダー」は、必ず大事にします。
和泉 今回私たちが作ったシャツも長く着続けましょう。
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Photograph:Tatsuya Ozawa
Text:Makoto Kajii
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