【座談会】<グランドセイコー>伊勢丹時計バイヤーに聞く、その魅力とは?技術力とデザイン性を備えた、信頼の証
伊勢丹全館をあげてのイベント「ウォッチコレクターズウィーク」の一環として、2022年7月13日(水)から19日(火)まで、本館1階 ザ・ステージに<Grand Seiko/グランドセイコー>がフルラインナップでそろう貴重な機会がある。この一大イベントを前に、時計バイヤーが三越伊勢丹の若手社員と<グランドセイコー>の魅力を語り合う場を設けた。時計マニアも納得の技術力と、若い世代にも届くそのデザイン。いまだからこそ選びたいその魅力に迫る。
2009年より宝飾時計領域を担当。バイヤーとして国内外のブランド発掘や、メーカーとの商談、実際の制作現場へ足を運ぶなど精力的に活動するなかで、<グランドセイコー>への思いを人一倍強くしている。
さまざまなメディアを通して、イセタンメンズのコミュニケーション設計やディレクションを行う。
時計は普遍的で飽きがこないデザインやディテールを重視。腕が華奢なこともあり、ボーイズサイズの時計を愛用中。
知っているようで知らない<グランドセイコー>
<グランドセイコー>は日本が世界に誇る時計ブランドだ。1960年に国産のハイクオリティな機械式時計として誕生し、現在では長野県塩尻市の「信州 時の匠工房」と岩手県雫石町の「グランドセイコースタジオ 雫石」で生産されている。世界的にも評価が高く、とくに海外では日本を代表する高級腕時計として認知されている。
しかし国内において、とくに若い世代にとって<グランドセイコー>のイメージとは「ブランド名は知っているけれど、よくしらない」という声が少なくない。実際、伊勢丹新宿店の若手社員も第一声は「父親世代の時計?」だった。
若い世代にも刺さる<グランドセイコー>の真実
「ビジネスパーソンの間では、シンプルなデザインと時間が正確であること、日本の真面目なモノづくりを体現していることから、信頼性を示す腕時計として認知されていると思います。そのぶん、正直に申し上げて、若い世代にあまり届いていないというのは、売り場からもしばしば声が挙がってきます。どちらかといえば、大人の方、お堅い職業の方の時計といったイメージがあるようです」
そう話すのは、時計バイヤーの上野だ。海外の時計展に足を運ぶと<グランドセイコー>ブースは、日本でも人気の高いスイスやドイツの高級時計ブランドと比肩する。海外の時計バイヤー、ジャーナリストらの評価は、真面目でお堅いイメージもありながら、先進的に真価を遂げつつも、高性能を全面にアピールしない奥ゆかしさのある、まさに「日本人らしい」時計だとも。そんな現地の温度感を知る上野にとって、国内の<グランドセイコー>の評価に歯がゆさを覚えるようだ。
「でも、たしかに、自分の父親世代がしている印象。僕らの世代で<グランドセイコー>している男性って、あまりいないし、自分ともあまり重ならないような気がします」
と、ISETAN MEN’S のデジタル担当、松岡。グランドセイコーはこれまであまり真剣に向き合ったことがないアイテムだそうだ。
「<グランドセイコー>のロゴがキラりと光るのが印象的かなぐらいで、アイコンとなるモデル名も浮かばないんですよね。でも、ブランドのイメージは悪くないですよ。男性がつけていたら、安心して家族に紹介できるかな、という好印象なブランドではあると思います」
そう話すのは、宝飾バイヤーの戸栗。「アイコンモデルが浮かばない」というひと言に、バイヤー上野が思わず目を向けた。
「確かに、グランドセイコーは意図的にアイコンとなるモデルを作っていません。デザインには統一性あるフィロソフィーを掲げながらも、あえて突出したデザインを作らないことを、ブランドのアイデンティティにしているようです。その代わり、中身で勝負したいというのが、本音なのだと思います」
海外には100年をゆうに越える老舗時計ブランドやマニュファクチュールがいくつもあるが、グランドセイコーも約60年の歴史の中で発売以来、特に精度の面で高い水準を実現してきた。
機械式時計の聖地スイスには、「クロノメーター検査基準」と呼ばれる厳格な精度規格があるのだが、グランドセイコーは1966年に、自社で独自の精度規格「グランドセイコー規格」を設定。1998年には、スイス「クロノメーター検査基準」よりさらに厳しい「新グランドセイコー規格」を設定している。これがグランドセイコーの精度と信頼の根拠である。この厳しい基準をクリアすることで、グランドセイコーは今日の揺るぎない地位を確立したのだ。
