2021.05.19 update

【対談】<ルコックスポルティフ>|見た目はスニーカー、履き心地は革靴。2人の靴賢者が語る「クラフテッドスニーカー」の未来


スポーツブランド<ルコックスポルティフ>が靴職人 五宝賢太郎氏をディレクターに迎え、2020年にローンチされたシューズコレクション「CRAFTED SNEAKER(クラフテッドスニーカー)」は、ビジネスとカジュアルシーンで履ける革新的なフットウエアだ。

今回は、その1stコレクションからさらにお客様の声を反映させアップデートを加えたニューモデルの発売を控え、五宝氏と親交の深い伊勢丹新宿店の元紳士靴バイヤー・現同フロアマネージャーの田畑智康に話を伺った。改めて今のライフスタイルに応える靴のあり方、2人が思うフットウエア全体の未来像とは。

<ルコックスポルティフ>メンズシューズ商品一覧を見る



  1. 「道具」と捉える「靴」の進化を考えた共通の価値観
  2. サステナブルな靴とは「愛着」を持って長く履けること
  3. 「革靴」の履き心地にこだわった「スニーカー」
  4. 本質的な役割が求められる「靴」の未来

「道具」と捉える「靴」の進化を考えた共通の価値観


左:五宝賢太郎

靴職人・デザイナー。靴工房「GRENSTOCK(グレンストック)」代表。埼玉県蕨市の靴職人・稲村有好氏に師事し、その後工房を引き継ぎ独立。靴修理からオーダーメイドの靴づくりまでを行う傍ら、さまざまなブランドの企画やデザインも手がけている。

右:田畑 智康
伊勢丹新宿店メンズ館地下1階・1階・5階フロアマネージャー。入社15年目で、うち14年間で紳士靴を担当。地域店やプライベートブランドのバイヤー、セールスマネージャーを経てメンズ館地下1階紳士靴バイヤーへ。2021年4月より現職。「お客さまもスタイリストも心から楽しめるお買場をつくること」が今の目標。

——まず、お二人の関係性について教えてください。

五宝:もともと僕が生業としているのが革靴、いわゆるトラディショナルシューズですね。そして<ルコック>などスポーツブランドが手がけるアスレチックシューズ。この二つは別モノとして捉えられているかと思いますが、僕自体は同じもの=靴として、一つの一貫性のある生活用品という考えを持っていました。

これは意外と共感されない考え方なんですけど、田畑さんにお会いした時に、同じくらいのレベルの思考を持っているとわかり、「なんだこの人は!」と思ったのが最初です。社会の中における問題や社会の変化を、ファッションとは別軸で、靴というものを考えている人だなと。もちろんファッションという形態も必要ですが、災害時に歩きやすいといった社会における様々なシーンで使えるものとして、靴が一つのスペックとして必要だと再認識できました。

田畑:プロダクトの話より、靴をどう捉えるかみたいな話を一緒にさせていただいたのが強烈に印象に残っていますね。五宝さんが今おっしゃったように、靴はファッションアイテムでもありますが、その前段階、前提としてやっぱり道具なんですよね。なのでその道具として靴をどう捉えるか、どう進化させていくかといったことが大事だと思っているんです。

僕は売り手という役割で、五宝さんは作り手というか職人さんとしての立場があると思うのですが、それぞれのパートでみんなが真剣に考えれば、もっとたくさんいろんなことができるのにと常々思っていて。お互いそれぞれの理論があって、作り手と売り手が一貫していないというか、分断されてるケースが多いんです。


田畑:でも五宝さんは、いわゆるマーケットで今何が求められているのかという売り手の視点を常にお持ちだったんですよね。僕が思い描いていたことをお話させていただいた時、逆に僕も五宝さんからいろんなことを教えていただき、目線というか物事の考えていく順番みたいなものが一緒ですね、みたいな感じになって、何か一緒にできたらいいですねって話をさせていただいています。一年の中で五宝さんにお会いする機会ってそんなに多くないんですけどね。

五宝:
そうそう。たまに会った時は全国大会みたいになります(笑)。「こんな間合いでこんな言葉出してきたよ!」っていう時が彼にはありますね。

田畑:いや、僕からすると五宝さんがそうで、たまにしかお会いしていないですけど、お互い常に目線が一緒で、「五宝さんもやっぱりそこ考えてました?」みたいな。お互いの価値観とか考え方がアップデートされていくタイミングでお会いすると、常にアウトプットする内容が濃いというか、遠く先に見ているものが同じという感じはあります。


