【対談】グランドセイコー他、伊勢丹時計バイヤー注目のウォッチモデル6選
7月5日(水)から18日(火)まで開催される、「ウォッチコレクターズ ウィーク」に先立ち、時計バイヤー上野翔太にISETAN MEN’S net編集長・関が話しを聞いた。
後編では、伊勢丹が考える「ファインウォッチ メイキング」の観点から選ばれた、国内外の“良い時計”について注目のモデルにフォーカスしていく。
「感性のデザイン」が生み出す腕時計のイノベーション
最初に取り上げるのは、「デザイン」に着目したタイムピース。腕時計は物理的に小さいサイズのなかで「時間を読む」機能を持ち、デザインの幅を広げていくのは困難。一般的な2針、3針といったレイアウトをとらずに時間を表示するためには、複雑な歯車の配置設計と精度を保つための機構開発が不可欠だ。そんな研究成果としての時計は、斬新で個性的なデザインのなかに使いやすさも潜んでいる。「デザイン」によって視認性を高めたレギュレーター
1.<RESSENCE/レッセンス>タイプ1 スリム
関:文字板のデザインが、もう明らかに変わっていますね。
上野:レッセンスの「タイプ 1スリム」はいわゆる「レギュレーター」と呼ばれる、時、分、秒がそれぞれ独立表示されている時計です。デザイナーは元々プロダクトデザイナーで、時計専門ではないことから、斬新な設計がされています。
関:この針、すべてプリントです。ダイヤルごと回転するんですね。
上野:針が浮いていないぶん、風防ガラスが文字板ぎりぎりまで接することが出来るため、ガラスと文字板の間に空間がなく影や光が反射しません。結果的に時間が読みやすいというメリットが生まれました。さらに、この時計にはケースの側面にリュウズがないんです。
関:これ機械式ですよね、自動巻きだとしても、時間の修正はどうすれば?
上野:ケースの裏蓋のレバーをこのように立ち上げると、巻き上げも時間調整もできるようになっています。
関:こんな仕様、見たこと無いです。
上野:機械式時計って、針を動かすだけならそれほど力を要しないんですけれども、ダイヤルのプレートそのものを回すのには、それなりの駆動力を要します。それらをしっかり解消した作り込みがされているというのも、この時計の魅力です。
関:独特のデザイン性がありながら、ここまでこだわって作らている時計は中々見た事がありませんね。
他社の業界人にも支持されるフェイスデザイン
2.<KUDOKE/クドケ> クドケ1
上野:こちらの「クドケ1」もバランスを重視したデザインです。
関:すごくシンプルなんですけど、腕に付けるととても心地よいバランスを感じます。
上野:文字板に数字や主張するインデックスもなく、9時位置の秒針と3時位置のシンプルなロゴのみで余白が多い。そこへ3時位置のリューズを大きくすることで、見た目の重さを分散させているんです。
関:針のデザインにも、こだわりが伺えます。
上野:ドイツの小規模なメーカーで、もともと中身は他社製だったのですが、この「クドケ1」は、自社製ムーブメントの第一号モデル。クドケ氏が所有していた古い英国製の懐中時計をヒントに開発したものだそうです。
関:やはり本人も時計マニアなんですね。裏を見ると、各パーツ細かい装飾が施されていて、手が入っていることがわかります。
上野: 同じ時計は2つとないと言われるように、美意識にもこだわりが見られます。
関:表はシンプルでも、裏に凝っているあたりは、着物の裏地に凝る日本人の美意識にも通じますね。
装着感と視認性を高める「エルゴノミクスデザイン」
腕時計のエルゴノミクス(人間工学的)デザインとは、手首へのフィッティングとともに、フェイスを傾けたときに時間の読み取りがしやすいように、ケースの形状やインデックス表示が考えられているもの。「ファインウォッチ メイキング」の観点から評価されるのは、これら工夫の数々を意識させずに日常のなかに溶け込ませることである。高度な技術が実現した至福の装着感
3.<シチズン> エコ・ドライブ ワン