しかし、腕時計をアクセサリーとしても楽しみたい若い人たちにとっては、なかなか浸透しないというのもまた事実。グランドセイコーが世界に誇る機械式とクオーツのハイブリッド機構「スプリングドライブ」の駆動システムなど、時計ファンには垂涎の話しも、若い世代にはあまり響かないようだ。
「私もそうなんですが、女性にとって時計は可愛いデザインがいいなっていうのがあると思うんです。機械式ってなんかメンテナンスが必要なんでしょって思うと、電池で動くクオーツのほうが安心だし。でも最近はメカ好きな女性も増えてきているので、中身にこだわりたいという方には刺さるかなとも思います」と戸栗。
松岡も、時計は機械よりデザイン派。ファッションに合わせて、気軽に着替えられる時計が現実的だと話す。
「機械の話って、男の人には好きな人が多いので興味を持たれる方はいると思いますが、ぼくの周りにはあまり…(笑)。そんななかで、ここ数年、海外から国内に目が向いているなか、国内ブランドの服や小物、雑貨にも興味が向いているところです。そういう意味では国産時計ブランドは、流れ的にもありだなって思います」
たしかにここ数年、ファッションの流行がこれまでの海外ブランド偏重主義からニューノーマル時代の新しい価値観に移りつつあり、世代を問わず国内ブランドの再評価が進んでいる。腕時計にも、その流れは望ましい傾向と言えそうだ。
機能で選ぶか、デザインで選ぶか<SBGA401><SBGC244>
上野 それでは、実際に<グランドセイコー>の現行モデルをご覧いただきましょう。あらためて見ていただくと、魅力的な時計がたくさんあることに気づいていただけると思います。まずはSBGA401とSBGC244をご紹介します。伊勢丹新宿店ではグランドセイコーブティックとして、今年からブティック限定モデルを取り扱っています。
松岡 限定っていわれると、気になりますね。
戸栗 どの部分が限定なんですか?
上野 ピンクゴールドを差し色に使っているところがブティック専用モデルに共通する特徴です。SBGA401は3針に日付カレンダーを搭載するシンプルなデザイン。SBGC244はクロノグラフですのでストップウォッチ機能や第二時間帯を表示するGMT針が搭載されています。ステンレススチールケースなので扱いやすいのも特徴です。
松岡 見た感じ、大きいなと思ったんですが、手にとって見ると、そんなに感じないですね。最近の傾向として、大径の時計が多かったじゃないですか。僕は腕が細いので、大径の時計が似合わないんです。
上野 バランスという面では、デザインもバランスがいいと思います。それに時計部分とブレスレット部分との重量配分も考慮されているので、つけ心地も安定しています。
戸栗 ピンクゴールドの針がアクセントですね。最近、ジュエリーもK18PGって肌なじみが良いことで人気が高いですし、男の人がつけていても、かわいいと思います。ケース全体ではなく、ほんのちょっと、針とかリューズの部分だけっていうのがポイントで効いていますね。
上野 ケースはステンレススチールですが、ダイヤルや針のデザインに小さく色を使うのは新しい印象ですね。男性にはちょっとしたアクセサリーとして、ザ・ベーシックというよりも、ほんの少しカラーのあるタイプがいいのではないでしょうか。
戸栗 でも、クロノグラフのストップウォッチとかGMTとかって、使うんですか? スマホもあるし…。
上野 じつはアンケートをとると、時計の機能ってあまり使われていないんです。時間を読むこともしないという方は少なくないです。それでも機能にこだわりたいというのが時計の価値観のひとつなのだと思います。
松岡 やっぱり時計ってアクセサリー感覚なんですよね。そのアクセサリーの基準が貴金属の価値ではなく、機械として実用できることにおくとすれば、やはり良いものがほしいという気持ちには納得できます。
スタイルを選ばない王道のデザイン<SBGE285><SBGJ235>
上野 GBGE285はGMT針付きのシンプルなライトグレーダイヤルですが、「エボリューション9スタイル」と呼ばれる、グランドセイコーの新たなデザイン文法を採用したモデルです。視認性の高いダイヤルの加工や、凛としたケースのフォルム。ブレスレットの形状と質感までも、日本の美意識から生まれた要素を取り入れています。
戸栗 これらは新しく設定されたものなんですか?
