南はとにかく合理的で、そして視野を広くもつことができる。合理的であることは工具に対する考え方からもうかがえる。
「裁断にはロータリーカッターを使います。工場がカッターだったんで、それからずっと。職人としての見栄えを考えれば、ハサミがいいでしょう。けれど、刃を入れれば生地がもちあがって、ズレが生じる。それを勘案するのがプロというのかも知れないけれど、そんなところで腕を磨かなくてもいい。なぜなら、カッターのほうがはるかに正確で速いんですから」
<ミナミシャツ>のビスポークにはマシン、ハーフハンド、フルハンドの3つが揃うが、南がすすめるのはマシンだ。
「シャツの着心地を決めるのは型紙と生地。手縫いか否かはどちらかといえば精神的なものに近い。もちろん、柔らかい雰囲気を出すなら手縫いに分がありますが」
視野の広さを証明するのは素材だ。<ミナミシャツ>には名だたる世界のファブリック・ブランドとともに国産のオリジナルがラインナップされる。
「兵庫の西脇で別注生地をつくってもらっています。播州織といわれる名産地です。その生地は140/2/2。つまり、双糸と双糸を撚り合わせているんです。しなやかで艶やかな超細番手なのにめっぽう丈夫。それがこの生地の魅力です。こんなのがつくれたら面白いんじゃないか、というところからはじまっていますが、その先には少しでも産地をアピールすることにつながれば、という思いもあった」
産地が元気になれば、それはまわりまわって自分にも返ってくる。
産地に目を向けるスタンスはすこし前に完成したばかりの白蝶貝のボタンに顕著だ。3.5ミリ厚のそれはボタンを開け閉めする指先にしっとりと馴染む、南自信の作である。
「奈良の工場さんにお願いしています。奈良は日本の生産量の9割を占める貝ボタンの産地です。ところが工場へ向かうタクシーの運転手さんでさえその事実を知らなかった。これはいかんとボタンの裏に“MADE IN NARA”と刻印してもらいました。おかげで1個あたり2〜3円高くなってしまいました(笑)」
インディペンデントのシャツメーカーがオリジナルをつくっているだけでも驚きなのに、遠くない将来に綿花から育ててみたいというからしばらく開いた口が塞がらなかった。
しかしそれにつけても現在のポジションを手繰り寄せた南はあっぱれというほかない。工場で3年、下職で7年、オリジナルを立ち上げて4年──いまや4人のスタッフを抱えるまでに体力をつけた。向かうところ敵なしですねと水を向けたら、「お客さんが評価することなので」とあくまで控えめだった。粘って質問を重ねると、しばらくの間があって、こういった。
「本音をいえば誰にも負けない自信はあります。 けれど、この仕事は自分との戦いですから。シャツづくりには、完成、というものがないんです」
Photo:Shimpei Suzuki
Text:Kei Takegawa
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