関:この薄い時計は知っています。シチズンですね。
上野: シチズンが「至福の着け心地」を追求して生み出したのが、この「エコ・ドライブ ワン」。2016年に誕生したときは大変話題になりました。
関:覚えています。極薄のケースを真横から見せたビジュアルは斬新でインパクトありました。
上野:ケースは約3.9ミリなんですけど、中の機械は薄さ1ミリほどしかないんです。
関:この技術力は凄いですね。
上野:世界中の時計メーカーが一時、こぞって薄型時計の開発に着手したのですが、あまりにコストが掛かるので、みなさん諦めてしまいました。いま、この薄さを実現できているのはシチズンだけなんです。
関:日本の技術力が世界から一目を置かれているのも、納得が出来ます。
上野:太陽光をエネルギーにしているので、電池交換不要なところも改めて注目されています。
関:まさに今の時代に求められている機能ですね。
上野:ガラス面に特殊コーティングを施しているので視認性も抜群です。ぜひ腕につけてみてください。
関:手に吸い付くというか密着しているような感覚です。
上野:ケース径も以前より小さくなったことで、手首の細い日本人にはバランスがよいともいわれますし、女性の方にもおすすめできます。
関:シャツの袖口に当たらないのもいいですね。厚みのあるケースは、カフスが当たって留めにくかったり、引っかかったりしますから。袖に時計が当たるのって、知らないうちにストレスになりますから。
上野:ストレスフリーなうえ、電池交換不要でメンテナンスフリー。しかもジェンダーレスで女性にも人気がありますから、まさにいまの時代に合う時計といえるのではないでしょうか。
時計オタクの”想い”を集約した36ミリ
4.<WEMPE/ヴェンペ>アイアンウォーカー36
上野:ヴェンペは、ドイツ・ハンブルグにある時計専門店で、自社で展開するオリジナルブランドです。
関:専門店が監修した時計は、非常に興味深いですね。
上野:ヴェンぺが長年培った経験や審美眼を通して作り上げた実力のあるウォッチです。
関:中身の複雑さを感じさせないぐらい見た目はシンプルですね。
上野:デザインは1920年代ニューヨーク、高層ビル建築にあたった鉄工員がモチーフとか。どことなくクラシックな印象がありますよね。
関:ドレスでもカジュアルでも服装を選ばなそうですし、流行に左右されず長く使えそうなデザインですね。
上野:ブレスレットの節と面の部分で磨き方を変えるなど、細部までラグジュアリースポーツ時計の作り込みを採用しています。36ミリケースは、リューズガードがついているので小ささを感じさせません。
関: 装着感もいいし、すごくラグジュアリーな雰囲気もある。これで40万円台ですか。
上野: 実力ある専門店が作った渾身のモデル。世界中のラグジュアリースポーツウォッチの良いところを研究し尽くしているので、他で作ったら100万円前後はすると思います。
関:この時計は、すごく惹かれます。高額なブランド時計じゃなくても、デザインと機能で「良い時計」を実感させてくれますね。
日本の時計技術の粋を集めた「高機能」時計
「ファインウォッチ メイキング」ではデザインと共に機能面も重視している。その中から、とくに高機能な日本の時計技術にフィーチャー。海外メーカーよりさらに厳格な精度測定の基準値を設け、これをクリアするために技術を研鑽してきた結果、いま日本の時計メーカーは世界中から高く評価されている。今年のリミテッドモデルは「都会オアシス」をイメージ
5.<グランドセイコー>ヘリテージコレクション
上野:毎年ウォッチコレクターズウィークで発表されるグランドセイコーの伊勢丹新宿店限定モデル。今年はスプリングドライブ機構のモデルを選びました。スプリングドライブとは機械式とクオーツをハイブリッドしたような駆動方式です。動力はゼンマイの巻き上げを使うのですが、調速機はクォーツで動くので精度が格段に良いのです。
関:伊勢丹新宿店限定モデルのポイントはどこでしょうか?
