【インタビュー】写真家・映像監督 奥山由之と<FACETASM/ファセッタズム>落合宏理に訊く──共同プロジェクト 「TOKYO SEQUENCE」が露わにする、“東京”という都市と人、ファッション、アート、そして“物販”の連続性。
写真家・映像監督である奥山由之と、<FACETASM/ファセッタズム>のコラボレーションで話題のプロジェクト「TOKYO SEQUENCE/トーキョー シークエンス」が、12月26日(日)から伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーションにて初のオフラインイベントを開催。
ここでは奥山による撮り下ろし作品を落とし込んだ貴重なアパレルやポスター、伊勢丹新宿店限定販売のマグカップ、iPhoneケースなど、オリジナルグッズの”物販”を行うという。そこで奥山本人と<ファセッタズム>のデザイナーである落合宏理というキーマン2名にインタビュー。このプロジェクトへの思いやイベント開催の経緯、オリジナルグッズへのこだわりなどについて、話を訊いた。
- 開催期間:2021年12月26日(日)~2022年1月18日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
インタビュー
なぜ展覧会より先に、”物販”イベントを行うのか?
ウェブマガジン・フイナムをメディアパートナーとして2020年5月にローンチされた「TOKYO SEQUENCE」は、現代を代表する写真家であり映像監督でもある奥山由之と、東京発の世界的ファッションブランド<FACETASM/ファセッタズム>がタッグを組んだ、新時代のアートプロジェクト。常に変貌し多様な表情を見せる“東京”という都市のなかで、今の東京を生きる人々を活写していくオンライン上のビジュアルプレゼンテーションだ。
そんな「TOKYO SEQUENCE」が、ついに初めてのオフラインイベントを開催する。舞台は、伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション。しかしその内容はまさかの作品展示ではなく、オリジナルグッズの”物販”なのだという。
「TOKYO SEQUENCE」は、いまなお作品が追加され続けいまだ完結していない現在進行系のプロジェクトだ。オフライン開催、そして発表の途中段階でありながら、初手としてリアルな”ミュージアムショップ”をポップアップさせるのはなぜなのか──。奥山由之と<ファセッタズム>の落合宏理に、その理由を尋ねた。
落合 「TOKYO SEQUENCE」はアートプロジェクトだからこそ、展覧会グッズのような”物販”もできると思っていました。当初は展覧会を開催する際に販売できればと考えていたんですが、ロゴが完成してきて、それがあまりにもいい出来なので、いち早く皆さんにお見せしたいと思ってしまったんです。むしろ、物販が作品と同時に広がっていく方が面白いんじゃないかと思い、伊勢丹さんにお声掛けさせてもらいました。
奥山 僕は撮影済みの作品のなかから20点くらいを選びましたが、最終的にグッズに使用する5点のセレクトやデザインについては、<ファセッタズム>にお任せすることにしました。プロダクトに対して写真を魅力的に落とし込むという点において、僕よりもはるかに長けていますから。それにしても「TOKYO SEQUENCE」のロゴは、企画意図を見事に具象化してくれていますよね。
落合 このロゴは、僕が10年来信頼して仕事をお願いしているグラフィックデザイナーの鈴木 聖(スズキ サトシ)さんに制作してもらいました。
奥山 SEQUENCE(連続性)を感じるズラシ加工が施されながら、可読性も高いというのが素晴らしいです。
落合 僕は大好きな映画やライブ、展覧会を観に行ったら、必ずといっていいくらいTシャツなどの”物販”グッズを買っています。僕にとって、物販というのは宝物のようなものなんです。「TOKYO SEQUENCE」はそれを先にやっちゃうという、これまでにない試みなんじゃないかと思いますね。そういう考え方を<ファセッタズム>ではモードに解釈して表現しているのですが、「TOKYO SEQUENCE」はファッションブランドではなく、あくまでアートプロジェクト。だから自分自身がワクワクした展覧会で買うようなモノを、ストレートに、熱い思いを込めて作らせてもらいました。
