【インタビュー】<R.PIERI/エッレ・ピエリ>マウリッツィオ・ノォットリ |世界最軽量のPVCをまとったバッグ(1/2)
空気を羽織っているよう、という褒め言葉がクロージングの世界にはあるが、エッレ・ピエリのバッグはまさにそれだった。
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「われわれが開発したSUPER LIGHT.C.Cは1メートル×1メートルで650グラムを達成した。それでいて保型性も十二分。おそらくPVCの限界値だと思う」
トスカーナの田舎町、モンテカティーニ。エッレ・ピエリはイタリアのラグジュアリーブランドに携わる人々のあいだで知らぬ人はいないその地のテキスタイル・メーカー、ノルス・ノーヴァの息子ふたりが立ち上げたブランドだ。
長兄でCEOを務めるマウリッツィオ・ノォットリはいう。
「インスピレーションの源は20年前の東京にありました。営業でアジアを飛び回っていたわたしは、東京で刺激的な光景を目にします。それは軽く、機能的なバッグを手に闊歩する日本の人々の姿でした。そのころのイタリアは都心でも車ありきの生活で、バッグは旧態依然とした、重いものばかりだったのです」
生地開発で鍛えられた感性の賜物だろう。そこに描かれたジオメトリックは、ありそうでない、シックでアーティスティックなパターンだった。日本のエージェントであるヒットマンの社長、加藤逹からの提案を咀嚼したものという(加藤といえばシューズ・ブランド、シルバノ・マッツァで一世を風靡した男であり、ブランドを育て上げる手腕は自他ともにみとめるところだ)。しかしそれ以上に感嘆したのは、バッグにつかうPVCとしては世界最軽量といっていい物性と、その物性を手に入れるまでの道のりだ。成就にはじつに2年がかかった。
「耐久性以前の問題で、あまり薄いとコットンの織り目が浮き上がってしまい、みすぼらしかった。ほどよい加減を探り当てるも、こんどはスタンプ加工につまずく。その加工にはまだ厚みが足らない。これらの不具合をきれいさっぱり解消するためには塩化ビニルの量のみならず、地の糸の目付けまで洗い直す必要があった。臨界点を目指そうと思えば季節で変わる温度湿度も軽んじることはできない。職人の勘も総動員して、はじめて納得のいくレベルに達しました」
美徳はボディにとどまらない。レザーはトスカーナ伝統のバケッタレザー、尾錠の類いも地元の金具メーカー…という具合に地産地消を標榜している。キーチェーンや外付けのカード・ポケットが標準装備されるオーガナイザー機能はさすが日本のバッグから学んでいるだけある。
エッレ・ピエリは母の旧姓、ロベルタ・ピエリからとったもので、エッレはRのイタリア語読み。そのままロベルタ・ピエリの名で先行して展開したレディスはそうそうにハロッズなど名だたるストアにならんだ。現代の都市型生活者にふさわしい機能性、モダンなデザイン、ファミリービジネスならではのすぐれたコストパフォーマンス。世界の名店がみとめるのももっともだろう。
世界に先駆け、イセタンメンズをデビューの場に選び、フルラインナップで臨むのがエッレ・ピエリだ。
後篇につづく
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