上野 いいえ、このデザインはグランドセイコーが脈々と受け継いできた「セイコースタイル」というデザイン文法がベースにあって、それらを改めてアップデートさせたものです。グランドセイコーの、ひいては日本製時計のもっとも美しい形として、語り継げるものになっています。
松岡 ブレスレットがポリッシュとマットの2種類の金属加工を採用しているところは、こだわりを感じますね。時計自体も立体的なインデックスや細めのベゼルなど、細かいところまで手抜きのない感じがします。
戸栗 あ、これはちょっと軽いかも?
上野 ケースにはブライトチタンを用いています。通常はステンレススチールやホワイト・イエローなどのゴールドが用いられますよね。チタン製ケースを高級時計に用いたことも、新しい価値基準を生み出したのではないかと思うのです。
戸栗 最近、女性でもメンズの時計をつけている方は増えているのですが、この軽さなら気兼ねなくつけられそうです。男性でこの時計をつけている人は、きっとなにかこだわりを持っている方なのだろうなと思います。知っている人同士で繋がれそうだし。モノづくりの背景を知っている人は、見る目があるなと思います。
松岡 ここにある時計のなかで、デザイン的にはこれが一番好きですね。シンプルなのに、いろんなこだわりが詰まっている。自己満足もふくめて自分が納得できるモノ選びとして、自分だけの価値観が見いだせて、すごく気持ちがアガる時計ですね。
上野 ブルーダイヤルのSBGJ235もGMT針を搭載しています。こちらはエポリューション9 コレクションではないのですが、グランドセイコーの伝統的なデザインを継承しているモデル。フェイスカラーのブルーは、岩手山の山肌を表現した「岩手山パターン」ダイヤルで、”月光を照り返す雪明りで仄かに浮かび上がる冬山”を模しているといわれているんです。塩尻の工房はスプリングドライブ、雫石では機械式時計を作っているのですが、それぞれの土地の特徴をデザインに落とし込んでいるのも、グランドセイコーならではです。
戸栗 工房の周囲の自然を体感しているかのようで素敵ですね。
上野 工房は岩手山の麓にあって、工房のまわりの環境保全にも力を入れています。オリンピックスタジアムの設計で知られる日本を代表する建築家・隈研吾さんが手掛けた木製のクリーンルームなど、世界的にも見たこと無いほど美しい工房です。
松岡 そういう話を聞くと、体験価値としても高いですね。ブルーのダイヤルはネイビージャケットやサックスブルーのシャツの袖口から覗かせると合わせやすいし、スーツからデニムまで対応できると思います。
男性にもおすすめしたいレディス時計<STGK007>
戸栗 グランドセイコーって男性の時計というイメージがあるのですが、女性用もありますよね。
上野 今回、お持ちしたのは27.8ミリ径の女性用モデルなのですが、個人的には男性にもおすすめしたいです。
松岡 昔のメンズの時計にはアンダー30ミリ径のモデルがありますが、そんなイメージですか。
上野 いま男性用アンダー30ミリ径って、なかなかないのです。11ポイントのダイヤ入りですが、いま男性にダイヤ付きのジュエリーやアクセサリーが人気ということもあり、小ぶりのダイヤ入りブレスレットの感覚で取り入れていただくとエレガントだと思います。
戸栗 ジェンダーレスなイメージでつけられそうですね。
松岡 ケースがちょっと小ぶりになるだけで、とても洒落て見えます。普段30ミリ径前後の時計をつけている男性は少なくないと思うので、そういう方には抵抗ないのでは。
戸栗 パートナーともシェアできますよね。しかもケース裏はスケルトンになっているんですね。機械の動きが覗けるデザインは女性用としては珍しいので、機械好き女子にウケそうかも。