変化し続ける東京の”流れ”を切り出す、「TOKYO SEQUENCE/トーキョー シークエンス」。
このイベントが極めて先進的で、ユニークな取り組みであることは分かった。では「TOKYO SEQUENCE」とは、そもそもどんなプロジェクトなのだろう? 東京のクリエイティブシーンを牽引する写真家と、東京を代表するファッションブランド。コラボレーションの”座組”自体は、決して目新しいものではない。しかしこれは、もちろんファッションブランドのイメージビジュアルではなく、シーズンやジェンダー、スタイルといった枠組みにもとらわれていない。「ジャンルもなく、キーワードもない」、ただ移ろいゆく”いまの東京”を象徴するようなポートレート(人物像)とランドスケープ(風景)を映し出した作品の集積である。
奥山 僕がこのプロジェクトを思いついた2018年頃、東京では2020年に予定されていたオリンピックに向けて、大規模な開発が至るところで進行していました。京都などと違って景観に関する規制が緩く、歴史上、常に大きく変化してきた東京ですが、大勢の外国人を迎える準備もあって、これまでにないほど開発は劇的で急ピッチ。日々、景色が変わっていくのを目にしていました。
ある日ふと、東京って流動的に変化していくことを惜しまない、個性的な街だなって思ったんです。部分的にうねるように変化していくので、古い建物と新しい建物が近距離で密接していたりする。それも1つ1つが異なる様式だったりして、けれど引いて見ると”東京”というオリジナリティを感じる。さまざまな時代感が折り重なって共存し、多種多様な文化を吸収しながら、東京らしいオリジナルを携えて、パワフルに変化していく──。混沌としているけれど、レイヤー(層)の奥行きがあるのがカッコいいな、と。それが東京の個性だし、ネガティブにいわれることもあるけど僕はカッコいいと思う。他の都市では、ロンドンもパリもニューヨークも、建物の内側はリノベーションなどで変化したとしても、外側は大きく変わらないイメージがありますから。
そんな東京の街を背景に、<ファセッタズム>の服を撮りたいと思いました。なぜなら<ファセッタズム>の服は、僕が考える東京と重なって見えたからです。その素材選びや色使いはもちろん、音楽やアートやスポーツなど、ファッションにはとどまらない分野からの影響を受けて、1つのスタイルを成している。”東京らしく”さまざまな文化が絶妙に融け合い、レイヤーが重なり合うことで、ブランドの個性を表現しているように感じたんです。<ファセッタズム>らしさって、東京らしさでもある。面識はありませんでしたが、落合さんにコンタクトをとって、すぐに快諾していただけました。最初は「東京をテーマに<ファセッタズム>の服で作品を撮りたい」くらいのぼんやりとしたアイデアだったのですが……、落合さんとの対話を重ねながら、徐々にイメージが固まっていきました。
落合 僕は奥山さんのような才能のある方からオファーをもらって、本当に光栄でした。彼の名前も仕事っぷりも知っていたから、新しい時代を創るであろうクリエイターと協業でき、しかも自分にとって特別な”東京”を表現することができるという、嬉しさがありましたね。彼の人間性にも魅力を感じて、お会いしてすぐ「一緒にやりたい」と感じました。僕は東京出身で、<ファセッタズム>も「東京っぽいね」と評価されることが多い。海外に出て、この”東京らしさ”というのが強みだと感じていたこともあって、「TOKYO SEQUENCE」は個人的にとても大切なプロジェクトになっています。
奥山 洋服は、人が着てこそ躍動するものですよね。だから東京という街を体現するような方々に<ファセッタズム>の洋服を着用していただき、変化し続ける”東京らしさ”を感じるロケーションで撮影しようということになりました。老若男女さまざざまな人が住んでる東京を体現するのは、特定の誰か1人や2人ではない。そこで、年代も職業もさまざまな200人を撮らせて頂くことにしました。
落合 彼はアイディアマンだから、僕から提案したことなんてほとんどない。でも被写体となる人物選びでは、僕らが考える”東京らしい”大切な人を推薦させてもらいました。
