【連載】伊勢丹バイヤー石田修平がヴィンテージアイテムの魅力がたっぷり詰まった空間を巡る|イセタンメンズ散歩
メンズ館2階・3階のバイヤーとしてトップクリエイターとの親交が厚く、最近はファッションの他に、家具やアートにも好奇心を伸ばしている石田修平。「今一番気になっているのが『ヴィンテージ』で、その物たちのストーリーや、ヴィンテージとの触れ合い方を学びたいです。」と、今回はキュレーターに大坪洋介さんを指名。長くアメリカLAに滞在し、ファッションディレクターとして活躍している大坪さんのご自宅のガレージを訪ねました。
1976年に体験したサーフ・スケートカルチャーが原点
石田修平(以下、石田) ガレージもすごいですが、ガレージ横の倉庫の中も大変な数のアイテムがありますね。
大坪洋介(以下、大坪) ロスから日本へ帰るときに40フィート(幅2.33m×長さ11.998m)のコンテナに入れて持って来ました。今日は石田さんがいらっしゃるので、1976年にロングビーチのスポーツアレナで行われたロングビーチスケート 選手権のパンフレットとポスターを出しておきました。このイラストを描いたジム・エヴァンスというアーティストが大好きなんです。
石田 とても貴重なポスターですね、大坪さんはこれを現地で見たんですか。
大坪 自分が20歳のときですね。2万ドルの賞金が付いていたのでなかなかの大会だったと思います。この大会から45年、昨年の東京オリンピックでスケボーが正式種目として採用されるなんて、当時のスケーターが知ったら泣きますよ。
石田 大坪さんはLAにたくさんのストーリーをもってらっしゃるんですね。
大坪 LA生活では、何でも見て体験してその中からより好きなモノが出てくるという感じでした。すべて自分が気に入って買い揃えたモノです。当時はネットはないですから、足で稼いで集めたので、一つひとつに物語があります。だからどれも愛おしい。
シトロエンDSに一生乗ろうと思っていましたが・・・
石田 その一つが、LAで十数台乗り継いだというシトロエンDSなんですね。ナンバープレートがすごい数あります。
大坪 シトロエンDSに一生乗ろうと思っていましたが、あるクルマと日本で出会ってから、「DSはもう卒業でいいかな」と思いました。それぐらいこのBUCKLER(バックラー)DD-2に惚れ込みました。
石田 僕はクルマは詳しくないのですが、色がきれいでコンパクトで素敵です。
大坪 1958年式で、1500CCのエンジンを積んでいますが車重が500キロなので、現代でもパワー不足ということはありません。これを日本で見つけてしまって、見に行くと絶対欲しくなると思いって我慢し続けましたが、我慢できなくなって、会いに行きました。これも、手に入れたというより、前オーナーから「引き継いだ」という感じですね。
石田 これだけ好きなものに囲まれているなんて羨ましいです。奥様やご家族は大丈夫ですか。(笑)
大坪 そこはパートナーの理解ですね。うちももちろん家族用のEVはありますよ。
石田 僕も今年40歳になって、ずっと一緒にいたいと思うモノを集めるようになりました。それにしても1点1点をよく見ていくと、大坪さんのルーツがギッシリ詰まっていますね。LAカルチャーと一緒に過ごしてきた時間や空間が感じられて、このガレージは唯一無二の「幸せな空間」です。
大坪 ありがとうございます。実は、茨城県のつくば市に友人がギャラリーショップをオープンしました。石田さん、ご紹介しますので、一緒に行きましょう!
住所非公開の「遊び場・秘密基地」に到着!
