【特集】ナポリの名匠を訪ねて|Vol.1 完璧を目指した男
クラシックを極める者、あるいはその伝統を受け継ぎながら今の時代に合わせて新たなチャレンジを行う者、アプローチはさまざまだがモノづくりへの姿勢や一針一針への秘めた思いは強い──本稿は2019年1月に、イタリア・ナポリを訪れたメンズテーラードクロージング担当の稲葉智大と口元勇輝の取材記録。繊細な手仕事を介してはじめて完成する"ナポリ仕立て"にスポットを当て、そこに関わる人々やプロダクトの陰に潜むストーリーに密着した。
第1回は、<Alfonso Sirica/アルフォンソ・シリカ>。常に完璧を目指す正確無比な仕事で知られる男の工房を訪ねた。
一番大事なのは「スタイルを持つこと」、そのスタイルは、確固たるもだった。
イタリア・ナポリ近郊のサン・ヴァレンティーノ・トリオという町。アルフォンソ・シリカのスーツはここから生まれる。
自宅を兼ねた彼らの工房に訪れ、まず驚かされたのが、この手のサルトにはあるはずの無いCAD*を備えていたことだ。ナポリのサルトには通常、このシステムは存在しない。生地に直接チョークでパターンを描く行為こそ、真のナポリ仕立てだと考えられているからだ。では、なぜシリカでは、あえてCADで製作した型紙を使用しているのだうろか。
「答えは簡単、顧客の要望には常に正確かつ完璧に応えていく必要があるからさ」。そうシリカは云った。
*「Computer Aided Design」の略。従来手作業だった型紙製作をコンピューター上で行うことが可能な設計ソフト
そもそも裁断、芯据え、縫製とスーツを仕立てる工程の中で、微差ながら寸法に狂いが生じること多少なりとも発生する。この各工程の中で生じる微差を埋めていくのが、上掲のCADにより残された型紙の存在とプレス作業のひと手間だ。
実際に工房にいると何度もアイロンでプレスしている姿も確認出来た。型紙に合わせてズレがないかチェックしている姿もある。なかには一日中プレスをしている職人もいるほどだ。CADを導入した最大の理由がわかった瞬間でもあった。
シリカは云う、「なぜこんなに素晴らしいモノがあるのにみんな使わないのか不思議さ」。と。
完璧を貫く姿勢は、平面的な作業からすでに始まっていたのだ。
一見マシン縫いと見間違えるほど、丁寧で真面目な手仕事にも驚いた。
シリカ本人も自身のことを「誰よりも几帳面な性格だ」と笑うが、工房のいたるところに整然と置かれている生地や糸を見れば、誰しもがその性格が伺い知ることができるだろう。
時間を掛けても丁寧に、そしてすべて自分の目の届くところで完結させたい。彼が要所で製品をチェックし、修正を入れることも常だという。ナポリでは外注に出されることが多いといわれるといわれるパンツの製作もすべて、自身の工房で行っていたのは、そのためだ。
完璧を追及するが故に、生まれた彼独自の仕様も存在した。例えば、完璧な柄合わせを試行錯誤した結果生まれた背中心の切れ目をなくしたことも一つ。着心地を最優先するために、極限まで薄い芯地を選ぶのも彼のスタイル。個性が強いナポリ仕立ての中でも独自のセンスが光っている。
息子であるファビオ(写真右)がCAD技術を習得、顧客の正確な型紙を作成。その型紙をアルフォンソ(写真左)本人が正確に裁断し、正確な芯据え、のちに縫製を一か所で行う。
この春、イセタンメンズでデビューした<アルフォンソ・シリカ>だが、シリカ本人を招聘したオーダーイベントが、3月16日(土)・17日(日)の2日間限定で開催される。ここに合わせて並ぶレディメイドのスーツは、新たな型紙で製作、背幅に若干のゆとりを入れ、芯地も出来る限り省き着心地を良くするためにアップデートを施した。ハーディミニス社のフレスコ生地を使用しながらも、極上の着心地が味わえるのは、そんな仕立てを実現しているからに他ならない。
イベント情報
<アルフォンソ・シリカ>オーダー会
□3月16日(土)・17日(日)
□メンズ館5階=メンズテーラードクロージング
オーダー詳細
■価格:コート378,000円から、スーツ378,000円から、ジャケット324,000円から、パンツ75,600円から、ジレ75,600円から
■お渡し:約6カ月後
*価格はすべて、税込です。
Text:ISETAN MEN'S net
お問い合わせ
メンズ館5階=メンズテーラードクロージング
03-3352-1111(大代表)