【インタビュー】廃棄品の再構築によって新たなプロダクトと“価値”を創造する<GMKR>が、ポップアップストアをオープン! 未来志向のクリエーター、大橋秀吉とは?
- 05.18 Wed -05.24 Tue
- 伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
廃棄された家具などを、アートピースのような1点モノのスペシャルアイテムへと生まれ変わらせる───まさしく、“ゴミから”創造を行うブランド<GMKR/ゴミカラ>を手掛ける、大橋秀吉氏にインタビュー。5月18日から伊勢丹新宿店メンズ館1階にて行われるポップアップストアでは、いったいどんなクリエーションと出会うのだろうか? そして、大橋氏が<GMKR>というプロジェクトに込めた想い、立ち上げのきっかけや未来への展望などについて話を訊くため、都内にある大橋氏のアトリエに伺った。
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
100点を目指さない、不均一でいいという価値観
誰もが思わず立ち止まり、目を奪われてしまう椅子やオブジェ。装飾としてのアートとも実用としてのインテリアともつかない、だが確かにどれもが唯一無二の圧倒的存在感を放つプロダクトの数々は、すべて廃棄家具や余剰品を分解、再構築することにより再生されたものだという。ダンサー、舞台俳優、会社員、起業家など、波乱万丈なキャリアと道を切り拓き、現在<GMKR>というプロジェクトに邁進しているクリエーターの大橋秀吉氏が目指すのは、単なる家具のリユースやリメイクといった類のビジネス、あるいは環境保護活動ではない。その本当の狙いは、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)という新たな“生態系”へと舵を切る転換点である現代において、“UNEVEN STRUCTURE(不均一な構造)”という新しい価値を提案することだ。
「小さな頃から、“EVEN(均一)”ってすごく問題があるなって感じていました。みんながみんな“均一”な100点を目指して、結果80点や90点の人生を送るけど……、そもそもそのゴールって、大量生産のマスプロダクトとなにも変わらないじゃないですか。だから僕は、不均一であってもいいと思う。不均一な人生って最高だよね、ということを言いたいと思ってずっと生きてきました」
舞台から遠ざかり、バックパッカーや会社員を経験したものの、その間ずっと人生の悦びを感じられずにいたという大橋氏。ただ純粋に好きで、楽しいというだけでダンスや芝居に夢中になっていた頃の気持ちを取り戻すために挑戦したのは、自らの事業を立ち上げることだった。
「最初は伝統工芸の職人と老舗と大手セレクトショップを繋いだり、法人向けドリンクバーを運営したり……。でもどこかしっくりこないと感じていた矢先、たまたま友人に呼ばれて参加した農林水産省の勉強会で出合ったのが、サーキュラー・エコノミーというものだったんです」
初めて耳にしたその言葉に「ビビッときた(笑)」大橋氏は、サーキュラー・エコノミーが社会実装された未来の姿をはっきりと認識。衣食住のさまざまな現場をリサーチしたという。
「“衣”をやるには生地や縫製などさまざまな専門家の助けがいるし、“食”をやるには場所や免許が必要。でも”住”、それも家具という分野なら、自分ひとりで作り上げることだって可能ですよね。自分は舞台や脚本という“ものづくり”に近しいアート的な活動をしてきたし、助けてくれる人との出会いもあった。コレならやれると感じました。また、やってみてようやく分かったんです。僕が本当に夢中になれるもの、それは”ものづくり”なんだと」
ヴィンテージという魅力、リメイクという付加価値を孕みつつ、実は不均一でいい、不均一であるからこそ素晴らしいんだという価値観を伝えるメッセージとして、大橋氏は“UNEVEN STRUCTURE”な”ものづくりプロジェクトである<GMKR>を立ち上げるに至ったのだ。
アーティスト・永井誠治氏とのめぐり逢い
“ものづくり”への道へと進もうとする大橋氏の背中を押した、大切な人との出会い───。つまり伝説的ヴィンテージショップ『DEPT』の創業者でありアーティーストでもある、永井誠治氏との知遇を得たことは、運命的なものだったと言えるだろう。「当時世田谷にあった(永井)誠治さんのギャラリー兼店舗の前をたまたま通りかかったら、ぶっ飛んだアートがいっぱいあったんですよ(笑)。横尾忠則さんとか澁澤龍彦さん、金子國義さんとか。ぼくは元々アングラが好きだったので、初めて誠治さんの作品を見た時は血が湧きました(笑)。その時お店にいた島(武実※)さんに自分の感動を伝えたところ、後日、誠治さんを紹介していただけることになったんです」
その後、大橋は先述したリサーチを繰り返しながら、思いついたアイディアをぶつけたり、意見をもらったりを繰り返したとのこと。
「そのなかで、誠治さんが制作した椅子に衝撃を受けたというか、改めてその凄さを発見したんです。それから家具に集中することを思いつきました。最初の1脚目は誠治さんの家に持って行って一緒に分解したんです。それからどうやって作り上げていくか技術面や考え方のアドバイスをもらったりして……。だから誠治さんがいなければ、<GMKR>は生まれていません」
2021年、満を持して<GMKR>をローンチした。<GMKR>は、廃棄家具を分解し、音楽や文学などの“芸術”と、偶然性や神秘性の象徴としての“神”の力によって再構築された、“Uneven Structure Furniture(不均一な構造の家具)”を創造するブランドなのだという。
