『LEON』が開拓した“イタオヤスナップ”という文化




石井洋(『LEON』編集長)
フリーのファッションエディターとして多くのメンズ誌に関わった後、2002年から主婦と生活社『LEON』のスタッフエディターに参画。以後、LEON一筋で、2017年には第4代編集長に就任。2018年からは、LEON.JP編集長も兼任している。


ピッティ会場でのスナップは、スコット・シューマンより、『LEON』のほうが早かったんじゃないかな。『THE SARTORIALIST』が2005年で、『LEON』の創刊が2001年。創刊直後からピッティレポートを掲載しているので。当初はイタリアのリアルなオヤジさんのファッションスタイルを、検証画像というか誌面要素のひとつとして扱っていたのですが、10年ぐらい前から別冊として『SNAP LEON』をスタートさせました。もうすぐVol.22がでます。


ピッティでのファッションスナップ撮影を文化として定着させたのは『LEON』だと思います。いまでは多くのブロガーやインフルエンサーが、プロが使うようなカメラ構えてあちこちでパシャパシャやってますけど、会場の中庭で長玉(*望遠レンズ)構えてスナップ撮影を始めたのは、間違いなく『LEON』ですね。初めの頃は「なに撮ってるんだ!」なんて、凄まれたりしたこともありましたが、最近は「俺のこと撮らなくていいの?」なんて、向こうからやってくる。『LEON』にスナップを撮られることは、お洒落の烙印を押されるようなものですから、撮られたい人がずっと中庭でうろうろしているのも『LEON』がスナップを始めてからのことなんです。ピッティ協会から依頼されて、メインパビリオンでスナップ写真を展示したことも。『LEON』っていう名前が知られるようになって、取材もやりやすくなりましたね。

ブロガーやインスタグラマーのピッティスナップは単発ですが、『SNAP LEON』の場合、何年か前から見ていくと、流行の移り変わりが文字通り手に取るようにわかります。わかりやすくアイテムごとに編集しているからというのも理由の一つですが、ずっと同じことを定点観測しているからビッグデータになっているんです。だからトレンドの大きな流れがわかるし、次が予測できたりもする。誌面づくりにも、とても役立っています。


いまストリートファッションが流行っていますが、ここにくるまでゆっくりゆっくり浸透していったことがスナップからわかると思います。ワンシーズンでも少しずつ変わっているし、何年か通して見てみると確実に変わってきている。ジャーナリストが「今年のピッティは変わり映えしないなぁ」とか言ってるのを聞くと、見る目がないなって思うことも。

メンズクラシックって変化がゆっくりだから、去年の提案を今年も受け入れられるし、今年のトレンドは来シーズンも有効なんです。ピッティで流行ったアイテムは、次のシーズンでも廃れない。そこが良いところだし、強みでもある。『LEON』は大人の“カッコいい”ことをずっと追いかけているので、そういうサンプルをいっぱい参考にした誌面づくりをしています。


僕自身の個人的な話しをすると、若い頃ストリートとかモードとかの洗礼を受けて、クラシックなんて全然知らなかった頃に『LEON』に参加して、はじめてのピッティ出張ではクラシコブースに入るのすら躊躇われたことを覚えています。周りは隙のないスーツ姿で、ちょっと敷居が高くて、逆にそれがカッコ良かった。いい意味でバリアを張ってるように見えたんです。イタリアオヤジのスーツのカッコよさは、日本で見るサラリーマンのスーツ姿とは別物で、そこに憧れて自分でもカッコよくスーツを着られる大人になりたいと思ったことが、僕の編集者としての原動力のひとつになっていると思います。

友人でもあるお洒落上手なイタリアオヤジたちが毎回伊勢丹メンズ館にやってきます。彼らと再会できるのも、このイベントがあればこそ。とても楽しみにしているんです。22日には、僕と稲葉バイヤーとのトークショーもありますので、ぜひ遊びにきてもらえれば。僕がリアルに経験したピッティの事、もっとお話できると思います。



▼ 1. 稲葉智大(三越伊勢丹バイヤー)
▼ 2. 高田朋佳(「コロニークロージング」クリエイティブディレクター)
▼ 3. 広瀬未花(モデル・タレント)
▼ 4. KING MASA 
▼ 5. 石井洋(『LEON』編集長)