【インタビュー】3年ぶりの写真展「都市の記憶 -Landscape-」を開催。“写真家”・山田智和氏が世界中を横断して作品を撮る、その眼差しの先に
- 06.22 Wed -07.12 Tue
- 伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
時代の寵児ともういうべき“映像作家”の第一人者であり、自身初の個展「都市の記憶」以来“写真家”としての活動にも力を入れている山田智和氏が、伊勢丹新宿店に“還ってくる”。「都市の記憶 -Landscape-」と題し、前作に連なる文脈で撮影、展示される作品に込められた想い、また会場である伊勢丹新宿店を含めた“場所”に対するこだわりについて、山田氏本人に話を訊いた。
- 開催期間:2022年6月22日(水)~7月12日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館1階 プロモーション
風景と自分の可能性。
なぜそこでシャッターを押したのか。
その反応の正体が知りたい。
この世に存在してからの旅の記憶と、
言葉では伝えることのできない感情。
その風景で初めて感じたものであり、
もともと自分の中に存在していたものだ。
都市が記憶の装置であるように、
わたしの中にもその「風景」が今日も存在する。
山田智和
映像作家ではなく、写真家としての写真展
サカナクション、米津玄師、あいみょん、星野源、KID FFRESINOのMVや、長編映画やテレビドラマ、CF、ファッションムービーなどを撮影、監督する大人気“映像作家”の山田智和氏が、初の個展を写真展として開催したのはおよそ3年前。キャリアの当初から動画をモーションピクチャー(活動写真)ととらえ、スチール写真との境界線を意識せず活動してきた彼は、この個展以降、さらに“写真家”としての表現、活動への意識を高めてきたという。
「都市の記憶」(2019)から「都市の記憶 -Landscape-」(2022)へ───。光と影を巧みに操り、人物の内面を丸裸にするような繊細な映像表現で定評のある山田氏が、再び感情を揺さぶる風景写真を切り取ることに専心し、あえて新作と旧作を混在させたエポックメイキングな写真展を開催するのはなぜか。そしてまた伊勢丹新宿店というショーケースを展示会場に選んだ理由とは?まずは前回の「都市の記憶」展で感じたこと、手応えから尋ねてみた。
山田 3年前の展示はファッションビルで行ったインスタレーションのようなもので、ギャラリーに目当ての作家の作品を鑑賞に来たという人向けのものではありませんでした。ですので、お買い物に来店された方にも楽しんでもらいやすい内容になったと思っています。当時は「映像作家の写真インスタレーション」という意味合いがまだ強かったのですが、現在はスチール写真の仕事もかなり多くなってきている。だから今回は、前回よりもっと“責任”をもちたいと考えました。
“責任”という言葉には、きっと“映像作家による初めての”という注釈が付いた写真展ではなく、紛れもない写真家による写真展であるという矜持、そして展示する作品選びからサイズ、会場レイアウトに至るまで、自身が責任をもって追求するという強い意思が込められているのだと思う(「都市の記憶」展では、鑑賞する側の感覚を重視して、あえて作品選びをキュレーターに一任したという)。
山田 前回は前回でよかったんですが、今回はもう少し“背負いたい”というのが、いま思っていることですね。どこか感覚的な“インスタレーション”ではなく、自分が見てきた景色を刻み込んだ写真を、観る人にもう少し足を止めて、時間をかけてじっくりと見ていただける“写真展”にしたいと思っています。そのために一枚一枚の作品に掛ける僕の熱量も、写真から伝わる熱量も、できるだけ上げたいというか……。プリントサイズを前回より一回り以上大きくし、点数はギュッと絞り込むことにしました。
場所を記憶し、感情を補完する写真が紡ぐストーリー
「都市の記憶」展から「都市の記憶 -Landscape-」展までの約3年という期間のなかで、山田氏の個展は“インスタレーション”から“写真展”へと深化した。この決して小さくない心理的変化は、折からのコロナ禍とも無縁ではないはずだ。
山田 パンデミックの最中、以前なら直感的に“眺める”だけだった景色とも、制約の多い仕事や暮らしのなかで必然的に接する時間が長くなると、きちんと“向き合う”ことができるようになることに気が付きました。別に景色だけじゃなく、あの時あの人って何を考えてたんだろう、その時に自分はちゃんと向き合えてたのかな、とか。向き合い切れたという自信があるときも、そうじゃない時も、“記憶を補完する”ことができる写真の大切さをより強く認識したんです。
そんな山田氏にとって最も大切なのが、なぜその場所に行ったのか、なぜカメラのシャッターを押したのかというストーリーだった。
山田 僕は“場所”が生み出すストーリーこそが、なによりも重要だと考えています。撮影地から展示会場まで、すべての場所が大切なんです。
前回も今回も、「都市の記憶」というシリーズタイトルで撮影された作品群は、どれも写真展のために撮り下ろされたものではない。東京・築地やモンゴル、アイスランド、ハワイなど、山田氏が過去に訪れた場所で、心を揺さぶられた瞬間にシャッターを押し、その“記憶”として紡いできたストーリー性の高いランドスケープ(風景)ばかりだ。そこには、ほとんど人物が登場しない。しかしそれは、人物が嫌いなわけでも、排除しているわけでもないのだとか。
