【20周年特別企画】メンズ館を支えるバイヤー・アテンダントに訊く、それぞれが大切にしていること
“クラシック”という軸をぶらさない
――単刀直入におうかがいします。ドレスクロージングの舵取りを任される立場にあって、大切にされてきたことを教えてください。
稲葉:クラシックの追求――これに尽きます。クラシックといっても古ければいいというわけではありません。むしろその逆で、時代を超えて愛されるポテンシャルを秘めたアイテムをいいます。日本語でいえば逸品。上質に上質を重ねてはじめてたどり着くものです。
――メンズ館は都内百貨店の紳士服部門の売上のうち約3割を占めるといわれています。多くのお客さまに支持されるためには、どんな工夫があったのでしょうか。
稲葉:アンテナを張り巡らし、これと信じたブランドをいち早く導入、のみならず、他の追随を許さない物量を展開し、のちにインラインに昇格するような普遍性のある別注を仕掛けてきたことは重要なポイントです。
しかしなによりもクラシックという軸をぶらさずにやってきたことが大きかったかなと思います。
口元:男にとって、いつでも買える、買い換えられる、という安心感はとても大切なもの。そんなお客さまの期待に応えるのが――これはほんの一部にすぎませんが――<チェザレ アットリーニ>のジャケット「Sモデル」、<ベルヴェスト>の「ジャケット・イン・ザ・ボックス」、<マリネッラ>のネイビーソリッドとプリントネクタイ、<インコテックス>のパンツ「35」。これらは20年来変わらずフロアの一角を占め、そしてベストセラーの地位を守っています。
稲葉:クラシックを極めたアイテムは時代に流されず売れ続けます。好例は、<インコテックス>の「35」。パンツのトレンドはここ数年で様変わりしました。ワタリは太く、股上は深くなりましたが、スリムフィットの代名詞的存在である「35」の人気が衰えることはない。
メンズ館5階 メンズテーラードクロージングフロアのパンツ売り場は年間7〜8000本売れますが、そのうち2000本が<インコテックス>であり、牽引しているのが「35」です。
口元:<インコテックス>の「35」は多くの男性達に自分の脚の美しさに気づかせてくれたパンツですからね。
稲葉:その伝でいけば、<マリネッラ>も外せません。ネクタイはかつてブランドを問わずネイビーソリッドの一強時代がありました。売り上げの半分以上を占めたこともありましたが、いまやネクタイは嗜好品。ライフスタイルの変化を受けてオンオフのシーン問わず装いが多様化してきたこともあり、柄行きが増えましたが、<マリネッラ>のネイビーソリッドだけはいまだに売れています。
口元:1914年、イタリア・ナポリでスタートした長い歴史に加えて、伝統を重んじた仕立ては変わっていませんからね。
――その他のブランドは仕様変更があるのですね。
稲葉:着心地を改善するための構造や資材、あるいは時代感をとらえたパターンのアップデートは欠かせません。そういう不断の努力があってはじめてクラシック足り得るのです。
今回ピックアップしたアイテムも例に漏れません。いずれも微差と呼べる範疇ですが、<チェザレ アットリーニ>のスーツや<ベルヴェスト>のジャケットは身幅にゆとりを持たせ、<インコテックス>は股上を深くしています。
クラシックを追求してきたメンズ館の集大成
――オリジナルの<イセタンメンズ>が久しぶりに復活しました。
稲葉:弊社のお客さまの声を、クオリティやプライス、時代を含めて具現化する為に、改めて自分たちのモノづくりを行う必要がありました。
口元:ついに再始動ですね。その最大の特徴は他店のようにテイストやカラーを絞らなかったところ。
かつて作ったオリジナルレーベルはブリティッシュやクラシコといったテイストを打ち出していましたが今回は違います。クラシックが好きな方はもちろん、かっこいいスーツやジャケットを探されている方のどちらに対しても自分らしく楽しんで着ていただける仕上がりになっています。今の空気感をバッチリつかんでいますよ。
稲葉:キーワードをあげるならば、端正で、上質。端正は始末に象徴されるていねいな職人仕事やラペルなどの洋服の表情、上質は素材感をいいます。素材は葛利毛織、山栄毛織、カノニコと協業しました。こちらの葛利毛織のジェントリークロスは、ウール100%ながらカシミアのようなタッチを具現した生地です。これをさらに細い番手で仕上げることでそのポテンシャルを限界まで引き出すことに成功しました。
全体に薄く軽やでいて、構築的な肩まわりも見どころです。製造は東和プラム。こういうクリーンなスーツをつくってもらおうと思えば右に出るもののないファクトリーです。
口元:カラーやテイストにこだわりを持つことはとても大事なことですが、今シーズンスタートする<イセタンメンズ>のスーツやジャケットはメンズ館が20年かけて辿り着いたクラシック、と言えるのかも知れません。
ボーダーレスでカオスな空間を目指す
――次の20年に向けてどんな種を蒔いていますか。
稲葉:品ぞろえにかんしてはカオスな空間をつくることですね。数え切れないほど仕掛けてきたコラボレーションは最たるもの。従来の常識を覆すコラボレーションも果敢に行ってきました。カオスは化学変化を生み、そして奥行きをもたらします。これをさらに掘り下げていきたい。今年の20周年のさまざまな仕掛けでは総勢20人を超える世界中の職人やディレクターを招聘しましたが、これもカオスを狙ったひとつの仕掛けです。
口元:メンズアテンダントはまさしく次の20年を見据えた種蒔きと考えます。総勢13名のメンバーで構成されるメンズに特化したメンズアテンダントは、フロアやブランドといった垣根をすべてとっぱらって、お客さまにとって最良の提案をさせていただきます。
お客さまのライフスタイルをより豊かにするため、あらゆるものを提案する以上、先のトレンドは欠かせません。
また、多くの点を理解していなければなりません。その為、バイヤーとの意思疎通は重要です。稲葉はわたしの後輩にあたりますが、コロナ前には3回、ともにイタリアへいっています。気心の知れた間柄です。
稲葉:口元はわたしにとっても頼りになる存在です。お客さまの生の声をていねいに拾ってくれますし、難易度の高いMDであっても噛み砕いて現場に届けてくれますから。最初に配属されたドレスクロージングのフロアでは厳しい先輩でしたが、今はしっかり意思疎通が取れています(笑)。
――最後に思うところをひと言お願いします。
口元:メンズ館はライブ会場だと私は考えます。空間(ハコ)、音(モノ)、人(ヒト)が三位一体となってはじめて血が通います。お客さまがメンズ館のエントランスを出た時、ここにきて良かった、楽しかったと一人でも多くの方に思っていただけるよう、自分の役割を全うしたい。
稲葉:メンズ館を築き上げた諸先輩がたには頭が下がります。しかし、過去の成功体験に縛られずに一つひとつ積み上げてきたいまが一番素晴らしいと信じています。
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Text:Kei Takegawa
Photographer:Tatsuya Ozawa(Studio Mug)
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