【インタビュー】<AUXCA.TRUNK/オーカ・トランク>老舗テーラーの三代目・隅谷彰宏が再定義する日本のラグジュアリーの本質とは
メンズ館8階メンズレジデンスに展開する<AUXCA.TRUNK/オーカ・トランク>は、東京・赤坂にある老舗テーラーの三代目、隅谷彰宏氏が2016年に立ち上げたメンズ&レディスをラインナップするオリジナルブランドである。
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隅谷さんは、テーラーでありながら、国内のみならずイタリアの工房と生産に取り組んだり、海外ブランドの国内販売代理店を手掛けるなど、幅広く活動されていることでメディアからも注目を集める人物だ。
<オーカ・トランク>は、彼が現代日本のアパレル業界に一石を投じるべく、新しい時代の価値観を創造するために創設された。今回、直営ショップであるAUXCA|SALOONに伺い、隅谷さんにブランドの誕生に至った経緯と、その思いを伺った。
作り手と売り手、買い手も納得が行く「本物」へのアプローチ
1980年代には115万人いたといわれる日本のアパレル産業従事者は、2010年には30万人まで激減している。2021年の今日では、さらに減少しているに違いない。またある統計によれば、日本国内で流通する全衣料品のうち、国内生産品はわずか2%に過ぎないという。
海外ブランドと安価なファストファッションが幅を利かせる日本のファッション・ビジネスに、疑問を抱いたのは東京・赤坂にある老舗「テイラー アンド クロース」の三代目、隅谷彰宏さんだ。「テイラー アンド クロース」といえば、吉田茂やマッカーサーのスーツを仕立てた隅谷太郎が開いた、今年創業75年を迎える名門テーラー。幼い頃から祖父である太郎氏の工房に出入りし、学生時代は父に付いて修行の日々を送った隅谷氏は、やがて代表の座を受け継ぐと現実に直面する。
「雑誌に掲載してもらうために多額の広告料を支払い、在庫ばかり抱えて慢性的にセールを行わねばならず、借り入ればかり増え、規模は拡大しているのに一向に利益に結びつかない。なぜ、ここまで日本のファッション・ビジネスが衰退してしまったのだろう。その理由を知りたくて、慶應義塾大学の大学院で研究することにしました」。
大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科では、現代のファッション・ビジネスを根本から見直し、再構築することを学んだ。そこで気づいたのは、日本のファッション業界の構造的な悪循環だった。
「構造的な問題を可視化して、ビジネスのシステムをリデザインすることが私の研究課題でした。そこには「作り手」側の問題と、「売り手」側の問題が存在します。モノの価値より広告を重視し、売り手側もメディアに掲載されているならと、自ら品質を見極める目を養わずに同一化していきます。価格しか見ないので購買意欲は低下し、服を買うこと、着ることの本質を見誤ったまま、結果、だれも得をしないという状況が出来上がってしまっていたのです」。
これまでのビジネスモデルは、広告優先という作り手の意志とは違う方向になるとともに、売り手もまたマーケット主義に走ることで、双方ともに信念あるモノ作りができない状況に陥っていく。品質より見栄えにとらわれる作り手と、作り手や売り手に言われるままに記事を製作するメディアが招いたスパイラル。
隅谷氏はあらためて、服を買う・着ることの「価値」を再構築していく。―――
「ファッションの意義をもう一度見直していったときに、最終的に行き着いたのは、『理由のある服』でなければ、誰も満足できないという結論でした。作り手は伝統に裏打ちされた本物を生み出し、買い手はそれを着ることで気分が上がる。ファッションは心を動かし、感動を与えるものでなくてはなりません」。
着る人に感動を与える服は、信念を持って作られた本物でなくてはならない。この絶対的な事実を旗に、隅谷さんはが立ち上げたのが<オーカ・トランク>だ。
日本人の美意識に通じる「理由のある服」
「ちょうど私が研究を続けていたときに出会ったのが、都内の企業が織ったスビン綿100%の生地でした。これが、めちゃくちゃ肌触りがいいんです。スビン綿ならではの毛羽立ちが少ない上品な表面感と肌触りの良さは、一度着れば手放せなくなります。そのかわり単価は高級生地ブランドに比肩します。普通のメーカーではとても手を出せない価格でした」。
スビン綿とは“繊維の宝石”といわれる海島綿ヴィンセント種と、インド原産のスジャータ綿とをかけ合わせたもの。2つの綿花の頭文字をとって「スヴィン(※日本名ではスビンと表記)」と名付けられた超長綿だ。インド南東部のタミル・ナードゥ州でのみ採取される希少な素材で、繊維が長く極細なため紡績が難しいとされている。そのため他の綿繊維と混紡されることのが一般的なのだが、隅谷さんが出会ったスビン綿生地は混ざりものなしの100%。この極上生地と出会った途端、いまの日本のファッション構造を打破することにつながると直感したという。
「スビン綿100%は論理でしかない。情報としては映えるけど、それが買いたいことへの動機づけにはなりません。作り手が伝えるべきは、その心地よさ、着たときの肌触り、そして気持ちが上がる感覚です。私たちはテーラーなので、着心地に直結する型紙については熟知しています。最高の素材と型紙で作られた服を着ることで生まれる美意識は、立ち居振る舞いにも表れます。それこそが着るべき理由のある服なのです」。
