【イベントレポート】真の靴磨き世界一の栄冠はあの男の手に
ロンドンを皮切りに日本、スウェーデン、ロシアへと広がった靴磨きの大会は靴好きのあいだではすっかりおなじみとなったイベントであり、シューシャイニング・チャンピオン・オブ・チャンピオンはそれぞれの歴代チャンピオンのなかから真の世界一を決める大会である。
チャンピオンが集結
観覧席は予約の段階であっという間に埋まった。そして当日は抽選に漏れたその何倍もの靴好きが立ち見で世紀の一戦を見守った。
大会にのぞんだのは次の6人だ。
靴磨き世界選手権大会初代チャンピオン長谷川裕也(Brift H、東京)、第2回チャンピオン、ジョン・チャン(Mason And Smith、シンガポール)、第3回チャンピオン杉村祐太(Y’s Shoeshine、静岡)、靴磨き日本選手権大会の初代チャンピオン石見豪(TheWay Things Go、大阪&東京)、靴磨きロシア選手権大会チャンピオン、アントン・ツイピン(Para v Poryadke、ロシア)、靴磨きスウェーデン選手権大会チャンピオン、ミカエル・ハッカンソン(Magic Shoe Company、スウェーデン)。
競技は3足の靴をそれぞれ制限時間15分で磨くというもので、ブラシ5本とクロス以外は公式グッズから選ぶ。審査は8人の審査員の評点にオーディエンス点を加える方式を採った。
制限時間15分は靴磨き日本選手権大会よりも5分短い(ちなみに靴磨き世界選手権大会は片足で20分だ)。鏡面磨きは手慣れた人でも1時間かかるといわれており、それがいかにハードルの高い設定であるかがわかるが、同大会ではさらなるハードルを設けた。なんと、カーフに加え、コードバン、グレインレザーというじつに難易度の高いレザーを2足目と3足目に選んだのである。これらをたった15分で磨き上げるのは、歴戦の強者といえども至難の技。
会場の温度もあげた一発勝負
競技がはじまると、観客は固唾を飲んでその一挙手一投足を見守った。会場には数百人はいたはずなのに、耳に届くのはクリームを塗り込む音、ブラッシングをする音ばかりだった。
磨き上がった靴の美しさもさることながら、磨き方がまた興味深かった。下地を指で塗るのは一緒だが、人差し指一本の日本勢に対し、海外勢は数本の指を使う。クロスや山羊毛ではなく、脱脂綿のみで仕上げる挑戦者もいた(解説者によればその磨き方は一部のマニアのあいだで注目を集めているという)。磨き方は十人十色だったがその動きは一様に無駄がなく、美しい。何千足も磨いてきたシューシャイナーだけがたどり着くことのできる領域である。
ただひとつ、いつもの技と違ったのは、司会者が「早送りのようなスピード」と形容するほどシャープな動きだった。熱気が会場を満たしたのだろう。1足目が磨き終わるころにははやくも「冷房の温度を下げてください」と司会者が叫んでいた。
この大会の厳しさは参加者のコメントにもにじみ出ていた。曰く、「フルマラソンというよりも、短距離走を走り続けている感じ」、「腕がパンパンになった」──。
はたして優勝を飾ったのは、長谷川裕也。靴磨きという職業を日向に引っ張り出した張本人であり、終わってみればもっともな結末だった。しかしそれにしてもセンターが似合う人である。写真に収まる顔は誇らしげだった。長谷川は“もっている人”なのだろう。
盛況裏に幕を閉じた当大会は数年後を経てふたたび開催される予定だ。今後、それぞれの国であらたに誕生したチャンピオンが頂点を目指して日本に集う。どのような戦いが繰り広げられるのか、いまから楽しみでならない。
Text:Kei Takegawa
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