サステナブルな靴とは「愛着」を持って長く履けること


——お互い刺激し合える関係であり、自分の考えの答え合わせができるような存在だと。

五宝:そうですね。例えば、田畑さんは最初にあった時から、今で言うサステナブルに近い考え方をお持ちで。言葉として定義づけはなかったんですけど、靴っていうのはあくまで道具だから、リユースやリペア、お客様のサポートまで含めて何かケアすれば、また履くことができると。当時はサステナブルやSDGsのような的確な言葉がありませんでしたが、そういった持続可能な考え方を彼は持っていて感銘を受けましたね。


田畑:その話、実は五宝さんにお話する前に何人にも話したんですけど、サステナブルという定義づけも世の中で一般的ではなかった時代ということもあり、全く共感が生まれなくて。そんな中、五宝さんと巡り会えたんです。

今サステナブルって、結局は消費者のウケを狙う言葉の代名詞みたいに使われてるじゃないですか。それはそれで別に否定はしないんですけど、じゃあサステナブルってなんだ?って言われたときに、自然にやさしいですよとか、土に還りますよっていう、そんな単純なものではなくて。先ほど話したように靴は道具だと思っているので、やっぱり道具として長く使っていく可能性があって、概念がサステナブルであることが大事なのかなと僕は思っています。

あとは愛着を持って使えるか。愛車を始め、長く使うものって「愛」がつくものが多いじゃないですか。何を身につけるか、何を持つかは、その人のアイデンティティの部分の映し鏡になっていくと思っていて、そういう意味での役割が靴のサステナブルにはあると考えています。

いわゆる日用品のように、毎シーズンごと、その日その日で変わっていくものより、1足の靴を2年3年履く可能性は高いですし。履きつぶして捨てていくような考え方や商品は今後淘汰されていくと思うんですよ。


——なるほど。ただシンプルにすればいいとか、そんな単純なものではないと。

田畑:革をなめす時に有害物質を使っていないことも、もちろん大事です。大事なんですけど、それって基本的な概念を飛ばして、もう手段に入ってるんですね。その前段階が靴というアイテムの特性上、僕は大事なのかなと思ってます。極論ですが、すごく自然にやさしい、環境にやさしい素材や製法を使ったところで、半年で壊れる靴がサステナブルなんですか?っていうと、全然違うと思うんですよね。

五宝:あと、サステナブルという点で言えば、食品などは生産地や生産者など作り手が見えるけど、買い手側も見えるほうがいい。そのために伊勢丹のような売り場があるわけで、なかなかECじゃ見えてこないところがあるんですよね。


五宝:この靴はどこ製で、どんな素材が使われているかといった教養を得られる機会が売り場にはあって、そこから購買に繋がるかどうかは置いといて、お客さんも満足して帰ることができるっていうことも、靴を介しての一つのサステナブルだと僕は思うんですよね。

もちろんECもこれから見える化してくるかもしれないですけど、そういう可視化する部分でいうと、靴もサイズフィッティングが必要になってくると思います。

——それが愛着っていうところにも繋がってきますよね。

田畑:そうなんですよ。その根底にはやっぱり気に入ってもらうことが大事じゃないですか。気に入る要素っていくつかあって、当然デザインもそうですし、あと履き心地だとか、そもそもサイズが合ってるかどうかも重要ですね。どんなにデザインが気に入っていても、歩いてるうちに足が痛くなるともう履かなくなってしまうので。

いい素材を使っていて環境にやさしくても、それってサステナブルなの?という話になるわけです。五宝さんに言っていただいたように、僕らも時代の変化に合わせて売り方をどんどん変えていってるんですけど、最後はやっぱり人の手をすごく大事にしていて、売り場にも3D足型計測システム「YourFIT365」も導入しています。単純にECがいいとか、店頭のほうがいいよということではなく、環境の変化に応じたミックスした考え方、ハイブリットにやっていくことがすごく大事なのかなと思っています。
 

「革靴」の履き心地にこだわった「スニーカー」

——では「クラフテッドスニーカー」にも、サステナブルという考え方が注入されているのでしょうか?

五宝:そうですね。特に、安定感のある履き心地にこだわりましたね。靴は一つの履き口からまっすぐに履くので、強引に合わせると前の方がずれて、ひずみが足全体に出てしまいます。それを防ぐために、今までかかとを固定していたヒールカップを取り外しました。その代わりに、かかとの位置を調整するクリップ型のヒールカウンター「ヒールクリップ」を採用しています。

ソールの中足部後ろから踵上部に向かって、アーチ状に盛り上がっているところに「ヒールクリップ」が内蔵されている。ソールとヒールクリップの間には芯などは入っていない、独特な構造。
 
