【2024年春夏トレンドレポート】今季はラグジュアリーの本質を知る。バイヤー稲葉が解説!
冬が本格化したばかりですが、もうすでに来春の行方を占う新提案が盛んに行われています。伊勢丹メンズ館でも今春夏シーズンの買付けが完了しました。バイヤー自ら、その一部をご紹介します。
2024年は本質的かつ本物のクラシックを再定義する時代です
「クラシックの自由度が増している今こそ、ラグジュアリー、上質といったキーワードを再定義したい」と今季の稲葉は語ります。
「海外の合同展示会では、多くのブランドがライフスタイル提案を拡大しています。反面、合同展への出展を取りやめ、自社のショールームからダイレクトに発信することでブランドの価値観を守るブランドも増えています。ある意味二極化ですが、そこにはどちらも新しいラグジュアリーのかたちを模索している様子が受け取れるのです。」
従来の高級志向を脱却して、個々人にとって真に価値あるものを再確認する今季。稲葉は「だからこそ」今こそ改めてお客様に「伊勢丹メンズ館が考える最上級」を提供したいといいます。
「伝統的な技術に裏打ちされた紳士服の価値を見直すとともに、自由な着方ができるミックススタイルを提案します。素材の吟味と、細部にこだわったハンドワーク、クラシックディテールを有しながら、次世代へと受け継げる価値をもつ服こそ本物と信じて、お客さまと共通の価値観を再確認したいのです。」
クラシックなモノづくりの原点に立ち返りながらも、しっかりと次世代を見据えたスタイルを提案する、稲葉渾身のバイイング。その一部をご覧ください。
クラシックを再定義するモダンサルトリアーレ注目の2メゾン
メンズクラシックの基本アイテムであるジャケットは、南イタリアのクラフツマンシップに則ったハンドメイドの逸品から<アルフォンソ シリカ>にフォーカス。正確無比な型紙を最重要視するこのブランドは「服作りの工程でもっとも大切なことは裁断である」と言い切っていることで知られます。その言葉を裏付けるのは、ナポリのサルトでは珍しく、CADソフトを導入した型紙作りを行っています。
「定規も使わず、なかには裁断線すら引かずにハサミを入れるサルトがいる世界に、CADを操る工程は製品管理にブレがなく既製服のクオリティが非常に高く安定しているのがシリカの特長。見えない部分まで柄合わせが完璧に整っています。それでいて服にとってもっとも重要な着心地は、手縫いによってやわらかく仕上げることに徹底的にこだわっています。このコントラストこそが、シリカの魅力でしょう。」
裁断はコンピューター、縫製はハンドというこのコントラストが生み出すシリカのジャケット。代表的なモデルは「ヴィオリーナ」と呼ばれるモデルです。バイオリニストの顧客のため、演奏時に腕が上がりやすいよう後ろ身頃の分量を増やし、袖釜を高く設定したこのジャケットに、伊勢丹メンズが特別なオーダーで日本人体型向けにモディファイ。リネン混の素材感と相まって、春らしい軽快な一着が完成しました。
「生地はチェックとホップサック調の無地で、極上にやわらかいものを選びました。トーンで描かれるチェックの柄は、胸ポケットの箱口が一見わからないぐらい完璧に柄合わせされていてシリカの矜持を感じさせます。肩にパッドなく薄手の芯地のみをフラシで据え、大身返しに片伏せのセンターシーム、短めで背中が開くライニングも個性的なナポリのサルトを感じさせてくれます。」
この手のジャケットは、見栄えはよいものの裏側の縫製はかなりラフに仕上げられることが多いのですが、<アルフォンソ シリカ>は見えない箇所に決して手を抜きません。なぜなら見えない箇所にこそ、服のクオリティが表れるから。その感性こそが伊勢丹メンズが考える「上質の価値」なのです。
「次にご紹介する<ロータ>はパルマのパンツ専業ブランド。有名メゾンのファクトリーとしてクラシコ イタリアの仕立て技術を継承する由緒正しいブランドです。膝下の寸法を少し大きく設定しています。太ももにゆとりを持たせることで着用感が向上し、シューズとのバランスも意識した寸法でオーダーしました。」
素材はロロピアーナの「サマータイム」。さらりと清涼なタッチと、ゆらりと美麗に落ちるドレープを描いて、リネンやコットンのジャケットとも相性もよさそう。今回稲葉は7本ループのVスリットなしモデルをオーダー。
「ワンクッションが似合う太さに、膝下がストレートで余裕があるため美しいドレープを描きます。靴下のひっかかりがないのも、スリムパンツに不満のあった世代に喜ばれると思いますし、なによりクラシックなジャケットスタイルがもっとも引き立つパンツです。」
時代を牽引するのは若き職人が手掛けるパンツブランド
