あの会場の空気を、そのまま持ち込みたかった
ピッティはメンズクロージングの一大祭典。それは間違いないのですが、世界最大級の紳士服見本市とは言っても、本当に知っているのはほんのひと握りのファッション業界人だけで、大多数の方はピッティなんて、その名称すらご存じないと思います。僕自身、毎回会場を訪れるたびに、その熱気に圧倒されそうになっています。
そんなピッティ会場の熱気を、日本で体感してもらいたいという思いから始まったこのイベントも、今回で12回目を迎えました。内容も充実してきて、会場ブースの装飾やディスプレイをそのまま持ち込んだり、スナップの常連でもあるブランドディレクターやオーナーが来日して実際に接客にあたったり。期間中はメンズ館内に、フィレンツェさながらの空気を感じていただけます。9月21日(土)と22日(日)は、特別に売場でお客さまにお飲み物を振る舞うのも、ピッティ会場のケータリングサービスをイメージしました。多分、イタリア人たちも普通にお酒飲んで接客するかもしれません(笑)。
ふと、ピッティって何だろうってことを振り返ってみたんです。会場をそれっぽく装飾して、イタリア人が店頭でお買い物のアドバイスをしてくれるとか、買い物しながら飲食できるとかっていうシステムを体感することがピッティなのかなって。たしかにそれも日本にいては体感できないことだけれど、本当に伝えたいピッティとは、その"空気感"です。それは普段日本で買い物しているだけでは、決して体験できないものです。
ピッティ会場でイタリア人たちは、いつスナップされてもいいように、立ち方やポケットに手を入れる様子を気にしたり、チーフの形を直したりしながら、ずっとお喋りしてるんです。商談に訪れてもしばらく世間話ばかりしていて、いつまでも仕事の話しになりません。ようやく真面目な話しが始まったと思ったら、ランチタイムだからと食事に誘われるなんてこともしばしば。戻ってくると次のアポイントのお客さんが待っているのに、まだ僕たちの買い付けが終わっていないからと待たせたまま、きっちり対応してくれます。夕方、会場を後にしてホテルに戻る途中、たまたま方向が一緒だった某ディレクターと、途中でカフェでエスプレッソでも飲もうってなって、そこで思いつきで別注企画の相談をしたら、その場で大きな話しがまとまったことも。夜の会食の席では、ずっとバカ話しで盛り上がっていたのに、急にアイデアを思いついたからとペーパーナプキンの裏にデザインを描き始めて、それが実際次のシーズンのテーマになったりすることもある。彼らは真面目なんだか、適当なんだか、いまだによくわからないです。
ただ確実に言えるのは、みんなファッションが大好きで、この仕事を愛していて、そして誇りを持っているということ。ピッティ会場にいる人全員、それだけは絶対譲れない人たちばかりです。だから、このジャケットに合わせるシャツはどれがいいか、ネクタイはどれを選ぶべきなのか、靴は? ポケットチーフは? どんな相談にも必ず的確に答えてくれるし、新鮮な提案をしてくれます。
PITTI IMAGINE UOMO@ISETAN MEN’Sには、お客様自身がバイヤーになったつもりでいらしていただきたいです。イタリア人たちと軽く飲みながら、ファッション談義に花を咲かせれば、ピッティ会場で僕が味わったのと同じ空気感がわかるはずです。作り手から直接話しが聞ける、本当のDtoCという貴重な機会は、なかなかないはず。僕自身も楽しみたいと思います。いつもピッティでは、分刻みのスケジュールで忙殺されているので。
▼ 1. 稲葉智大(三越伊勢丹バイヤー)
▼ 2. 高田朋佳(「コロニークロージング」クリエイティブディレクター)
▼ 3. 広瀬未花(モデル・タレント)
▼ 4. KING MASA
▼ 5. 石井洋(『LEON』編集長)