上野:有機的な型打ちにグレイッシュなグリーンを載せたダイヤルです。緑文字板は、最近のトレンドですが、こちらは都会にある自然をイメージしたものです。例えば新宿御苑などがありますね。パワーリザーブの針の色も緑にしています。
関:サイズも小ぶりですね。
上野:ヘリテージコレクションの40mmケースを選びました。全体的にあまり甘くなりすぎないようなデザインにしました。
関:針の駆動にも味があります。
上野:クォーツの場合、針は1秒毎に針が飛ぶステップ運針しますが、機械式は1秒間を細かく刻んで動くビート運針をします、スプリングドライブは、そのどちらでもないスイープ運針という独特の動き方をするんです。
関:人の手が作り出したプロダクトとしての魅力がたっぷり。同じグランドセイコーのスプリングドライブモデルでも、これは特別感がありますね。
上野:リミテッドモデルは、毎年完売するモデルです。今年も人気が集中しそうです。発売は11月を予定しており、7月12日より予約を開始します。
【7月12日(水)からのイベント情報はこちら!】
►<グランドセイコー>都会のオアシスを表現した“2023年伊勢丹新宿店限定モデル”も登場!ポップアップ「MAKE NEW. Grand Seiko」開催
持ち歩ける宇宙パワーを日本の技術が実現
6.<カンパノラ>コスモサイン(AO1030-09L)
上野:カンパノラの天体腕時計は北緯35度の全天星座を表示しています。4等星以上の恒星を452個、アンドロメダやオリオンなどの星雲・星団が119個レイアウトされています。
関:これは持ち歩けるプラネタリウムですね。
上野:天体時計はいくつかのメーカーが手掛けているんですが、機構が非常に複雑になるのでどうしてもサイズが大きくなりがちです。それをカンパノラは39ミリで実現させています。
関:そこまで小さくする技術って、もしかしてこれ日本製ですか?
上野:はい、じつはカンパノラは、シチズンのブランドなんです。これだけの要素を正確にこのスペースに表現するのは、本当に難しい事をやっていると思います。機構マニアにも刺さると思いますが、宇宙や天体マニア、あるいはスピリチュアルに興味をお持ちの方からも高く支持されています。女性ファンも多いんですよ。
関:眺めているだけでも楽しいですよね。なんだか時間を読むよりも、もっと壮大なロマンを感じます。
上野:誰でもスマホで時間が読める時代ですから、こういう時計があってもいいですよね。
関:ニッチな世界でもトップに君臨しているのは素晴らしいことですね。これをわかってくれるユーザーに届けたいですね
誰もが“良い時計”を楽しめるように
関:入学式や卒業、就職や昇進など、人生の節目に合わせて時計をお求めになろうと考える方は多いと思いますが、デザインと機能だけでも、バリエーションはとても多彩でした。それに上野さんは難しい専門用語をあまり使われないので、説明がとてもわかりやすいです(笑)。上野:売り場のスタッフも、できるだけ専門用語を使わず、わかりやすい言葉で説明するように心がけています。時計に興味をもったばかりの方が、難解な専門用語ばかりで“良い時計”と巡り会えるタイミングを逃してしまうのはあまりにもったいないですから。
関:お客様が全員、時計に詳しいわけでないですよね。時計のいろはから教えてもらえるのは、とても有り難いですし、もっと話を聞きたいので、時計売り場に足を運んでみようと思えました。
上野:これまで時計売り場のハードルが高いと思われていたお客様には、ぜひ気軽にお話しだけでも聞きに来ていただきたいと思います。時計の知識が豊富なスタッフも大勢いますので、古い時計の蘊蓄から、最新モデルの情報まで、時計オタクを自認されるような方ともお話できます。どなたにもお楽しみいただけるウォッチコレクターズ ウィークに、ぜひ足を運んでいただければと思います。
上野 翔太
伊勢丹新宿店 時計バイヤー
入社時は婦人服を担当し、2009年より宝飾時計領域を担当。ブランドや技術の発掘を精力的に行っており、国内外の見本市やブランドの工場・工房を多く訪問。
関 太樹
ISETAN MEN'S net 編集長
(株)三越伊勢丹にてドレスからカジュアル・スポーツのメンズ領域の現場を一通り学び、現職に。愛用する時計もデザインでセレクトしたヴィンテージ。
伊勢丹新宿店の宝飾・時計各バイヤーが独自の視点で選んだ商品をご紹介する「About Fine Watch Making」や、今回店頭にご用意する一部商品などを盛り込んだ「ジュエリー&ウォッチカタログ2023」を公開中!
►「ジュエリー&ウォッチカタログ2023」はこちら
- 開催期間:7月5日(水)~7月18日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ・プロモーションスペース、本館4階 ジュエリー、本館5階 ウォッチ、メンズ館8階 イセタンメンズ レジデンス
*誠に勝手ながら、2023年7月7日(金) 伊勢丹新宿店本館5階時計売場はイベント開催につき午後4時に閉場させていただきます。他のフロアは通常営業いたします。
Text:Yasuyuki Ikeda
Photograph:Tatsuya Ozawa(Studio Mug)
*価格はすべて、税込です。
*本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。商品の情報は予告なく改定、変更させていただく場合がございます。