<アクアスキュータム>の歴史と共に歩み続けてきた「トレンチコート」の哲学とは|日本橋三越本店


2021年に創立170年を迎えた<Aquascutum/アクアスキュータム>。時代の変化とともに歩みを進めた同ブランドのマスターピースといえば「トレンチコート」である。

日本橋三越本店 本館2階<アクアスキュータム>店長の佐藤氏と日本橋三越本店 紳士クロージング スーパーバイザーの岩元が、ブランドの歴史と共にアイコンとしての存在を確立してきた「トレンチコート」の魅力について語り合った。

  1. 現代でも絶大な人気を誇る<アクアスキュータム>ブランドのルーツとは
  2. トレンチコートに魅了された往年の名優・著名人と歩んだブランドの軌跡
  3. 時代を超えて現代へ紡がれるマスターピース「トレンチコート」に迫る
  4. 未来への指針<アクアスキュータム>が目指す先とは


プロフィール
佐藤 太
<アクアスキュータム>日本橋三越本店 店長
紳士重衣料業界に携わること40年。
現在は日本橋三越本店<アクアスキュータム>の店長を務め、沢山のお客さまにブランドの魅力を伝えている。
岩元 智之
日本橋三越本店 紳士クロージング スーパーバイザー
入社以来、メンズクロージングやラグジュアリーブランドのバイヤーを担当し、現在は日本橋三越本店紳士クロージングのフロアマネージャーを務める。
※本インタビューは2020年に実施したものです。


現代でも絶大な人気を誇る<アクアスキュータム>ブランドのルーツとは

岩元:まずは<アクアスキュータム>の歴史について教えてください。

佐藤:1851年仕立て職人のジョン・エマリーがロンドンのリージェントストリートにて紳士服店を開業したところから始まります。創業時から優れた職人技術と技術革新により業界の最前線をゆくブランドでした。

開業から二年後、エマリーは防水加工を施したウール生地を初めて作り出し、特許製品としました。このユニークな開発がラテン語で「水の楯」を意味する<アクアスキュータム>というブランド名の由来となります。

その後生地の撥水性や耐久性を買われ、英国陸軍から塹壕コートや軍服などの仕立てを依頼されます。1897年にはエドワード7世からロイヤルワラントを頂戴し、ブランドの名も世界に広がっていきました。


岩元:ブランドが得意とするコートの歴史は英国陸軍の依頼から始まったのですね。ブランドの哲学、こだわりはどういったものでしょうか。

佐藤:ブランドの哲学はやはり、トレンチコートに集約されています。トレンチコートはマスターピースとして、90年以上変わらず常に<アクアスキュータム>のアイコンです。トレンチコートに関しては頑として譲れないブランドのポリシーです。


岩元:90年間守り続けているブランドのアイコンが、そのままブランドのポリシーになっているのですね。モノづくりの中心もトレンチコートですか?

佐藤:そうです。必ずトレンチコートありきでモノづくりが始まっています。そこから波及して、例えばブルゾンならベルトのDカンやガンパッチがついたり、どこか一か所にトレンチコートのアクセントが組み込まれたデザインが多いですね。


トレンチコートに魅了された往年の名優・著名人と歩んだブランドの軌跡

岩元:<アクアスキュータム>のトレンチコートと言えば、ショーン・コネリーや、名優と呼ばれる方々が映画の中で格好良く着用していますよね。その影響もあり、「男の憧れ」ともいえる名作だと思います。


佐藤:そうですね、往年の銀幕スター達が格好良く着こなしていますね。映画の中だけではなく、さまざまな偉人たちにも愛用されています。
エドワード7世からロイヤルワラントを頂戴した際、<アクアスキュータム>の生地の強度、防水性を非常にお気に召していたと聞いています。

また、1953年にヒラリー卿が世界で初めてエベレストの登頂に成功した際、「ウィンコルD711」という防風性・耐久性に優れた生地を開発し、採用されました。トレンチの素材を大切にしながらも、こういった進化した素材も常に考えモノづくりに反映させていました。

岩元:トレンチコートに対するモノづくりを追求する姿勢と、多くの方からのご要望を常に受け止める姿勢、どちらも疎かにせず向き合ってきたから、愛され続けているのですね。


時代を超えて現代へ紡がれるマスターピース「トレンチコート」に迫る

岩元:今、<アクアスキュータム>をご愛顧いただいているお客さまは、まず初めにトレンチコートから入る方が多いですか?

