【特集|インタビュー】真の都市機能服を創出、<TEÄTORA/テアトラ>上出大輔のモノづくりの姿勢。
「都市生活における、圧倒的な1型を生むために、まずは必要な機能を整理することが開発の出発点です。現代の実生活を想定しながら、構想を練り、時間に縛られることなく、試作、検証を何度も繰り返していく。展示会までに完成品が間に合わず、ときに新作が登場しないシーズンがあるのは、そのためです」
アイテムによっては1年以上を費やす新ウェア開発。半年に一度コレクションを発表する既存のアパレルのプロセスから脱却することで、圧倒的な1型を生み出すサイクルを構築した。では、圧倒的な1型とは、具体的にどのようなものか。ブランドの核となる“機能性”と、独自の哲学に迫る。
「そもそも、テアトラでは、“品格”を最も重視しすべき“機能”と捉えています。目上の人に会う際に、必要な役割を果たすものになっているか。ここから逸脱するものは、いくら優れたスペックでも、我々の考える完成品にはほど遠い。ただ、“品格”とは、一概に、ものさしで測ることができない。そのため、都市生活のさまざまな体験を通じて、その計測方法を探っていくのも私の役割です。
「アウトドアウェアが、実際にアルピニストから収集したデータを製品開発に生かすように、そのフィールドを都市に置き換えた作業を日々続けています。その結果、まわりからは“ミニマムなデザイン”とよく言われますが、その表層的なシンプルさを出すことが目的ではなく、服に匿名性を持たせることで汎用性を上げることができると考えています。これを満たした上で、ケアの手軽さや着心地といった、他の二次的な効果を創出していきます」
「また、開発に取りかかる際には、本当に必要な都市機能かの検証も欠かしません。例えば、機能服の代表に挙げられるレインウェアを展開しないことにも、私なりの理由があって…。雨の侵入を防ぐ完全防水機能をウェアに備えると、それと引き換えに透湿性が失われてしまいます。そのため、雨は防げても、ウェア内は汗でジメジメということが起こるわけです。山での生活とは違い、都市生活において雨の日に傘をささないのは考えにくい。そうなると、優先すべきは透湿性や通気性となるわけです。このように都市で必要なスペックを整理して、“真の機能”を求めていく。冷暖房が当たり前の都市生活においては、外気温と室内の温度差が激しく、ある意味、雪山やジャングルより激しい環境に身をおいていると言えます。そう考えると、“機能服=極限状態に耐える服”とは一概には定義できない。こういった日々の“気づき”と真剣に向き合うことが創造の源になっています」
そして、今年開発されたのが、新型のダウンベスト。女の人の肩掛けするショールのような暑さを調整する機能服として、シーズンを問わず取り入れられる仕上がりになっている。
「いわゆる、アウターとしての冬用の防寒着ではなく、身を置く状況に応じて、防寒も通気もできるショールのような“調整着”という捉え方が正しいかもしれません。ほどほどに温めて、暑い時は空気を取り込めるよう極端なオーバーサイズに。例えるなら、暖房を効かせた部屋に、換気用の大きな窓が付いているイメージです。コートの中にセーターを着込んだスタイルで、暖房の効いた室内に入ると、どちらかというとインナーのセーターを脱ぎたいということがありませんか。実際は、コートを脱いで、多少我慢すると思うんですが、そんな状況を回避できるのが、この一着です。フロントボタンを外せば空気がウェア内に流れ込む設計で、世のダウンベストとは用途が違うものになっています」
何層にもわたる“思考”と“試行”の積み重ねが、テアトラのウェア開発のプロセス。素材選び、デザインに加え、さらに人の心理的な要因にいたるまで、多岐に渡り、“機能”が張り巡らされているのもテアトラらしさ。今年、フルリニューアルしたパッカブルシリーズのスーツは、特に象徴的なものだ。
「例えば、時計ひとつにしても時間を知るという目的だけなら、どんなものを身につけても良いわけです。車なら、場所を移動するのが目的。ただ、ものを選ぶときには、自分の好みはもちろん、どういう相手と接するか、自分がどういう存在に見られるか、という心理的な要因が働きます。スーツにおいても同じ。今は、ジャケットを羽織れば、インナーがTシャツでも失礼に当たらなかったり、許容が広がっていると思うんです。これまでの古典的なルールとは違う、果たすべき役割こそ、都市的な機能と考えています。そういった意味で、まだ世の中に送り出せていないのが、靴。現状の選択肢は、カチッとした革靴か、楽できるスニーカーやスリッポンくらい。都市生活者と向き合うテアトラとして何ができるか、これから時間をかけてゆっくり考えていきたい」
ひとつひとつの真摯な積み重ねの結果、生産背景からの協力体制を得られるようになり、都市機能を探求できる環境がさらに整ってきたという。次に何が生まれるか、それは圧倒的な一足か、楽しみに待ちたい。
Text:Keiichiro Miyata
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