奥山 僕もファッションには関わっていますが、普段のものづくりで落合さんと重なる部分は意外と多くない。それぞれが「この人!」と思う候補を出し合うことで、自然と偏りのないキャスティングができていると思っています。
落合 大切なプロジェクトだからこそ、大切な人に出てほしいとも思っていて……。これからの東京の時間の流れのなかで、出会うべくして出会う人もいると思う。そういう出会いもSEQUENCEとして取り入れていけるように、常にアンテナを張りながらながらやっています。
奥山 200人に到達するまではまだまだ時間は掛かりそう。本当は2020年のオリンピックイヤーに完結する予定だったのですが、コロナ禍もあって思ったより長期のプロジェクトになりました。すでにプロジェクト開始から3年が経過していますが、結果的にゆっくりと時間を掛けるプロジェクトとなったことが、むしろよかったのかもしれません。
このプロジェクトにふさわしく、時間の”流れ”のなかで、どんどん変化していく東京を感じながら撮ることができますから。そういう”流れ”を写し出すためにも、1枚写真ではなく8ミリフィルムで撮影した映像のロールから連続する3コマを切り出し、写真に焼き付けるという手法を選びました。
「TOKYO SEQUENCE」の「SEQUENCE」とは、”連続性”という意味ですが、すなわち時間の”流れ”であり、コマ(瞬間)の”連続”のことでもあるんです。人物の表情に寄ったポートレートと、スタイリング、そして東京の街の風景。それぞれ3コマずつを並べて、ひとつの作品としています。
連続する3コマに流れる時間は、0コンマ数秒程度。そんな1秒にも満たない僅かな時間にも、髪の毛の揺れ、まばたきなど、分かるか分からないかくらいの変化がある。ということは、1分、1時間、1日、1ヶ月、1年…という時間の流れの中で、人もファッションも街も、大きく変化しているという事を描けるのではないかな、と思いました。
長い時間のなかで、人も、ファッションも、街も大きく変化する“東京”──。その”連続性”を、一枚の写真に凝縮して伝えたいです。
落合 作品全体を通して時間の流れを感じられるのは、このプロジェクトの醍醐味だと思いますね。
時間の流れとともに、作品の変化に合わせたアイテムを。
<ファセッタズム>を着用した人物を、奥山由之が東京らしい場所でその風景と併せて映像として撮影し、写真に焼き付けて作品を制作。その中から厳選された風景作品5点を、<ファセッタズム>がオリジナルのアパレルやグッズへと落とし込む──。そんな美しくもクリエイティブなキャッチボールから生まれる渾身の「TOKYO SEQUENCE」”物販”コレクションには、やはり期待せずにはいられない。全国約30の専門店での展開がすでに決定しているというこのオリジナルグッズたちを、どこよりも早くチェックし手にできるのが、本イベントというわけだ。
作品をリアルに感じられる額装されたA1版ポスターやポストカード、スタイルを問わず取り入れやすいキャップやコーチジャケットなどは、いずれも間違いなくマストバイ。さらにマグカップ、iPhoneケース、ステッカーなどの”グッズらしい”グッズは、伊勢丹メンズの限定商品だというから要チェックだ。
落合 お互いの強みを活かすことで、作品づくりだけで終わらない、なにかスペシャルなことができるという確信がありました。それが”物販”を行うことを決めた理由でもあります。僕らとしてはシンプルにいいモノに仕上げたいと思っていただけど、”物販”という枠を超えるものにはしたくなかった。あくまで手に取りやすいもので、ファッションブランド的な見え方にはしたくなかったんです。展覧会の”物販”を、先にやっているだけという感覚ですね。
奥山 作品で切り取っているのは、どれも東京の街でよく目にする景色。この企画のグッズとして落とし込むなら、そのなかでも特に変化の過程を感じられる場所がいいと思いました。東京で頻繁に見られる工事現場は、変化の途中、つまり”(仮)”の状態。そういう景色を意識的に多く選んでいます。住宅の建設地など比較的短いスパンの”(仮)”もあれば、渋谷駅前の開発のように、大規模で長い時間の”(仮)”もある。新宿のビル群などは、街全体が決して完成することがない、永遠の”(仮)”です。
