2020.04.01 update

【インタビュー】桑原あい|伊勢丹を訪れるあなたのワンシーンを彩る音楽。

4月1日(水)より全国の伊勢丹ではじまった開店時・閉店時の音楽「I BLOOM Opening」、「I BLOOM Closing」。作曲・演奏しているのは、ミレニアル世代を牽引するジャズピアニスト・桑原あいさんです。「優れた映画音楽が自然とシーンを彩るように、ドラマティックかつ情景に馴染む楽曲を目指した」という桑原さんに、今回の楽曲制作の経緯や、彼女の等身大の素顔などについてお話を伺いました。


桑原あい

1991年生まれ。洗足学園高等学校音楽科ジャズピアノ専攻を卒業。これまでに9枚のアルバムをリリースし、CDショップ大賞など受賞多数。その他テレビ朝日系報道番組「サタデーステーション」「サンデーステーション」のオープニングテーマ、J-Wave「STEP ONE」のオープニングテーマを手がけるなど、その活動は多岐にわたる。2019年8月18日に全編ディズニー楽曲のカバー・アルバム「My First Disney Jazz」をディズニー・オフィシャルとしてWalt Disney Recordsよりリリース。


特別な世界の始まりを感じさせる曲を作りたかった。


──開店閉店時の楽曲に採用が決まったときのお気持ちはいかがでしたか。

とてもうれしかったです。伊勢丹には「伊勢丹に行けばなんでもあるから」と言う母に連れられて幼い頃からよく訪れていました。今でも、衣装を探しに行く時は必ず伊勢丹に行きますね。お気に入りは本館3階。4階や2階も好きで、その3フロアを行ったり来たりしていることが多いです。私の買い物はいつも伊勢丹を見に行くことからスタートするんですよ。他の百貨店と比べて個人的にも特別な場所だったので、採用が決まったときには本当に驚きました。


──伊勢丹にはどのようなイメージを持っていたのでしょうか。

幼い頃のイメージは、「憧れの伊勢丹」。少し敷居が高いイメージでした。母がタータンチェックの紙袋を手にして帰ると、「伊勢丹行ってきたの?いいなぁ!」と話していたことを今でもよく思い出します。中学・高校時代はピアノ一筋でなかなか買い物に出かける時間もなかったのですが、久々に訪れたときにはフロアがモダンにリニューアルしたあとでとても新鮮でしたね。クラシックでオリジナリティに富んだところはそのまま、新たなことにも挑戦しているということを大人になってから知りました。

──開店時の「I BLOOM Opening」、閉店時の「I BLOOM Closing」、それらの原曲となった「I BLOOM」を作った経緯をお聞かせください。

私⼀⼈で完結させてしまうと“100%桑原あい”の楽曲になってしまう。しかしスタイリスト(販売員)の想いがあってこその伊勢丹だと思ったので、今回は作曲に至るまでの過程を共有させていただきました。伊勢丹で働く⽅々のアイディアを取り⼊れ、スタイリスト(販売員)の想いを楽曲へと転換するのが私の役⽬だと思ったんです。まずは、「スタイリスト(販売員)の方々にとっての伊勢丹らしさ」や「おもてなしで大切にしていること」、「お客さまに伝えたいメッセージ」など思いの丈を聞かせてもらいました。さらに曲のタイトルも、企画の担当者に提案してもらうことに。皆さんから集めたキーワードから、私が音をイメージして8小節くらいのモチーフを3種類作り、その中から選んでもらった一つからできたのが原曲「I BLOOM」。それを元に開店時用と閉店時用にアレンジをしています。

「I BLOOM」というタイトルに込められているのは、「私が咲く」や「お店が咲く」といったイメージ。私、 曲を作るときはいつも⾊が浮かんでいるんです。「I BLOOM」というタイトルを聞いて思い浮かんだのは、淡いピンク色やラベンダー。あとは最新ファッションが集まる伊勢丹ならではの、ファッションのコレクションで使われる鮮やかな色がバーっと並んでいる様子……。だから作曲は、伊勢丹の方々から集めた言葉と、そこからイメージした色を音楽に昇華させていくという作業でしたね。