上野 このサイズでも、グランドセイコーのデザインランゲージはしっかり踏襲されているので妥協がありません。伝統的かつ未来に遺せるデザインが、日本のプロダクトから誕生していることに誇りを持てる時計ではないでしょうか。松岡さん、すごくお似合いですよ。
松岡 このサイズ、僕の腕に合いますね。つけてみたら、すごく気に入りました。
戸栗 女性用の時計を男性が手に取ることってあまりないと思うのですが、松岡さんが実際に手にしているところを拝見すると、すごく馴染んでいますよね。
上野 女性用の時計を試着する機会って、あまりないと思います。華奢な方、腕が細いと思われている方には、ぜひ体験していただきたいですね。
新旧のフィロソフィーが息づくドレス時計<SBGW283>
上野 最後に1点、ご紹介したいのはこちらのSBGW283。今春から伊勢丹新宿店でお取り扱いができるようになったモデルです。ステンレススチールケースで、ここまで美しく磨き上げた高い技術力。ベルトがレザーになっているので高級感や緊張度という面からもトップに位置するモデルといえます。
松岡 一瞬、ホワイトゴールドって言われても、わからないかも(笑)。
戸栗 ホント、ケースがとってもきれいですね。ダイヤルが淡いブルーなのもとっても素敵。
上野 最近、時計のトレンドとしてカラーダイヤルが人気です。ブルーのほか、グリーンなども各社からリリースされているのですが、この淡いブルーはほかではあまり見られないお色だと思います。
戸栗 ベルトはネイビーですね。私の時計もピンクのレザーベルトなのですが、女性の時計はベルトの色で遊ぶことが多いと思います。
上野 男性にもベルトのカラーで遊んでいただきたいと思っているのです。カラーだけでなく、留め具の位置が真ん中にくるようにサイズの調整もしていただきたいです。ベルトサイズが合わない時計をしている方、とても多いので。
松岡 風防が湾曲しているのは、昔の時計のイメージですか。ちょっとクラシックな印象です。
上野 ガラス面が曲線を描いているのは、昔は耐久性がないため平面だと割れやすので、あえて曲線にして強度を出していたから。近年のサファイアガラスは強度が高いので、フラットでも割れにくいのです。そこをあえて曲線を採用することで、クラシックなデザインを演出しています。
戸栗 すごい。こだわっているんですね。グランドセイコーって、こだわりぬいた結果、たどり着く選択肢なのかもと思いました。これからは、つけている男性の見方が変わりそうです。
松岡 僕もグランドセイコーには固定概念があったのですが、話を聞いていると、現代的なファッションとのマッチングもあるし、むしろ今だからこそ選択肢になり得る時計なのではないかと思います。
上野 ようやく海外旅行も行きやすくなりそうですが、<グランドセイコー>は海外ブランドと十分比肩するブランド力があります。日本人だったら、ぜひ一本持っていてほしい時計ですね。
- 開催期間:7月13日(水)〜7月19日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ
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- 開催期間:7月6日(水)~7月19日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ、プロモーションスペース、本館4階 ジュエリー/プロモーション、本館5階 ウォッチ、メンズ館8階 イセタンメンズ レジデンス
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Text:Yasuyuki Ikeda
Photo:Yusuke Iida
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