【インタビュー】<cantate│カンタータ> 松島紳氏が紡ぐモノ作りへの自信と覚悟
公認会計士を目指し、進学先を一橋大学に定めながら「若いうちにしかできないから」と服飾の道へ進んだ松島紳は、不思議な魅力ある人物だ。25歳で立ち上げた<カンタータ>は、業界人にもファンが多いことで知られる。「こだわり派」「理知派」とも評される本人は、古着に造詣が深くウエスタンブーツの愛用者であり、「衣食住にしか興味がない」と公言している。「靴下をすべて同じブランドと同じ色で揃えているのは、洗濯した後で組み合わせる余計な時間をとられたくないから」と言う話は、いつも同じ服を着ていたジョブスやザッカーバーグを思わせ、すべてに於いて迷いの無い言葉を紡ぎ出す。
「一日の食事は夕食しかとらないです。その代わり、何曜日にどこの店で何を食べるかまで決めています。そうすることで、お店側も僕が何を食べたいかわかってくれますし、深い関係が構築できるから。僕も聞きますよ、どこで採れた食材を、どう調理しているのか。そういう知識が深まれば、食に対する満足感が増して、なぜ美味しいかが理解できれば服作りにも生かすことができると思うんです。」。「作り手」という意味では、服も食も通じ合うのだろう。
追求すること、歯がゆさ、そして緻密な計算
「基本的に何にでも興味を持ちます。必要な知識は、とことん掘り進める性格なので。興味を持ったら、寝る時間を惜しんでとことん調べるんです。もしいまわからないことがあっても、明日の朝までには誰よりも詳しくなっていたい。知らないことはあっても、知っていることは誰よりも詳しくありたいんです」。そう話しながら、ラックから一着のモッズコートを取り出して、フロントステッチをなぜ3回縫いにして、カンヌキ止めを使っているのかを話し始めると、話は糸にまで及んだ。「コーデュラナイロン35%の混紡糸は、60/40(ロクヨン)クロスの歯がゆい部分を解消したかったからですが、面白おかしく話すのは、伝えたい相手の記憶に残ってほしいから。人が覚えていることって感情が動いた瞬間のことなんです。」と、こともなげに話す。彼の服作りにおいて、“歯がゆい部分”というのがポイントになっており、ここを解消していくために、大量の知識から糸の性格を把握し、緻密に計算され、仕上げられていたことに気付かされた。
糸から作り始めるシーズンコレクション
コレクションはすべて松島氏が糸から計算したものだ。「糸が何番手かは見ればわかる。」と語る松島氏は、豊富な知識・経験と確かな自信があるからこそ、“糸”から、組み立てていくのだ。厳選された内容であることは、製品化されないサンプルが一着もないことからも伺える。「作ろうと思えば100でも200でもサンプルを作ることはできます。しかしそれはあまり意味のあることとは思えません。サンプルは一点でもドロップしたくないんです」。そう話す松島氏がこの日着用していたシャツのカフスが、1㎜単位の縫いの技術で物語っていた。
バンドカラーシャツは今年の新色。「超長綿ギザコットンを60番手に引き単糸使いにして、経緯の糸の本数まで指定して織り上げたオリジナルの生地を使ったものです。糸は毛焼き加工することで毛羽を抑え、縫製は折り伏せ縫いにしています。ほら見て、アームホールのパッカリングが全体に出ているでしょ。これって肩周りを伏せるときに生地端が重ならないように縫い代を突き合わせにしているからなんですが、肩の可動域が広くなって断然動きやすいんです。」
当たり前だが、毎日着たいシャツと思えるシャツには、日常の動きの中から“歯がゆさ”をなくすための工夫が随所に見られる。後ろ側が長い点も前にかがんだ際の体の動きも踏まえて計算されたデザインとなっており、糸の性格を把握してるからこそ洗っても毛羽立ちにくい生地を糸から組み立てられているのだ。ハリコシのある肌ざわりの良さは柔らかくサラっとした着心地で、一度袖を通すと他の色も揃えたくなるほど、無意識のうちに魅了されていく。
また、この春夏シーズンで展開となる開襟シャツは、同ブランド初となる半袖のシャツ。ポケットを少し低めに配置し、身幅、袖回り全てが一番良いバランスで仕上げられており、裾の部分がはねないようにもしていると語る松島氏の頭の中には、完璧な全仕様書が入っているからこそ作り上げられたシャツであると実感した。
家族のような職人たちと、本当にいい服を作りたい
「シーズンテーマは設定していません。どういうふうにコレクションを作っているか? 色柄には、そのときの空気感を取り入れますが、デザインは友人や知人が、こんな服欲しいなといったことを覚えておいて、それを作りたいと思っています。自分が着たい服というより、誰かが着たい服を作りたいんです。今回、伊勢丹限定でつくられたTシャツのオリーブグリーンカラーは、インラインにない色。友人でもあるバイヤーの稲葉氏に似合うだろうなという色を選んだものなんです」さらりと話すが、マーケットの動向を気にするデザイナーが多い時代に貴重な言葉だ。「デザイナーというよりディレクターでありたい」と言った理由も理解できる。
「国内生産にこだわるブランド」と書かれることも多いが、国内生産にこだわってモノ作りをしているのではない。自分の理想のモノ作りを目指すため、目の届く工場で生産したほうが、納得いくモノづくりができることは明らかだ。生活水準や文化、食生活までも異なる海外で作るのとは、絶対に伝わらない空気感までも共有できることを理解している。
「作る人の顔が見えるからこそ、いいものが作れる。工場の人たちとは家族のような付き合いなんです。彼らも僕のことを仲間だと信じてくれているからこそ、難しい仕様やこだわりたいところも理解してくれる。松島ならきっとこうするだろうと、わかってくれているんです」。
付き合いの深い協力工場はどれも、自らの足で見つけてきたところばかり。選んだ基準は「技術力ですね」と松島はさらりと言うが、その言葉の裏には強固な信頼を感じた。「小さな工場ですけれど、彼らの生活を背負っているつもりです」と呟くように口にした。
「自分の服には自信がある」と真顔で話すのは、努力では勝てない圧倒的な夢中があるからだ。作る覚悟と、それを支える知識と技術。すべては一朝一夕ではなく積み上げてきたものだ。すべてを、このアトリエでひとり闘っている姿に「仕事量が多すぎませんか?」と水を向けると「でもそれはモノを作る人なら当たり前じゃないですか」と凛と返された。しかし「来世、生まれ変わったら和食の料理人になりたいですね。服屋はもういいや」と表情を緩めたとき、ほんの少し繊細な本音を覗かせた。
3月3日(水)メンズ館1階 セーター・カジュアルシャツコーナーでのトータルプロモーションが展開される。シャツのみならずコートやパンツ、フルコレクションが展開される。本人と言葉を交わせば、この服がより理解できるに違いない。
- 開催期間:3月3日(水)~3月9日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 セーター・カジュアルシャツ
- 松島氏来店:3月6日(土)7日(日)10時~7時 (※都合により来店予定が中止、または変更、時間帯により不在の場合がございます。予めご了承ください。)
【店舗情報】
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Text:Yasunobu Ikeda
*価格はすべて、税込です。
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伊勢丹新宿店 メンズ館1階 セーター・カジュアルシャツ
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