<スコッチグレイン>VS<ユニオン・インペリアル>前代未聞のガチンコ対決

日本を代表するデザイナー、職人、ファクトリーが一堂に会し、“プロダクトアウト”の発想でつくり込んだ「JAPAN 靴博」が10月、ふたたび三越伊勢丹を舞台に繰り広げられる。本展のテーマは“禁断のコラボレーション”。禁断の、と形容されているように常識では考えられないコラボレーションが目白押しだ。目玉のひとつが<スコッチグレイン>と<ユニオン・インペリアル>という名門老舗のガチンコ対決。前代未聞の試みやいかに。


7月某日。<ユニオン・インペリアル>擁する世界長ユニオンのキーパーソーンはざっかけない街並みが広がる隅田川のほとりへと急いでいた。向かうは<スコッチグレイン>の本丸、ヒロカワ製靴。バイヤー立ち会いのもと、アッパー(製甲)を受け渡すためだ。

ガチンコ対決のお題は、先方のアッパーを自社の木型、底付けで完成させるというもの。担当の一人は「お祭りだから」と笑ったが、そのじつ、意地とプライドがバチバチッと火花を散らしていた。


<スコッチグレイン>はツーシームを土俵にあげた。発売してからゆうに10年は経つブランドの顔ともいうべき存在。爪先へ伸びるラインは優雅なことこの上ない。

対する<ユニオン・インペリアル>は積極的にあらたな試みを仕掛けるブランド・フィロソフィーを象徴するレザーとしてクードゥをチョイス、そのレザーの持ち味を生かすべく外羽根のフルブローグに仕上げた。クードゥとは南アフリカに棲息するウシ科の個体群で野生動物ならではの荒々しい風合いが特徴だ。イギリスの名門チャールズ・F・ステッド社製。倉庫で眠っていた一枚きりの希少なものという。

レザーなら<スコッチグレイン>も負けていない。フランスが誇るタナリー、アノネイ社の先代、アルリーさんに直談判し、少量ながらゆずってもらうことに成功した幻のアニリンカーフ。受注生産のプレステージ・ラインにのみつかってきたもので、肌理の細やかさは別次元にある。

左から、世界長ユニオン・小田哲史、谷口武、ヒロカワ製靴・三川成男、廣川雅一


業界が一致団結する呼び水に

いうはやすしで、アッパーを釣り込む(=成型する)木型がそれ専用に製作されたものではない以上、このコラボレーションには入念な下ごしらえが欠かせない。じっさい、似寄りの木型を探し出すだけでもけっこうな手間だったが、釣り込み代を多めにとってもらうなどの微調整をする必要も生じ、おおくの時間を要したという。だが、苦労を補ってあまりある副産物が手に入ったようだ。

「甲の付け根にはシワが寄りやすい。釣り込みが不十分な裏革が原因です。ヒロカワさんはパンチングを入れて伸縮性を確保していた。試しにポンチで空けてみたところ不具合がきれいに解消されました」(世界長ユニオン、谷口武営業部長)

「先裏と腰裏の継ぎ目は段差をなくすためにうすく漉きます。必然的に強度に不安が生じる。釣り込む際に切れることもありました。ユニオンさんのアッパーをみると、ここをテープで補強していた。こういうひと手間が大切だ。お手本があれば現場も説得しやすい(笑)」(ヒロカワ製靴、三川成男営業部長)


世界長ユニオンで企画課の主任を務める小田哲史さんはいう。

「先週、工場にご招待いただいた。最先端のマシンをベースにした生産態勢には舌を巻きました。正確で、速い。われわれが手仕事に頼っていた工程もきちんとカタチにしていた」

禁断のコラボレーションが技術力の向上に与するのは間違いないが、もっと大きな果実をもたらす可能性もある。

「この試みは試行錯誤して積み上げてきた技術が筒抜けになる。しかしそういうことをいっている時代ではない。盗めるものは盗んでお互いよりよいものがつくれるのであれば、こんなに素晴らしいことはない。横のつながりが生まれれば確実に業界の底上げがはかれるでしょう。技術交流のみならず材料手配などインフラの部分でも協力できることがみえてくるかも知れない」(ヒロカワ製靴、廣川雅一社長)


いよいよ、底付けの工程へ

前半戦を終えた両雄はこれより最終の工程に入る。
おなじアッパー・デザインでも靴は木型と底付けでがらりと印象を変える。つまり、アッパーの魅力を毀損することなく、みずからの色に染められるか否かがこのガチンコ対決のメインイベントである。

<スコッチグレイン>は眠れる獅子を起こす。いまから20年前にライダーブーツのためにつくった木型がそれだ。履き口が広いショートノーズのラウンドトウは一撃必殺でクードゥを仕留めるだろう。

迎え撃つ<ユニオン・インペリアル>は三越伊勢丹限定の木型、507を採用する。7〜8年つづくシルエットだけあって、鼻先を気持ち長めに削り上げたチゼルトウは風格がにじみ出ている。アノネイ産の仔牛は飛び切り上等なフォン・ド・ヴォーに生まれかわるはずだ。

底付けは目下、<スコッチグレイン>がグッドイヤーウェルト製法で、<ユニオン・インペリアル>が九分仕立てを予定しているが、そこにも隠し球を用意している。<スコッチグレイン>では琥珀のような陰影に富んだその名もアンバーソールを登板させる腹づもりだ。<ユニオン・インペリアル>は成長著しい若手の手仕事を存分に注入するという。


アリと猪木。武蔵と小次郎。メジロマックイーンとトウカイテイオー。新しいところではバットマンとスーパーマン――歴史を彩った、血湧き肉踊る世紀の対決にも匹敵する一戦は10月19日に火ぶたを切られる。乞うご期待。


Text:Takegawa Kei
Photo:Fujii Taku

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