【インタビュー】ステファノ・ビジ|シルクに恋した男(1/2)
「餅は餅屋とでもいうのでしょうか。生地はもちろん、芯地、そしてそのバランスの妙なんでしょうが、手にしたときのリッチな感じはこのステファノビジでしか味わえません」
バイヤーの佐藤巧がいう“リッチ”な感覚の秘密は生産背景にある。祖父が1938年に創業し、父が立ち上げたオリジナルを飛躍させた三代目、ステファノ・ビジはいう。
「われわれには10人あまりのアウトワーカーがいます。一般的にアウトワーカーといえば一本いくらの出来高制ですが、われわれは彼女たちを社員として遇しています。風邪をひいて1ヵ月仕事できなくても給料が出るんですよ(笑)。創業以来変わらないビジのスタイル。クオリティを考えたとき、どちらがいいかといえばいうまでもありませんね」
<ステファノビジ>3代目当主のステファノ・ビジ氏(左)と、三越伊勢丹 ドレスシャツ&ネクタイ 佐藤巧バイヤー(右)
アルティジャーノの国、イタリアにあっても職人のなり手は減少傾向にある。職人技をつないでいくためには愚直ともいえる取り組みが必要であり、そしてそれは、職人仕事に芯から誇りをもつ<ステファノビジ>だから可能となったものだ。
「マーケットがシュリンクしてかえってわれわれは評価されています。大量生産のタイが飛ぶように売れたバブルの時代にも、父が手仕事の火を絶やさなかったことは間違っていなかったと自信を深めています。たいへんな時代を耐えてくれた父に感謝の念を捧げたい」
愚直さはトランクショーやバイヤーとの商談に用意する生地見本にもあらわれている。ふつうはスワッチといって生地の切れ端をつかうが、ステファノビジではそれぞれタイ2本分に相当する生地を用意する。手順をおみせしましょうーー三代目はテーブルに生地を広げると、器用に折り畳んで即席のタイをつくってしまった。
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