【特集】ワードローブにのこしたい「男のコート論」 ウェルドレッサー3者対談|THE GENTLEMEN CLOTHING AUTUMN & WINTER 2022
『THE GENTLEMEN CLOTHING AUTUMN & WINTER 2022』P26
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エレガンス、ダンディズム、インテリジェンスetc.。『THE GENTLEMEN CLOTHING AUTUMN & WINTER 2022』では、さまざまな男の魅力を体現するのがコート姿をテーマに、服飾業界を代表するお二人のウェルドレッサーとイセタンメンズ稲葉が、理想のコート論を語りました。本記事では各々が実践するコートの着こなしにも触れつつ、三者のコート対談を改めてお届けします。
――コートは冬の主役ともいわれますが、皆さんにとってコートとはどんなアイテムですか?
鴨志田 ワードローブの中で、一番好きなアイテムがコートです。素材・デザイン・フォルムの三位一体をとことん味わうことができて、一枚で佇まいを決定づけるほどの圧倒的存在感がある。ビスポークにしても、実は一番仕立ててよかったなと思えるのはコートだったりします。
西口 男を男らしく、大人を大人らしく見せてくれる〝強い服〞ですよね。一方で、最も着る人の中身が表れる服でもある。たとえばダッフルコートは学生っぽいというイメージをもつ方もいるかもしれませんが、成熟した大人が着ると決してそうは見えない。むしろ風格やエレガンスを感じさせます。
稲葉 私としては、コートって〝失敗しない服〞だと思いますね。自分の洋服履歴を振り返ってみても、伊勢丹に入社して初めて買った〈アクアスキュータム〉のトレンチは今も気に入って着ていますし、その次に買った〈ブルックス ブラザーズ〉のコートも今なお現役です。なので、コートは一番〝ワードローブにのこる〞アイテムなのではないか。そう考えて今季イセタンメンズでは、お二人をはじめ5人の方に「ネクストヴィンテージ」というテーマでコートの製作をお願いしました。
鴨志田氏が手掛けた〈ポール・スチュアート〉のコート。
「コートに限らず、服は素材が命だと思っています。同じデザインでも、素材を変えるだけで時代性を表現できる。このコートではややピンクがかったブラウンのギャバジンを載せることで、アーカイブのデザインに”ネクストヴィンテージ”たる時代性を加味しました。英国〈ラッシャーミルズ〉が手掛けた素材は軽量でドレープも美しい。ベルトのこなし方でさまざまな表情を見せてくれます」(鴨志田氏)
西口氏が手掛けた〈アクアスキュータム〉のコート。
「一見ヴィンテージショップで見かけそうな一着ですが、型紙から私がディレクションし、ショルダーラインに丸みをもたせた一枚袖にデザインするなど、ブランドにゼロから別注して作り込みました。一枚袖の〈アクアスキュータム〉は非常に珍しいと思います。とはいえブランドのオリジナリティはキープすべく、ポケットや袖口にボタンを付けないミニマルデザインなどは踏襲しています」(西口氏)
――なかなか壮大なテーマですが、鴨志田さん、西口さんが思い描く「ネクストヴィンテージ」のイメージとはどんなものですか?
鴨志田 ファッションは時代を映す鏡ですから、確実なことは言えません。ただ思うのはビジネススタイル専用のコートより、オンにもオフにも対応できる汎用性を備えたものが将来にのこっていくのでしょうね。もちろん、しっかりと歴史的なルーツを有したものであることが前提ですが。
西口 クラシックの要素を備えていることは重要ですよね。あとは、10年、20年の着用に耐える堅牢な素材も将来ヴィンテージとなりうる条件だと思います。
鴨志田 いい素材は長持ちするだけでなく、経年変化によって味わいを増していく。だからヴィンテージのコートには特有の味があるんですよね。それから個人的な意見を付け加えるなら、個性のある色柄のコートこそ、意外とワードローブにのこっていくと思っています。一枚で主張があるゆえに、複雑なコーディネートを考える必要がない。シンプルなニットの上にバサッと羽織るだけで着こなしが成立するので、実は便利なんですよね。
〝何にでも合うコート〞というのは、意外と扱いが難しいものなのです。
三人が実践する
今季コートスタイルとは?
