2020.03.20 update

【座談】僕たちのオーダーシャツ偏愛論|イセタン メンズのシャツ三賢者が、こだわりオーダーシャツの楽しみ⽅の極意を語る(1/2)

たかがシャツだけど、されどシャツ。トレンドは意識しつつ、こだわりは譲れない――
メンズ館ファンなら知らぬモノなしの、メンズテーラードクロージング アシスタントバイヤー羽鳥幸彦、ドレスシャツ・ネクタイ アシスタントバイヤー 谷口雅樹、ドレスシャツ・ネクタイのスタイリスト花野友彦。
着こなしの基本にして、常に理想形を追求し続けているのがシャツで、それはもちろんオーダーに行き着く。門外不出「こだわりオーダーシャツ」のディープトークをとくとご堪能あれ!


僕たちのオーダーシャツ偏愛論 目次

  1. まず、「既製とオーダーではどこが違う?」と質問されたら、どう答える?
  2. ミリ単位で調整しながら完成した「羽鳥タブ」誕生秘話と、各々がこだわり始めたきっかけ
  3. シャツ三賢人が持ち寄った、自慢のオーダーシャツを拝見
  4. “自由度が高くて楽しい”オーダーシャツをもっと身近に普及させたい!


■鼎談:参加メンバー
左:メンズ館5階=メンズテーラードクロージング アシスタントバイヤー 羽鳥幸彦
中央:メンズ館1階=ドレスシャツ・ネクタイ アシスタントバイヤー 谷口雅樹
右:メンズ館1階=ドレスシャツ・ネクタイ スタイリスト 花野友彦

まず、「既製とオーダーではどこが違う?」と質問されたら、どう答える?

――― 一口にシャツと言っても、既成・パターンオーダー・フルオーダーなど世の中にはさまざまありますが、知っているようで知らない、既成とオーダーの違いについてどんな印象を持っていますか?

羽鳥 自分はオーダースーツの担当なので、よく「このスーツには、どういうシャツを着たらいいんですか?」と訊かれます。「僕はスーツもシャツもオーダーが多いせいか、すぐオーダーをおすすめしてしまいます。なぜならオーダーシャツの方が生地もディテールもサイズ感も選べて自由度が高いし、コスパも良いんですよ」と。
谷口 僕も最近のシャツはほとんどオーダーですね。入社してから既製のインポートシャツを着ていましたが、既製だと必ず袖のお直しが必要で、買ってもすぐに着られないという悩みがあってストレスを感じていました。
それからオーダーシャツを担当するようになったときに、「オーダーの方が、同じ“待つ”という行為でも出来上がりが楽しみで嫌いじゃないかも」と。お直しを待つ時間へのストレスが減りました。


花野 谷口さんの気持ちはすごくよくわかります。自分の場合は逆に、既製だと必ず腕が短いので、オーダーは「既製品のお悩みに対するソリューション」的な捉え方もしています。
さらに、サイズ感やデザインをカスタムしていくうちに、シャツを起点にして、スーツのオーダーなどにもこだわりが出てきたので、オーダーシャツから装いを考えることを楽しんでいますね。
羽鳥 今、「オーダーシャツの一番のメリットは何ですか?」と尋ねられたら、まず「襟やカフスなどのディテールを好み通りにできます」と最初に答えますね。
谷口 そうですね。自分も最初はサイズ感の満足でしたが、今ではディテールの改造に近い感覚でオーダーしています。店頭でお客さまを接客していると、自分が着ている襟型は既製品にはない珍しいシャツなので、気づいていただくことが多いです。
花野 私もお客さまからよく「それはオーダーですか?」と訊かれますね。それで説明していくうちにオーダーに興味を示していただけて、“自分のスタイル”作りのために初めてのオーダーをされる方もいらっしゃいます。


谷口 オーダーシャツは、「サイズを合わせる」ものと捉えがちの方が多いですが、僕たちは仕事柄、サイズよりも「自分の持っている服に合わせやすい」とか、「次の夏はこういう服を着たいからシャツはこうしたいな」と目指す装いに行き着くためのオーダーでもあります。
羽鳥 ディテールをいじって失敗したシャツは星の数ほどありますが(笑)、それがあるから成功したシャツもあって、それはもう自分の財産になっています。
花野 羽鳥さんには、通称「羽鳥タブ」という金字塔がありますからね!



ミリ単位で調整しながら完成した「羽鳥タブ」誕生秘話と、各々がこだわり始めたきっかけ

―――失敗と成功を積み重ねてできた「羽鳥タブ」。メンズ館スタイリストの間ではお手本にもなっているようですが、実際はどのような経緯で出来がった襟型なのでしょうか?

羽鳥 オーダーシャツに目覚めたのは入社1年目のとき。まず店頭にある伊勢丹オリジナルの襟型を何もいじらずにスタンダードに作ってみました。それから襟型をいじり始めたのがタブカラーです。タブカラーはネクタイを持ち上げVゾーンを立体的にキレイに魅せるのが醍醐味なんですが、雑誌などで見るときれいに持ち上がっているのに、作ってみると理想形にならない・・・。
それからタブの長さや幅、位置などをミリ単位で調整していき、芯のないネクタイが“ギュッ”と持ち上がるようにして、このバランスに行き着きました。


花野 実は自分もタブカラーは相当失敗していて、理由は羽鳥さんと同じく、「どうしてネクタイが持ち上がらないのか!?」で相当悩みました(笑)。
それから試行錯誤していくうちに見つけた正解が、いわゆる「羽鳥タブ」で、真似してみたら、きれいに持ち上がるんです。タブカラーは、タブの長さや芯の硬さなどバランスが難しいので、出来上がったときの満足度はとても高いですね。
谷口 二人ともタブカラーへのこだわりが強いですね(笑)。自分は二人とはちょっと違って、オーダーシャツの入口は、「谷口はどうしてそんな襟が開いているシャツを着ているの?シャツのことが分かってない!」と言う先輩の一言でした。世の中がクラシコイタリアブームのときに、どんなときも基本上着は脱がないジェントルマンな先輩から、クラシックな装いを教えてもらいながらオーダーで作ったのが最初の記憶です。
花野 そうそう、羽鳥さんはディテール以外に、シャツの色もチャレンジしてますよね!
羽鳥 入社したときに作ったのがグレー、ピンク、赤いシャツで、それからブルー系に落ち着きましたが、今クローゼットにあるのは白が7割ぐらい。さらに、今オーダーしているのはイエローのシャツで、良い生地を見つけたので、昔から憧れていた色に挑戦しています!
谷口 僕はシャツの半分が白、3割がブルー系ですが、意外と気に入っているのはグリーンのマルチストライプ。既製品ではあまり見ない生地なので、オーダー感も出るし、独特なコーディネートができるので重宝しています。
羽鳥 今クローゼットの中にあるのは、ほぼオーダーシャツです。この取材に合わせて自分のシャツを見返したら、それを見て改めて、「無意識のうちにサイズ感を意識しているんだな」と気づかされました。理想形になってうれしかったシャツが自然と残っていて、それに似たようなシャツが素材や色違いで量産されていく感じです(笑)。