山田 僕にとってのランドスケープって、狭い場所から開かれた場所を視るというか……、当たり前だけど、“ファインダーから覗いた世界”に近い。人が大好きだし、一見無人のランドスケープであっても、僕の写真には常に人物が存在しているんです。ファインダーを覗く自分という人物を、いつも意識していますからね。
撮影者の興奮、感動がそのまま伝わってくるようなエモーショナルな写真たちは、観るものを一瞬で引き込み、その場所、その視点に瞬間移動させてくれそうな、問答無用のパワーをもつ“絶景写真”だ。
山田 確かにどれも良い景色だとは思いますが、ぼくは絶景写真家ではありません。(笑)なんといえばいいのか……写真展のために、“邪(よこしま)”な気持ちで撮ったものではないんです。展示も新宿で行うこと、そして伊勢丹で行うことにこそ意味があって、前回も今回も、そしてこれからも、すべてが“場所”によって繋がっていると捉えています。
生まれ育った新宿という街、そしていまでも「週1~2で通っている(笑)」という伊勢丹という空間が、山田氏にとってひときわ特別な“場所”であることは想像に難くない。さまざまな都市で心と映像に刻み込んできた記憶を、定期的にホームタウンである新宿へと舞い戻って披露しているようにも思える一連の写真展は、まさに山田智和氏という写真家のストーリーそのもの。つまり「都市の記憶」展と今回の個展は地続きであり、山田氏の人生(ストーリー)の記憶を共有するかのような、壮大なプロジェクトの一部といっても過言ではなさそうだ。
山田 いまは“アップデート”という考え方がしっくりきていて、なんでもどんどん作り直して更新していけばいいと思っているんです。3年前に展示した作品を、より大きなサイズで再展示するのも、その一環。「都市の記憶」というタイトルを自分のシグネチャーにしたいし、伊勢丹さんと行う共同プロジェクト名になるといいなと考えています。だから今回も、「都市の記憶 -Landscape- 」というタイトルに決定しました。
山田智和のなかにある「風景」
できるだけナラティブな情報による先入観をもってほしくないという理由で、基本的に個別の作品については多くを語らない山田氏。しかし「都市の記憶 -Landscape-」のキービジュアル数点については、撮影時のエピソードをこっそり明かしてくれた。
山田 アイスランドの廃墟小屋から、誰も使わなくなってしまった桟橋を撮影した「Window」は、まさに窓枠がファインダーのような機能を果たし、「狭い場所から広い場所を視る」という僕の写真感覚を象徴するような作品です。「PLANE」もアイスランドで撮影したのですが、多くの人々が見物に集まって、子どもが機体にぶら下がって遊んでいるような、自由な場所でした。窓の穴を貫く夕陽が、連弾のようでとても美しかったですね。
「Tsukiji Zero」は、築地の場外市場取り壊し後の土地に、轍のように刻み込まれていた引き込み線がグラフィカルな線となって見える作品だ。
山田 築地で荷物を運んでいた列車の線路が、建屋がすべて取り壊されたあとも、名残のように、記憶のように残っている風景が印象的でした。
ここで改めて、山田智和氏が「都市の記憶 -Landscape- 」のために発した、冒頭のステートメントを読み返してみよう。
いまなら、山田氏が“写真展”を強く意識しながら、ギャラリーではなく、伊勢丹新宿店という会場に強くこだわった理由がよくわかる。山田氏にとってこの写真展は、他の会場では開催しえない類のものだからだ。
山田 これからも、新宿以外で写真展を行うことはあまりないと思います。渋谷をテーマにしたプロジェクトがあれば、渋谷で開催しますけど(笑)。僕はギャラリーで写真を買ったこともないし、ギャラリーだけで扱われるアーティストになることも今のところは考えていません。地元の新宿にあり、いまも足繁く通うファッションや食品街の殿堂であるイセタンで、作品をプリントしたフォトTなどのグッズとともに販売してもらえるという文脈が、自分の生活の延長上で、なにより大切なんです。
最後に、「都市の記憶 -Landscape- 」を目にする可能性のあるすべての人々に向けてのメッセージを託されたので、紹介したい。
山田 普通に買い物に来た方が、「この飛行機かっこいい」とか、「この景色はどこだろう?」と、立ち止まってくれるだけで、とても嬉しいです。皆さんが電車やクルマに乗っているとき、なにげなく窓の外の風景を見て、“そこ”に自分がいなくなってしまう、ふとした瞬間ってありませんか?物思いに耽るというか、何かを思い出すというか……。僕の写真が、そんな感覚を味わう一助になれば、と。遠いどこかへ一瞬でワープした気分になれる作品を通じて、心の故郷のようなものに向き合ってほしい。シンプルに、そう願うばかりです。
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Photograph:Natsuko Okada / Profile
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