大坪 つくば市までお疲れさまでした。東京の人に、「つくば市まで行く」というと驚きますが、LAからモノを探しにクルマで1~2時間かけるのは普通です。私には苦になりません。
石田 すごい建物ですね。
大坪 大貫達正(たっせい)さんがやっている「SANTASSÉ GALERIE(サンタセッ ギャレリー)」です。大貫さんと私は同じ申(サル)年で、大貫さんはちょうど二回り下です。石田さんも40歳ですが、40、41歳はこれからの日本を背負っていく世代だと思っています。
石田 大貫さん、はじめまして。大坪さんに「実際に目で見た方がいい」と言われて伺いました。なぜつくば市にオープンされたのでしょうか。
大貫達正(以下、大貫) 去年の7月にオープンしましたが、一番の理由はコロナ禍ですね。コロナ前は一年に何度もアメリカに買い付けに行って、大好きなサンタフェなどで、インディアンルーツのモノなどを趣味で集めていました。コロナになり、アパレル業界が沈んでいって、退屈になってきて、「なにかやらないと」と動き出したときに、たまたま不動産サイトで、私の地元・つくば市のこの米蔵を見つけました。
石田 ここは米蔵だったんですか。素敵な空間ですね、手直しは大変でしたか。
大貫 米蔵の床と天井をきれいにして、後ろにボードを立てたぐらいです。サンタフェに「シップロック」という好きなギャラリーショップがあって、ここだったらできるかなと。自分名前が「たっせい」で、サンタフェが好きなので、「サンタセッ」ギャラリーです。
大坪 私がリーバイスにいる頃に大貫さんと出会って、それからよく会うようになりました。そこに行けば必ず欲しいものが見つかる店を「ディストネーションストア」と言いますが、このギャラリーショップは、まだ見ぬ美しいモノに出合える素晴らしい店です。
石田 わざわざここまで訪れて、いいものに出会えたり、発見できるのってお店として大事ですよね。どんな思いを持ってこのギャラリーショップを運営していますか。
大貫 自分が好きなモノだけが置いてある、ある意味狭い世界ですが、僕より下の世代は、こういう世界を知らずに通り抜けていくと思います。自分もこういうオリジンを伝えていかなくてはならない年齢になったということですね。店というより、見てもらえる環境を作りたかったし、一人でも多く興味がある人に見てもらい、この世界を伝えていけたらと思います。
ヴィンテージをオマージュしつつ解釈して、アップデートする
石田 まさに、「大貫さんが集めた、大貫さんのお眼鏡にかなったギャラリーショップ」ですが、後世に伝えたいモノはなんですか。
大貫 いわゆるギャラリーのグッズというと、スーベニールしかなくてガッカリしますが、このギャラリーショップで一番凝ったのはオリジナルジーンズです。
大坪 このジーンズは目からウロコの出来映えですよ。
大貫 1900~1940年ぐらいに使われたジーンズの特定箇所を縫うミシンを14台使い、シャトル機で織られる生デニムを、デッドストックの糸で縫製しています。岡山の児島の職人が一人で仕上げていて、1890~1910年までのインゴットシルバーをボタンとして使っています。
石田 大貫さんが穿いているジーンズですよね。
大貫 これで半年ちょっと穿いています。僕は、ヴィンテージのレプリカを作りたいわけではなく、ヴィンテージをオマージュしながら、解釈してアップデートしていくジーンズを職人と作りたい。
石田 すごく想いのつまったジーンズですね。このお店のラグのコレクションもすごく気になりました。
大貫 ナバホのラグと、「カバーレット」というシェーカーが作っている織物、それとアーミッシュキルトをメインで揃えていますが、柄がパターン化されていない珍しい柄が多いですね。
大坪 一生自分のそばに置いておきたい、使いたい、着たいというのは、今っぽく言うとサステナブルですが、ネイティブだけが持つデザイン感覚と色彩がこんなに全身で楽しめます。
石田 気になるラグを見つけてしまいました、、買って帰ります!
石田バイヤーが考える「ヴィンテージアイテムの愛し方」
大坪さんの自宅のガレージも、大貫さんの「サンタセッ ギャレリー」も、空間にストーリーとスタイルがあって素敵でした。自分の暮らしや趣味を空間に落とし込む勉強にもなりました。
大貫さんがおっしゃる通り、長引くコロナ禍で、洋服を含めて、「日常の暮らしが豊かになる」方へ舵が切られて、出会いや体験、発見などの価値が上がっています。お店をつくる上でのいい刺激をいただきました。
特に、大貫さんの「サンタセッ ギャレリー」は、伺う前は、「地方にできた洗練されたセレクトショップ」かな?と想像していましたが、行ってみるととても居心地がよくて、また大貫さんのストーリーやメッセージが伝わってきました。大貫さんのように、自分の好きなことを思い切り発信していくのは、今後ビジネスでも大切になると思います。また、大貫さんからは、「モノのルーツを知らない人に、伝承していく」という思いがあって、自分も仕事を通して何かを伝えていくことを大切にしようと思いました。
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Photograph:Tatsuya Ozawa
Text:Makoto Kajii
*撮影時のみマスクを外して、撮影を実施しています。
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