五宝:日本人の約80%の人が、かかとが歪んでるんですね。男性はスポーツとかで内側にひねったりするので内反捻挫、女性は内股で歩くことによる外反母趾。靴はまっすぐ作られているので歪んだかかとに合わせて履くと、足先がずれてしまいます。これが「足幅が広いから、この靴は足に合わない」の原因。日本人は全然足幅は広くなくて、かかとがずれているだけなんです。それを意識させるためにヒールクリップを付けて足先にスペースを作って、万人に合うようにしています。

田畑:この靴は現在の定義でいうと、見た目はスニーカーなんですけど、履き心地は完全に革靴なんですよ。長時間履くうえでは、スニーカーより革靴のほうが全然疲れないですから。スニーカーは例えば20分のウォーキングは快適ですけど、都内を一日中移動すると足がヘロヘロになるくらい負荷がかかると思うんですよね。

五宝:技術的にいうと、革靴は本当に長く使っていけば疲れないんですよ。ミリ単位のメジャーリングで、素材が足に対してフィットしてくるように、長時間かけて靴が足に馴染むように作られているんですね。最初は合わないから靴ずれもするし痛いですが、馴染んでくると足と靴が一体化するような、皮膚のような感覚で履けます。

対してスニーカーは、大きくて柔らかい器に足を入れるので、最初の足入れとか最高なんですよ。だいたい歩くと1〜1.5cmほど靴の中で足が動くので、小指やかかとが擦れたり、靴の素材自体が変形していって靴もねじれたりするんです。

田畑:個人的に革靴とスニーカーの違いは、家でいうと基礎がしっかりしてるのが革靴で、長時間履くとそこがグラグラしてくるのがスニーカー。別にスニーカーも全然否定するわけではありませんが、グラグラしてくるので長く履いていると足に負担がかかるし姿勢も悪くなります。



田畑:この「クラフテッドスニーカー」もそうですし、革靴もそうですけど、土台がしっかりしてるので、その上にすっと立てるという感じですかね。一瞬の履き心地はスニーカーってもう最高なんですけど、長く履くことを前提に考えたときには、革靴の技術っていうのはすごいですよね。
 

本質的な役割が求められる「靴」の未来

——「クラフテッドスニーカー」は、革靴とスニーカーのいいとこ取りなんですね。

五宝:最初にお話ししたように、僕はトラディショナルシューズとアスレチックシューズの線引きをしていません。フットウェアというプロダクトにおいて、「クラフテッドスニーカー」は僕の考えを一つ示すことができたかなと思います。


田畑:百貨店のバイヤーっぽく言うと、このジャンルはマーケットとしてまだ空白地帯なんですよね。革靴なのかスニーカーなのかという二択でしか、今までどのシューズもアプローチをしていなかったので。その点でも新しいフットウェアとして注目しています。

<ルコックスポルティフ>*5/26(水)より三越伊勢丹オンラインストアにて販売開始予定。
左:「LCS RC PASSAGE」 22,000円

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右:「LCS RC PROMENADE」 22,000円

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▢伊勢丹新宿店 メンズ館地下1階 紳士靴/三越伊勢丹オンラインストア

五宝:今後は自分たちの生活に、靴というものをアダプトさせていかなくてはならないと思うんです。現在、靴は経済的な理由とファッション的な理由で選ばれることがほとんどです。でもそこじゃないんですよ、あなたにとって靴はもっと身近な存在なんですよ、ということを知ってほしいですね。

近い将来、靴が重要な生活用品として見直される時期がもう1回来ると思うんですよ。自分の生活において、何が一番必要か、どんな機能のどんな靴が必要なのか。言葉にするのは難しいですが、こういった本質的なことが求められるようになるのではないでしょうか。

田畑:どんどん便利になっていく社会の中で、靴の役割は今までの歩くという動作だけではなくなる可能性だってありますよね。ただ何かを履いて外に出るという行為はしばらく変わりません。人間の体が急に進化することはないので、やっぱり何か道具を身につけなくてはいけない。靴という道具がどう進化していくか、その過程の中で機能がもっと入っていく、役割が増えていくことは絶対にあり得ると思います。

五宝さんもおっしゃったように、いわゆる本質的な部分じゃないともう生き残っていけない時代になりましたよね。サステナブルも、いわゆるウケを狙ったコピーとして使うことは簡単なんです。でも表層的な部分だけをすくっても長続きしないのがもうわかりきっている時代になったので、あらゆる部分で基礎的な部分とか本質的な部分というのが、今後はすごく大事になってくるはずです。

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イベント情報
<ルコックスポルティフ>「クラフテッドスニーカー」ポップアップ
  • 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館地下1階 紳士靴
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転載元:ULLR MAG.(ウルマグ)~カラダから心をデザインする、ライフスタイルマガジン~

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