このスビン綿の心地よさを知ってもらうためのブランディングこそ<AUXCA.TRUNK/オーカ・トランク>だ。
「AUXCA」とは「桜花」のことであり満開でも散りゆくときも美しい日本人の持つ「侘び寂び」の感覚を表し、「TRUNK」とは「幹」、しっかりと根を下ろし枝を張り巡らす大木を意味している。しかし、素材の良さだけでは売れない。
着ることで気持ちが高揚し、立ち居振る舞いも変わる服。それはデザインを足していくのではなく、削ぎ落としていく引き算のデザインだ。だからこそ着る人を引き立ててくれる。「美味しいラーメン屋に通うように、また着たくなる服なんです」と笑う隅谷さんだが、そんな「理由のある服」への想いを、こう書き綴っている。
良質なもの以外に興味はない
デザインだけのものには惹かれない。
本質を見極めて、
気持ちを豊かにしてくれるものとすごしたい
それは
身につけるものだから
心を穏やかにするものだから、
センスをあらわすものだから。
そして
毎日を心地よくしてくれるものだから。
たとえ
目に触れることはなくても、
気に留められなくても
見えないところに思いを込めたい。
嘘をつかない
プライドを忘れない。
その美意識がAUXCA.TRUNKの価値。
AUXCA.TRUNKを着るということは、
新しい時代の生き方を着るということ
この想いは英訳され、店内にも掲げられている。
日本発のラグジュアリーブランドを世界へ
いま隅谷さんは、日本発のラグジュアリーを世界へ向けて発信するプロジェクト「JAPAN AUTHENTIC LUXURY=JAXURY」の活動にも力を入れている。
「現代の日本人にはラグジュアリーの正しい意味を履き違えている人が少なくありません。そもそもラグジュアリー研究の論文も、海外には数万件もあるのに、日本では600本にも満たないんです。しかも困ったことにラグジュアリーとプレミアムを捉え違えている」。
日本でラグジュアリーブランドといえば、海外メゾンのイメージが強い。しかも日本語の「ラグジュアリー」には「高価」「贅沢」「華美」といった、金満主義へのネガティブイメージまでもがつきまとう。しかしラグジュアリーの本来の意味は「心地よい」「上品」「稀有な喜び」など、高額品や贅沢品といった排他的なものではなく、希少な価値感を提供してくれるポジティブなものである。
「イタリア貴族の末裔である友人が、ラグジュアリーとは”モノ”ではなく”ライフスタイル”だと言ったんです。その言葉が、とても腑に落ちました。単に伝統があるだけのものでもなければ、自分を誇示するだけのものでもありません。伝統が有りかつ本物であること、信頼に足る、心から誇るべきもの。それこそが本来のラグジュアリー、オーセンティックラグジュアリーの本質なのです」。
隅谷さんが言う「本物」とは、作り手が心から良いと思いながら信念を持って追求し、創造したもの。そして、その価値をわかる人すべてが体感し、理解し、認めることで初めて成立する。そして、誰も犠牲にならず、関わるすべての人に幸福をもたらすものでなくてはならない。
「欧米のラグジュアリーの根幹は貴族文化にありますが、日本でも戦前まで貴族社会が続いていました。しかし戦後70年で、文化としてのラグジュアリーは心を失ってしまったんです。今こそ、日本流のラグジュアリーを再定義し、ブランドとして構築し、世界に向けて発信するときだと思っています。世界中が日本に注目している今こそ、日本発のラグジュアリーを発信する好機なんです」。
隅谷さんは今年3月、雑誌『FRaU』と連動して新時代に求められる日本発の感動体験「JAXURY」を世に届けていくべく「JAXURY委員会」を発足。JAXURYアワードとして100企業に、大賞、部門賞を選定した。
「これからのラグジュアリーは、作る人も享受する人も、皆がハッピーでなくてはなりません。ラグジュアリーとは利己ではなく利他。その本質を再確認すべきときだと思います」。
<オーカ・トランク>は、「利他服」であるとも隅谷さんはいう。着る人を必ず満足させる服である、と。それだけの熱量をもって取り組んでいるのだ。
情熱は必ず共感を生み、共感した人は再び戻ってきてくれる。実際にいま、ブランド全体のリピーター率は6割にのぼるという。伊勢丹新宿店メンズ館に足を運ぶ「本物を知るお客さま」から支持されていることもまた、<オーカ・トランク>のコンセプト、ひいては隅谷さんの定義が正しかったことの証でもある。今、私たちは未来の日本発のラグジュアリーブランドの始まりに立ち会っている。
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- 開催場所:伊勢丹新宿店メンズ館8階 イセタンメンズ レジテンス
- 価格:カシミヤコート 550,000円から/カシミヤダウンコート 660,000円から
*メンズ・レディース計 6型展開予定 - お渡し:11月下旬頃から
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Text:Yasuyuki Ikeda
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