――ではここで、本日のコートスタイルについてもお伺いしたく思います。鴨志田 今日は<ポール・スチュアート>で私が企画したダッフルコートを主役にコーディネートしました。少しグレイッシュなニュアンスを含んだラベンダーカラーは近年、私がよく取り入れている色なのですが、コートでこういう色みのものはあまり見かけないですよね。先ほどもお話ししましたが、実はコートこそ存在感のある色柄を選んだほうがスタイリングを決めやすい。なので、こういう珍しい色のコートは想像よりもずっと使い勝手がいいと思います。合わせたスーツは私にとって冬の大定番である、グレーフラノで仕立てたリヴェラーノ&リヴェラーノ。コートがグレイのニュアンスを含んでいるので、色あいがよく馴染むのです。胸元はボーダーのニットタイを合わせて、適度にドレスダウンしました。
西口 私は<ビームスF>のベストセラーコートを選びました。ヴィンテージのコートにしばしば見られる一枚袖のラグランスリーブにこだわって作ったものです。2枚袖のものと比べて、ショルダーラインに丸みが生まれるのが魅力ですね。近年は一時期のスリムフィットブームも沈静化し、クラシックの王道といえるフィッティングに主流が戻っていますが、空気をはらむようなドレープ美を備えたコートには、一枚袖の丸みがとてもよく合うと思いますね。今日は<アルフォンソ・シリカ>のスーツを合わせました。体に馴染んだコットンのステンカラーコートにハンドメイドのスーツという組み合わせは、クラシックの王道といえるスタイルですね。ちなみにコートもスーツも、玉虫色のソラーロ生地。セオリーからするとあまりこういう合わせはしないと思うのですが、あえて型破りにトライしています。
稲葉 いやはや、お二人ともさすがの着こなしですね。隣に並ぶのが恐れ多いくらいです(笑)。 私が今日来ているのは、フランスの<ハズバンズ>が手がけたトレンチ。現在では希少なメイド・イン・フランスというところに惹かれて入手しました。大きな襟にたっぷりとした身幅、膝まである丈とクラシックな佇まいなので、流行を超えて愛用できると思っています。ただ、こういったクラシックトレンチは懐古趣味に陥らないようアップデートするのが肝心なので、コーディネートはいつもそのあたりを意識していますね。スーツは偶然にも西口さんと同じ<アルフォンソ・シリカ>、タイはナポリの<アントニオ ムーロ>です。非常に柔らかく軽快感のあるタイを合わせることで、トレンチが重苦しくならないよう配慮しました。それからシャツと靴はどちらも日本の気鋭ブランドのもの。全身を老舗ブランドで固めず、国籍もミックスすることで時代性を表現しています。
――みなさん、こだわりが満載ですね。“クラシック”という共通のバックグランウンドをもちながら、それぞれ独自性のあるスタイルを表現されているのが興味深いです。
大切に着込むほど
コート姿はサマになる
――皆さんが憧れるコートスタイルについてもお伺いできますか?西口 永遠のスタイルアイコンといえば、ハンフリー・ボガートでしょうか。あの佇まいに憧れてトレンチコートを買いましたからね。それからマイケル・ケインのネイビートレンチ姿にも痺れました。あとは、映画『アメリカン・ジゴロ』でリチャード・ギアが着ている〈ジョルジオ アルマーニ〉のラップコートスタイルですかね。彼の個性が引き立った装いだと思います。そういう意味では、やはり自分自身のパーソナリティに合ったコートを着るのが一番サマになるということなんでしょうね。
鴨志田 それは間違いない。私も色々と憧れるスタイルがあります。たとえばサイ・トゥオンブリーというアメリカのアーティストのコート姿。彼のナルシストな内面が丸わかりなんですが(笑)、それが抜群に格好いい。
稲葉 私は……社交辞令ではなく、鴨志田さんが憧れです。
鴨志田 またまた(笑)。
稲葉 いやいや本当に。バルカラーコートの襟を立てて、一番上のボタンだけ留めて歩くスナップなどは強く印象に残っています。自然体のエレガンスってこういうことなんだなと感じました。
西口 服を自分のものにするには、とにかく着込むしかないですよね。表面だけ真似をしても決してサマにならない。クラシックスタイルは特にそういうもので、だからこそ奥が深いし、面白い。
鴨志田 コートにはマスターピースと称される定番が数多く存在します。それを着こなせるかどうかは〝どれだけ普段着に近づけられるか〞だと思いますね。
稲葉 私が今日着ている〈ハズバンズ〉のトレンチも、実は買ったときは〝ちょっと年齢が追いついていないかな〞と感じていたんです。でも、30代も後半にさしかかる今は、だんだんと自然に着られるようになってきた。そういうコートって、すごく愛着が湧きますよね。イセタンメンズとしても、20年、30年かけて愛着を深められるようなコートを提案していければ理想的だと思っています。
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Edit:ISETANMEN'S net
Photo:TAKESHI WAKABAYASHI
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