ボトムズシルエットはトレンドを司る重要なアイテム。ここ数シーズン、ワイド化の傾向がみられるなか、「ワイド」とはいわず「ストレート」を主眼とした美シルエットを目指しているのが稲葉らしい視点です。パンツ単体ではなく、ジャケットと合わせたときの腰回り、靴と相性のいい裾丈も含めて選んだ2つのブランドをご紹介します。
テーラー平野史也氏が手掛けるトラウザーズブランド<フミヤ ヒラノ ザ トラウザーズ> 。サヴィル・ロウの<ヘンリープール>でカッターを務め、ロンドンで独立した平野氏の凱旋ブランドは23年デビューながら、すでに各方面で話題となっています。伊勢丹メンズでも昨シーズンからこのブランドに注目して力を入れているところです。
「カジュアルパンツもクラシック仕立てがキーワードになります。UKミリタリーをモチーフにしたこのモデルは、今季の新型です。ボタンフライの持ち出し付き。日本人の平尻を考慮した補正もされています。」
ベージュのヘビーツイル生地はハリソンズ オブ エジンバラ、デニム調のコットンはウィリアム ハルステッドと、英国生地の名門から選ばれたもの。今シーズン、英国に注目している伊勢丹メンズの“推し”といえる自信作です。シンプルにカジュアルニットと合わせたり、ブレザーを羽織るスタイリングもサマになる、汎用性の高い一本となるはずです。
2つ目は数々のラグジュアリーメゾンのパンツファクトリーとして知られるヴェッタ社が満を持して設立した自社ブランド<セラードア>。本国ではトータル展開されていて、テーラードとモードとの中庸をいくハイセンスなデザインで注目されています。
「<セラードア>は、若いデザイナーふたりの感性が素晴らしくクリエイティブなブランドです。クラシック一辺倒だった方にもはきやすいフレンチやモードといったミックス感があり、若い方からも支持されるモダンなスタイリングが可能になります。」
ノープリーツですとんと落ちるストレートシルエットは、優雅でリラックスしたもの。太すぎず、細すぎず、しかも素材はシワになりにくく取り扱いもしやすそうです。
「カラーもベージュ、グレーに加えて、ダスティピンクを追加しました。新しいカラーリングですが、ベーシックカラーとも相性がよく、クラシックを着慣れた方にも取り入れやすく、現代のモダンジェントルマンに向けたファニシングです。」
自由なコーディネートを約束するシャツ&カットソー
ここからはクラシックに限定しない、幅広い視野をもつ稲葉ならではの、この春に気になるアイテムをピックアップしていきます。
「今年はシャツを着たい気分ですが、ノータイで着られるタイプがいいな、と。<ブリエンヌ>はフランスのシャツメーカーです。貴族の白シャツをテーマにしていて、バンドカラーやプルオーバーなど、カジュアルシャツにもどこかノーブルな気分が漂います。」
本国ではヒダ付きのイカ胸シャツなどがアイコンらしいのですが、今季はリラックスしたカジュアルラインを取り揃えました。たっぷりとしたギャザーでゆとりをもった縫製もフレンチ気分のエレガンスを醸す、ラグジュアリーなシャツのコレクションです。そしてもうひとつ、シャツブランドを。
「<カミサス・マノロ>はスペイン・マドリードで2019年に誕生したシャツ専業ブランドです。背景は歴史あるシャツファクトリーなのですが、アウトプットが非常に現代的でフィッティングもシルエットも、じつにモダン。芯なしの適度に小ぶりなレギュラーカラーで、タックインもタックアウトもできる。現代的な着方を自由に楽しめるのではないでしょうか」
さらに23年シーズンでも注目してきたボーダーカットソーは、引き続き<カネル>に注目。
「1923年創業のカネルは、フランス軍にもユニフォームを提供してきたブルターニュ最古のボーダーカットソーブランド。この地方には有名な三大バスクシャツブランドがありますが、伊勢丹メンズが考えるボーダーカットソーは、やはりここが最高位だと思います。旧式のマシンで編み立てた目の詰まった生地と各部の仕立て、サイズが違っても縮率を変えることで36本ボーダー(*編集部注:ナポレオンの戦勝数36を表すと言われている)を守り続ける伝統は今も大切に受け継がれています。
代表的なモデル名をナポレオンの姓である「ボナパルト」としているところもフランスらしさ全開。イタリアをはじめイギリス、フランス、スペインと欧州を網羅するラインアップで、今季のメンズ館5階は国際色豊かな顔ぶれを取り揃えています。
photo:Tatsuya Ozawa (Studio Mug)
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