【第7回】新喜皮革(1/2)

姫路・龍野の皮革素材づくりの歴史は古く、鎌倉時代から培われ、江戸時代後期に革なめしが盛んに行われていたという。そんな伝統ある土地で、日本で唯一コードバンを生産しているのが新喜皮革である。


金田光泰
かねだ みつやす●新喜皮革に入社して17年。そのうちの14年は、染色業務に従事する。2008年より約20名のスタッフを束ねる工場長に。

新喜皮革――世界屈指のコードバンを供給するタンナー


<ジ・ウォームスクラフツ マニュファクチャー>は、日本国内で唯一コードバンを生産するタンナー(製革工場)、新喜皮革を母体とするブランドだ。誕生は2002年。デザイナーのヨネダヒロシ氏がすべてのプロダクトデザイン、ショップディレクションなどを行い、全国に8店舗展開している。

ブランドの根幹をなすコードバンとは、馬の臀部にある特殊な繊維層を革の裏側から削り出した馬革のことを指し、新喜皮革では約10カ月かけてこれを仕上げる。月産2000~2500枚。一頭から採取できる量が限られるため、希少性が高いのが特徴だが、独特の光沢と重厚な質感を求めて、国内外からのオーダーが途切れないという。


新喜皮革があるのは兵庫県南西部を流れる市川の西岸。ここに製革工場と<ジ・ウォームスクラフツ マニュファクチャー>のアトリエが入居する3棟が連なる。

姫路・龍野は古くから地場産業としてなめしが行われており、新喜皮革のある高木地区は日本のタンナーの最大集積地。現在も国内の約35%を占める80社ほどのタンナーがしのぎを削っている。「なかでも馬革を扱うタンナーは極端に少なく、臀部のコードバンを一括生産できるのは弊社だけです」と工場長の金田光泰氏。30年以上にわたり、研究と技術の研鑽を重ね、世界屈指の馬革タンナーと呼ばれるまでになった。


コンセプトは「温故知新:故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」。伊勢丹ではエクスクルーシブで四季の方角から日本の北空・南空からインスパイアされたカラーリングを発表。

<ジ・ウォームスクラフツ マニュファクチャー>
ダレスバッグ 540,000円
(29.8×42.8×9.5cm)
 

原皮はヨーロッパから輸入。長年、馬革生産を積み重ねていくなかで、世界中から馬革を仕入れて選び抜いた結果、年間を通じて馬体が大きく、安定して肉厚の皮が多いことから、ヨーロッパ産馬皮に行き着いた。これをさまざまな職人の手を経て、“皮”から“革”へと変化させる。

たとえば、伝統的ななめし方法であるタンニンなめし。手間も時間もかかるので、現在では数少なくなってしまったが、金田氏曰く「革に負担をかけず、肌目も細かく芯までタンニン成分が浸透するため、うちではあくまでもこの製法にこだわっています」。ミモザ の樹皮から抽出したエキスを入れた木製ピット(革なめし槽)に漬け込み、ゆっくりとアクションを加えながら、約1カ月かけてタンニン分を浸透させる。こうしてできあがった革は、収縮が少なく、堅牢で、使うほどに味わいが生まれ、美しく経年変化していくのが魅力だ。


繊細な色合いのアイスグレーは伊勢丹限定色となる。

(左から)
二つ折り札入S 37,800円(9×9.7×1.8cm)
ラウンドミドルケース 23,760円(7.4×12.2×2cm)
ラウンドジップ長財布 64,800円(9.8×19.5×2.4cm)
カードケースL 32,400円(9.4×12.1×0.3cm)
■メンズ館1階=メンズアクセサリー

<ジ・ウォームスクラフツ マニュファクチャー>のヨネダ氏は、自らの強みを原皮、なめしの段階から、デザインを経て、製品化、販売までを一気通貫で行えることだという。職人との距離が近いゆえ、新喜皮革ならではの素材がアイデアの起点になることも多い。目指すのは、日本の素晴らしい革づくりの文化と歴史を伝えていくこと。新喜皮革が培ってきた哲学を“かたち”にして、世界に届ける。

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