昨年秋に開催された初のポップアップショップでは、およそ半年掛けて作り溜めておいた作品30点が完売。このまさかの大反響は、大橋氏自身にとっても、また永井氏にとっても驚くべき出来事だったそうだ。
<GMKR>のポテンシャルを実感し、さらに創造性と技術に磨きを掛けた大橋氏は、表現の幅を大きく広げた。以前は椅子ばかりだったという作品には、オブジェや掛け軸などの斬新なアイテムが加わっている。
「その後も展示会には必ず来てくれる誠治さんが、『最近すごく良くなってきている』って、褒めてくれたんです。なんか初めて褒められたような気がするんですよね(笑)。自分でもなんとなく、自分が求めてきた“何か”が、見つかりつつあるような感覚があります」
心に触れ、人を幸せにする<GMKR>の作品
そんな大橋氏と<GMKR>の、最新のクリエーションがギュッと凝縮された空間となりそうなのが、今回のポップアップストアだ。大橋氏がコツコツと作り溜め、またこのイベントのために特別に制作されたプロダクトを含めた傑作ばかりが、一堂に会する非常に貴重な機会だ。「今回のテーマは、“RESURRECTION(復活)”。これは僕にとって常に中心的なテーマであり続けてきたものなのですが、改めて元を辿れば、それは<GMKR>をローンチする前に、知人の小説家・吉本ばななさんとの会話の中での気づきでした」
「捨てられたモノって、なんかモヤがかってますよね。それを“祓う(はらう)”感じに、いちばん興味があります」と語ったという、吉本氏。この「モヤを“祓う”」という表現に、大橋氏は強い感銘を受けたのだった。
「確かにその通りなんです。廃棄物を分解、再構築する作業のなかには、それまで言葉にすることができないでいた“何か”があると感じていました。“祓う”という言葉を見つけられたことで、単なる“RESTRUCTURE(再構築)”が“RESURRECTION(復活)”へと限りなく近づいた。“祓う”を内包したと言った方が、より正解に近いかもしれません」
折しも<GMKR>の創設1周年というタイミングで、大橋氏はこの“RESURRECTION”をテーマのど真ん中に据え、製作したプロダクトは独創的でありながらどこか神秘的である。
「ウチの子どももアトリエにくると、『怖い』って言うんですよ。でも僕は誰かを怖がらせたいわけではなくて、世界に裏面があったとして、そこに潜んでいるような“不可思議”を感じてほしいだけ。イセタンのお客さまのような、最先端のファッションを望む方たちに。あとは、<GMKR>の椅子に座っている人には、やっぱり幸せになってほしい。ラッキーになってもらえるように一所懸命祈りながら作ってるんです」
進化する<GMKR>プロジェクトと、循環する廃材たち
「そんな僕の作品が家具なのかアートなのかと問われたら、『半々です』と答えるしかない。<GMKR>の椅子は椅子の部材を使って作られているので、家具として“座る”という機能性は備えています。もちろん表現としてはアートの領域にあることも分かっているのですが、市場での人気と値段によってモノの価値が決められてしまうのが嫌なんです。だから、“家具”っていうことにしています」大橋氏はそのすべての作品を、「学生でも頑張ってバイトしてお金を貯めれば購入できるくらい」の、6〜10万円程度という値段設定にしている。その存在感とオリジナリティ、デザイン性の高さから考えれば、かなりお買い得と言えるだろう。新ブランドとはいえすぐに完売してしまうのも納得だ。
作りの良い古い家具は、たとえ壊れていても優れた部材の供給源となることも。<GMKR>というプロジェクトは、家具そのものだけでなく、使われている部材ひとつひとつの価値に光を当てたと言えるのではないだろうか? すでに多くの人から新作が待ち望まれるクリエーター、ブランドとなった、大橋秀吉氏と<GMKR>。最後に、これからの展望や将来の夢を尋ねてみた。
「僕がこのプロジェクトを<GMKR>というブランド名にしたのは、僕個人だけが名を知られて、僕が作ったものでなければ売れないという状況になるのが嫌だったから。だから将来的には、他のメンバーや新しい参加者が作っても納得してもらえるブランドにすることを目指しているんです。来年くらいには、ここよりも大きいスペースに移って少人数のメンバーで価値観を共有しながら、最高の“ものづくり”ができる体制を整えたいと考えています」
再生家具プロジェクトの成長戦略に加え、起業家やアーティストをどんどんサポートしていきたいというその想いの裏には、やはり永井氏をはじめ自身をサポートしてくれた人々への感謝、社会貢献に対する使命感があるのかもしれない。
「僕自身が、誠治さんからやってもらったことだから。今度は僕が、他の誰かにやってあげるというのが、いいんじゃないかと思うんですよ」
手助けの連鎖は、正しい循環型社会のあり方だ。大橋氏と<GMKR>は、その活動を通じて社会をより良く“再生”させる可能性を秘めている。まずは完売間違いなしの廃材から生まれたアートな家具の、あっと驚くデザインと幸せな座り心地から、確かめてみてはいかがだろうか?
- 開催期間:2022年5月18日(水)~5月24日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
Text:Junya Hasegawa(america)
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