英国ウィーク|【レポート】Be an English Gentlemen Vol.2
11月に開催された英国ウィークとキャンペーン・フォー・ウール。その目玉としてTHE GALLERY by CHALIE VICEにてトークショー、Be an English Gentlemenが行われた。BLBG(ブリティッシュ・ラグジュアリーブランド・グループ)株式会社 代表取締役の田窪寿保、服飾史家の中野香織、そしてMR.CLASSICの異名をとるジェレミー・ハケットが興の赴くまま、ジェントルマンについて語り合った。Vol.1はこちら
ジェレミー ではそろそろ禁断の事実をお伝えしましょう。イギリス人にジェームズ・ボンドをジェントルマンと思っているヒトはおそらく一人もいない、という事実です。
――会場に静かな笑いがさざ波のように広がる。
中野 派手すぎる点でその意見に賛成します。しかし一方で、型にはまらないかれのスタイルは、こよなくジェントルマン的であるという見方もできる。
田窪 イギリスの友人に聞いても、自分をもっているヒトはジェントルマンであるといいますね。
中野 女性に冷たいところも。銃撃戦で連れの女性を盾にしたりしますからね(笑)。一筋縄ではいきません。
田窪 理想のジェントルマンっていらっしゃいますか。
中野 わたしにとってジェントルマンは研究対象なので私的な目でみたことはありません(笑)。漠然とはしますが、フレンドリーなんだけど、馴れ馴れしくないヒト。距離のとり方に品性があるヒトです。オスカー・ワイルドは無意識に他者を傷つけないヒトだといっていますが、逆にいえばいざという時は一刺しにする。
ジェントルマンとは、という問いがすでにアン・ジェントルマン
中野 ジェントルマンの実態はシステムです。イギリスにはジェントルマンとノン・ジェントルマンの階層があって、ジェントルマンはフレキシブルにノン・ジェントルマンを取り込んできました。とうぜん、時代の移ろいに合わせて像は変わります。このアンビギュアスがイギリスのしたたかなところなんです。
田窪 イギリスで仕事をしてわかったのは、かれらがいう「今日はかっこういいね」は褒めていないんです。クールという言葉にも同じニュアンスが感じられます。
中野 わたしの好きな言葉に“すべての要件を満たすヒトはジェントルマンではない”があります。たとえばジェントルマンズ・ガイドという本はいっぱい出ていますが、そのとおりにやったら本物のジェントルマンはせせら笑う。要するにジェントルマンはダブルスタンダードなんですね。人気ドラマの『ダウントン・アビー』がみごとに描写していますが、わかりにくいそんな社会において、かれらは約束を守るという行為で信頼関係を築いています。
ジェレミー 自分から話を振っておいてなんですが、そもそもイギリス人のあいだでジェントルマンとは、という問いは生まれません。定義しようとすること自体がもはやアン・ジェントルマンなんです。
――会場が感じ入った空気に包まれる。
田窪 イベントも終盤に差し掛かっていうべきことではないけれど、「Be an English Gentlemen」も間違っています(笑)。ぼくらは日本人である時点でイングリッシュ・ジェントルマンにはなれないんです。ジャパニーズ・ジェントルマンというものを追求していく姿勢がジェントルマン・シップなんだと思う。
ジェレミー 礼儀正しく、他者に寛容な日本人はすでにジェントルマンの資質がありますよ。とりわけ、本日参加していただいたみなさまは。なぜなら、わたしの話を最後まで聞いてくれましたからね(笑)。
――会場、あたたかな拍手に包まれる。
Text:Takegawa Kei
Photo:Fujii Taku