展覧会グッズって、会期が終わると販売されなくなってしまいますよね。そうではなくて作品のテーマと同様に、ずっと継続的に、”連続性”をもって買うことができるものにしたいと思っています。だから今後は時間の流れとともに、作品の変化に合わせたアイテムが追加されるかもしれません。
落合 シンプルにロゴだけのものもほしかったし、これがスタートなのでまずは僕ら自身があったらいいなと思うものを制作しました。ポスターがあるということが、物販としていちばんいい表現だと個人的に思っています。”物販”という位置づけを、きちんと固めておきたかったんですよ。でも作品が変わっていくように、物販も変わっていかなければいけないと思っています。
今回登場する魅力的な商品群のなかには、争奪戦必至の目玉アイテムとなりそうな超レアアイテムがある。落合自ら探し求めたヴィンテージに、1点1点手作業で作品をプリントした、まさに”アートピース”と呼べるチャンピオン製スウェットシャツだ。使用するボディは、1990年代のリバースウィーブに限定。そして無地だけでなくシンプルなレタードものもチョイスし、作品との相性やバランスを意識しながらプリントを施している。数量限定であることに加え、すべて手に入れたくなるほど、どの個体も表情豊かで魅力的というのが悩ましい。
落合 古着カルチャーというものは、東京が起源と言われています。もっと言うなら、チャンピオンのリバースウィーブ、しかも’90年代製というのは、もうそれだけで“東京”を表すひとつの象徴なんですよ。スペシャルなものではありますけど、あくまで物販。だから「TOKYO SEQUENCE」らしい、”物販を超えないデザイン”にまとめているつもりです。
パンデミックも沈静化し、人流は増え、街には活力が戻りつつある。インタビューの最後に、コロナ前後の東京を見続けてきた奥山と落合に、率直ないまの想いを訊いてみた。
落合 外出を制限されても、街の活気が失われても、僕自身のマインドが落ち込むということはなかったです。ずっと東京で暮らしているなかで感じたあらゆるものが、このプロジェクトには込められている。「TOKYO SEQUENCE」というものが、僕のなかには常に存在しているんです。これからも僕らのテンションで、淡々と作品作りを続けていきたいと思いますね。コロナ禍にも負けずに継続してきた、大切なプロジェクトですから。
奥山 東京は、オリンピックに向けて開発が進行していた状態から、コロナ禍で急に「中断しよう」となってしまった企画や場所も多々あるかと思います。そんな”(仮)”で止まっている状態を、たくさん見かけました。街全体が一時停止しているというか、迷いのような空気が世界中に漂っていた時期もあるように思います。人出が増えた今でも、その一時停止を、頻繁に街で見かけます。全世界に漂う空気が急に元に戻ることはないと思いますが、まずは個人単位なら、前向きな気持ちで歩みを進めることだってできるはず。いまはまだ、”(仮)”を思わせる景色が目立ちますが、それはそれで“東京”らしいと思っているので、変わらずパワフルにこのプロジェクトを進めたいと思っています。
作品、物販、そして展覧会。今後もさらなる”レイヤー”を重ねて変化していくであろう「TOKYO SEQUENCE」の全体像は、まだ見えない。今回発表されたイセタンメンズ限定アイテムも、ひょっとすると二度と手に入らない可能性も……。いまこの時、この貴重な機会を逃す手はないということだろう。
アイテムラインナップ
ITEMS
MITSUKOSHI ISETAN EXCLUSIVE
MITSUKOSHI ISETAN EXCLUSIVE(Remake)
- 開催期間:2021年12月26日(日)~2022年1月18日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
Text:Junya Hasegawa(america)
Photograph:Tatsuya Ozawa
*価格はすべて、税込です。
*本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。
*iPhoneはApple社の登録商標です。iPhone本体の販売はありません。
お問い合わせ
伊勢丹新宿店
電話03-3352-1111 大代表