2018.03.09 update

【インタビュー】ロレンツォ・チフォネリ|イタリアの血、イギリスの手、そしてフランスのエスプリ

ロレンツォ・チフォネリはパリのタイユール(テーラー)、<Cifonelli/チフォネリ>の4代目当主。オンライン、オフラインを問わず、いま世界中のファッションメディアが注目しているウェルドレッサーである。仕事柄、彼のプライベートなスタイルはつねにドレスアップされているが、イギリスともイタリアとも違うフレンチクラシックを体現するもので、スナップ写真が掲載されると上から下まで彼と同じ服を注文しにアトリエに客が殺到するという。


「私に注目いただくのは結構ですが、ファッションは追いかけるものではなく、自分で作っていくものだと思っています。私たちはそのお手伝いをしているに過ぎません。父から教わったもっとも大切なことは、自分のスタイルを押し付けるのではなく、お客様のスタイルを尊重して最大限に引き立てること。そのために最高の技術とクオリティをつねに用意しています」。

曽祖父がローマに創業したのは1880年のことだ。祖父はサヴィル・ロウで技術を学んだ後、パリにアトリエを開く。マエストロと呼ばれた父は勇名を馳せ、ミッテランやシラクら歴代仏大統領も顧客名簿に名を連ねる紛うことなきパリの名店である。だがロレンツォは続けた。

「パリのテーラーと呼ばれるのは本意ではありません。チフォネリはユーロのテーラーと呼んでほしい。お客様はフランス国内だけでなく、ヨーロッパ各地、世界中にいらっしゃいます。私たちはご注文をいただければ、どこへでも足を運ぶグローバルな仕立て屋です。それだけの技術と品質を保証します」


この日、ロレンツォが着ていたベージュのジャケットには、フロントボタンがひとつ。共地のジレはダブルブレストのショールカラー。ストライプのクレリックシャツに、グレンチェックのタイを合わせたVゾーンは、イタリアともイギリスとも異なる洒脱な合わせ方である。おそらく、この記事を見た人はまったく同じコーディネートでオーダーするのだろう。

「いま伊勢丹メンズ館で展開しているドゥミムジュール(メイド トゥ メジャー)の型紙は2018年春に新たにローンチしたもの。これまでとは肩のラインを変更して、よりナチュラルなフォルムにしたいのです。襟は少し丸みを帯びさせて全体にやわらかさのある型紙に修正しています」。


すべての型紙を司るヘッドカッターでもある。その型紙は一子相伝とされ、ロレンツォと従弟のマッシモの2人しか引くことができない。オーダー会に合わせて型紙修正という大きな仕事を抱えてきたが、後日担当から聞いた話では、手にしたチャコで生地に大胆な線を引くと「これで」とひとことだけ伝えて席を立ったという。その姿は自信に満ちあふれていたとも。

いまもロレンツォは、どっしりと椅子に腰掛け自信たっぷりに、そして満足げに自分の服を撫で付けている。雑談のなかマルブフ通りのアトリエの斜向いが<ベルルッティ>の店で、祖父がアレッサンドロ・ベルルッティと友人で、ロレンツォも<ベルルッティ>の靴が好きだと話した。<ベルルッティ>がアルニスを傘下に納めたことで、パリの仕立て屋の火が消えなかったことをことさら喜んでいるらしい。


チフォネリの服は、イギリスのカッティングでイタリアの軽さを実現するフランスの縫製技術、3つの性質を融合したテーラー」だといわれる。イギリスの手、イタリアの血、そしてフランスの感性の賜物といってもいい。ふとロレンツォに、なぜあなたのジャケットはボタンがひとつのなのかと聞いてみると、「ボタンだらけになるとうるさいじゃないか」と返された。いかにもパリジャンらしい答え方だった。

Text:Yasuyuki Ikeda
Photo:Shimpei Suzuki

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メンズ館5階=メイド トゥ メジャー
03-3352-1111(大代表)