<ラ・スカーラ>テーラー 山口信人 × 顧客 成田忠明氏
左:<ラ・スカーラ>テーラー 山口信人
国内でテーラリングの基礎を習得後、ミラノに渡り仕立屋に通う。帰国後、伊勢丹入社。働きながらナポリに通い、ナポリ仕立てを学ぶ。
右:顧客 成田忠明氏
2016年にオープンした東京・神宮前にあるワイン専門店「ザ・ワインギャラリー」オーナー。スーツのオーダー経験はナポリのテーラーを中心に40着以上。
職人と顧客を超えた関係がこれまでにない服をつくる
二人の出会いは2009 年ごろ。伊勢丹に入社したばかりの山口が、店頭で既製品の販売をしていた時代だ。
成田 山口さんが、僕が着ていたピロッツィ(=ヌンツォ・ピロッツィ)のジャケットを「ちょっと見せていただけますか?」と話しかけてきたのが最初です。ピロッツィはナポリの4大テーラーのひとりですが、日本では知る人ぞ知る存在。百貨店にしては珍しい販売員がいるもんだなと、強く印象に残ったんですよね。
山口 その後、僕が通訳を担当したジェンナーロ・ソリート(彼もまたナポリ4大テーラーのひとり)のオーダー会で再会したんです。当時、僕は働きながら時間を見つけてナポリに通い、ジェンナーロのもとでナポリ仕立ての技術を学んでいる最中だったんです。
成田 本格的な付き合いは、その話を聞いて「だったら一着つくってみてよ」と注文したことから。2012 年だったかな。“ラ・スカーラ”の立ち上げ前の話ですね。
山口 成田さんにはそれ以降、約10着オーダーをいただいているんですが、いまでももっとも緊張するお客さまのひとりです。
成田 ただ、言いたいことはまだまだいっぱいある。山口さんの服は平気で50 万~ 60万円しますから。同じ金額を支払えば、たいていのブランドもののスーツが手に入りますし。じゃあ、なぜ山口さんにお願いするかというと、すでに完成された服よりも、これからもっとすばらしくなる可能性のある服に、いまから投資しておいたほうがたのしいじゃないですか。自分自身の生き方とか、遊び方としても……。
ナポリ仕込みの技で、日本人の体形を美しく見せてくれるラ・スカーラ ノブトヤマグチのビスポークスーツ。左のようなハーフメイドで仮縫い(通常は1回)を行い、理想とする完成形に近づけていく。
スーツ仕立上り356,400円から
*お渡し:約3カ月後
山口 成田さんには本当にお世話になっていて、ピロッツィのお直しまで任せていただいているんですよ。
成田 ヨーロッパの一流テーラーは、“ここをこうして”というのを基本的に受け付けません。でも、仕上がり後にどうしても合わないと感じることもある。特にオーダースーツの場合は、納品が本当の意味での完成形ではありません。ある程度体になじんだ段階で、再度プレスしてもらったら抜群によくなることもあるし、各部分に微調整が生じることもしばしば。それをいちいちナポリまで持っていったら、キリがないですから(笑)。
山口 普通はあり得ないことなので、僕にとって非常に貴重な経験になりました。
成田 逆にこっちがお代をいただきたいぐらいですよ(笑)。だって最高の教科書を提供しているわけですから。あんな神様みたいな人がつくった服をバラすことができる人なんて滅多にいないですよ。
山口 彼らはほかの人間の手が入ることを、非常に嫌がりますからね。
成田 つまり僕が言いたかったのは山口さんとは一緒にものをつくれる喜びがあるということ。若手職人との交流は、僕にとっていい刺激になっているんです。
山口さんのつくる服は味わいに継ぎ目がない
成田氏曰く、着心地がいいだけのスーツであれば誰でもつくれるという。では、スーツづくりにおいて大切なポイントとはなんなのか?
成田 個々人の体形の欠点を補整しながら、スマートに見せてくれるというのが、あえてオーダーをする理由だと思います。山口さんの服をワインにたとえるなら、味わいに継ぎ目がない。エレガントでありながら、着心地を犠牲にしないんです。
山口 もし、そう感じていただけたのなら、それはナポリで学んだ経験が大きいのかもしれません。日本のテーラーはありとあらゆる箇所を採寸して型紙をつくります。そうすると体形が整っている人はよくても、そうでない人は欠点が逆に目立ってしまいます。一方、向こうのテーラーはつくり手の美意識を優先させて、それをお客さまの体形に沿わせていくイメージです。それで合わない点は、仮縫いで大胆に修整を入れていく。そうすると誰が着てもつくり手の色が出やすいんです。ただ、効率は滅茶苦茶悪いのですが。
山口信人のテーラリングの世界観が垣間見られる、ラ・スカーラ メイド トゥ メジャーのスーツ。ビスポーク仕込みの製図手法を工場生産に活かすことで、柔らかい着心地を実現している。
スーツ仕立上り106,920円から
*お渡し:約5週間後
成田 今回、山口さんのメイド トゥ メジャーがスタートすると聞いて、ひとつだけ言っておきたいことがあります。この手のオーダーはいろんなところでやっていて、通常は50万~60万円のスーツをメイド トゥメジャーでは約10万円でその本質をたのしむことができます、という記事が巷に氾濫しているじゃないですか。それは無理に近い話ですよね。ワインでも同じことが言えるのですが、例えばアンリ・ジャイエ。100万円を超えるものがザラで、200万円、300万円級が当たり前の世界ですよ。それが彼の最後の弟子がつくったワインだと1本1万円で、アンリ・ジャイエの雰囲気そのものだと宣伝される。あり得ないですよね。ビスポークとメイド トゥ メジャーはあくまでも別物。ただ、山口さんの服の本質は別のところにあるのはいうまでもありませんが、その雰囲気を手軽にたのしみ、そしてなによりスーツをオーダーすることの喜びを感じていただくのはとても素晴らしいことだと思います。ひと言でいえば、一流料理店の昼の定食を手始めに試してみるようなものではないでしょうか。山口さんの職人としての本質はこのメイド トゥ メジャーでも充分に感じることができるのですから。
山口 より多くのお客さまに知っていただくためにも、ずっとやりたかったことですし、型紙を引いたり、さまざまなチェックは僕自身がしています。ビスポークとくらべるつもりはありませんが、同じ価格帯のマシンメイドと比較したら、美しい服がができたと思います。
*価格はすべて、税込です。
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