佐藤:そうですね、ブランドの入り口としてはまずトレンチコートをお求めになる方が多いですね。<アクアスキュータム>のトレンチコートを生で見てみたい、とご来店されます。トレンチコートが好きな方はマニアな方が多く、歴史やディテールに対してもとても詳しい。もちろん厳しい目でも見られるので、モノづくりに関しては徹底して行っています。


岩元:こだわりの強いマニアなお客さまに対しても、ご納得いただけるクオリティということですね。

佐藤:そうです、一度気に入っていただけると色を変えてお求めになったり、こちらも定番のコートですが、ステンカラータイプのローバーを買い足されたりと、一生のお付き合いになっていきます。

岩元:なるほど、ほかのブランドはスーツやジャケットを買ってくださった方が顧客になることが多いですが、そこが他のブランドと圧倒的に違いますね。

佐藤:スーツから入る方もいらっしゃいますが、「<アクアスキュータム>といえばコート」という認識が強く、完全に目的をもってコートを買いにいらして、スーツもいいものがあったから、という感じで広がっていっています。

岩元:最近では若い方でトレンチコートをお探しの方が増えている印象です。

佐藤:カジュアルに着こなす若い方が非常に増えてきています。ずっと変わらない完成されたデザインですので、気に入っていただければ毎年流行りのコートを買わなくても済みます。

正直お値段は張りますが、アフターケアもばっちりなので、一着を長く愛用していただけます。ボタンやベルト、肩章といった付属品に関してはブランドで必ずスペアを保存しているので、例えばクリーニング屋さんで肩章だけ失くしてしまっても、リペア用の部品をそろえてありますので心配はいりません。


岩元:すばらしいですね。若い人たちも1年で着られなくなる3万円のものよりも、20年着られる20万円のものの方がいいという訳ですね。

佐藤:はい。そして流行り廃りがなく、ずっと定番ですから。


未来への指針<アクアスキュータム>が目指す先とは

岩元:170周年を迎えるにあたり、どういう方向性を目指していますか?

佐藤:これは私の個人的な考えですが、やはりコロナ禍でお客さまの生活スタイルが大きく変わりました。従来のかっちりとした少し重たいイメージから脱却して、より軽めのアイテムも増やしていきたいと考えています。
しかし、いくら生活スタイルが変わろうとも、変わらない価値であり続けるトレンチコート、この魅力はこれからも発信していきたいですね。

スーツの上にトレンチコートを羽織る背広族の方に、カジュアル感、もしくはトレンチコートの新しい着方を提案していくのが私たちの使命だと思っていますので、そのあたりをよく見極めながら170周年以降も進化していきたいと考えています。


岩元:昔ながらの大切なものを守りながら、トレンチコートの新たな可能性を提案することが使命ということですね。ブランドとしては過去に「シュプリーム」や「ベルサイユのばら」などとコラボされたり、新世代へのアプローチも非常に上手な印象です。

現在ではコラボ以外にも、カスタムやオーダーを中心に、お客さまのパーソナルなニーズにも応えていますよね。



佐藤:そうですね、コートのカスタムですと、お手持ちのコートにワッペンやカッティングシートを張り付けることができます。何着もお持ちになられている方や、着古したので買い替えをご希望の方などにおすすめしております。いい具合に味が出てエイジングされたコートにカスタムすると、カジュアルのコーディネートにすごく良く合いますのでおすすめです。ぜひ着なくなったコートをカスタムしてカジュアルトレンチの着こなしを楽しんでいただければと思っています。
(※生地の特性によってはお付けできない場合もございます。詳しく店頭スタッフまでお問い合わせください。)

岩元:長くトレンチコートを楽しんでいただけるよう、色々と提案されているのですね。コートオーダーもご好評ですよね。

佐藤:はい、例年会期を設けてコートオーダー会を実施しています。

岩元:どこまでオーダーメイドできるのでしょうか?

佐藤:まずは生地、それから裏地、そしてライナーをお選びいただけます。もちろん、お客さまのサイジングでお作りいたします。トレンチの場合、身幅は身長で決まりますから、恰幅のいい方、ご身長がおありの方など、お客さまのご体型に合わせたオーダーが可能です。既製品では裏地の取り換えだけでも行っています。

岩元:いろいろな楽しみ方があるのですね。ワッペンを付ける企画や、最初から自分のサイズで作るオーダーがあったり、既製品だけれども裏地を選べたり。


佐藤:コートでそれだけの手間暇をかけて色々選べて、というのはなかなか無いと思います。

岩元:トレンチコートをいかに楽しみながら永く大切に着ていただくかを考えながら170年が経ったのですね。今後の<アクアスキュータム>も楽しみにしています。


  • <アクアスキュータム>トレンチコート参考価格

     
    ・トレンチコート「KINGSWAY」(マスターピースモデル) 220,000円(英国製)
    ・トレンチコートパターンオーダー 165,000円~(日本製)
    ・ワッペン・カッティングシート 無料・1,650円の2種類

 

 


*価格はすべて、税込です。

Photo&Text:NIHOMBASHI MITSUKOSHI MEN'S
Edit:ISETAN MEN'S net


お問い合わせ
日本橋三越本店本館2階 <アクアスキュータム>
03-3274-8396(直通)