──作曲時に色をイメージする、というのは興味深いですね。開店時と閉店時は、それぞれどのようなイメージでアレンジしたのでしょうか。


開店・閉店時用に採用されたとご連絡をいただいてすぐに伊勢丹に足を運び、それぞれの時間帯のリアルな店内の様子を見に行きました。どのような状況で自分がアレンジした音楽がかかるのかきちんと現場を見てイメージしたかったんです。開店時と閉店時では漂う空気や客層も全く異なると思ったし、その時に店員さんがどういう状態かなど、楽曲がかかる状況をきちんと把握してから作曲に取り組みたかったんです。

開店時には、店員さんが長い時間ずっとお辞儀をして頭を垂れているのがすごく印象的でした。「いらっしゃいませ」と賑わっている場面のBGMというよりも、「開店しました!」という場面を音楽がさらに盛り上げているようで、他の百貨店と比べて特別なムードを感じたんです。「ここから先には特別な世界が広がっている」とワクワクしてもらうために少し厳かにしたくて、上品な弦楽四重奏をベースに、小鳥のさえずりなどをイメージした音を重ねました。”クラシック×新しい世界”を私なりに表現し、「新しい朝、新しい世界、画期的、華やかさ、上品さ、未来へ続く、ワクワクする場所、幕開け」をテーマにしています。

──閉店時のイメージはどうでしたか。

閉店時には、欲しいものを手に入れて嬉しい気持ちの人や、仕事帰りの夕食を買って食べるのを楽しみにしている人、もしかしたら落ち込んだ気持ちを晴らすために洋服を見に着た人もいるかもしれません。様々なシチュエーションの人に寄り添えるような曲を目指しました。あとは閉店の時間を知らせる役割もあると思うので、お祭りの後の余韻に浸れるようなゆったりしたテンポに。「またここに帰ってきてね」というメッセージと共に、「今日はありがとう、お疲れ様、いってらっしゃい」と送り出すような気持ちで、お客様ひとりひとりに花束を渡すようなイメージです。


シーンに自然と馴染み、彩りを添える音楽を作りたい。



──桑原さん自身は朝と夜、それぞれ何をして過ごしているのでしょうか。

私はまず朝起きたら、愛犬のこむぎちゃんに挨拶することからスタートしますね。目が覚めたら自分の身支度より先に、まずはこむぎちゃんにごはんを作ります。寝る前には、サンドイッチマンか四千頭身のコントを音だけで聞いて眠りにつくのがお決まり(笑)。特に曲を作っている間は、ずっと頭の中で音楽が鳴り続けていてなかなか気持ちが休まらないので、それを遮ってリラックスするためにも大好きなお笑いの音声を聞くようにしているんです。

──桑原さん自身が「“I BLOOM”している」と思うのは、いつなのでしょうか。

演奏を終えて、ステージ上でお辞儀をしているときでしょうか。ステージの経験を重ねるうちに、儀礼的な拍手か、心からの賞賛の拍手か聞き分けられるようになったんですよ。自分が納得できる演奏を終えて拍手を受けているときは、「“I BLOOM”している」と思えます。ただ、プロになってから今が最高だと思ったことは一度もありませんし、そう思うことは一生ないと思います。考えているのは、その時々目の前の仕事にベストを尽くすことだけ。4歳でエレクトーンを始めてから、音楽をやめるという選択肢は今まで一度もありませんでした。


──次の目標があれば教えてください。

今の目標は、30歳までに映画音楽に携わること。ウォン・カーウァイ監督やスタンリー・キューブリック監督の音楽の使い方には感銘を受けています。音楽家なのでつい音楽に耳が向いてしまうのですが、シーンの邪魔をせずに自然に感じ彩りを添える映画音楽はすごく緻密に計算されているはずです。今回開店時・閉店時用にアレンジした「I BLOOM」も、伊勢丹を訪れる皆さんのシーンに自然と馴染み、思い出を彩ることができたら光栄です。

Photo:Shunsuke Shiga
Text:Rio Hirai

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