【インタビュー】<OUAT>・<MORSE>古着屋の枠を越えてクリエイトされる服と場所
鎗ヶ崎の交差点からほど近いヴィンテージマンションの1階に<OUAT/オーユーエーティ>がある。1階とはいえ、スロープを上がった奥まった場所にあるため場所がわかりにくく、通りがかりにふらりと入るには敷居も高いだろう。しかしここはスタイリストやアーティストら、圧倒的なセンスある人たちから高く支持されている店である。
- 開催期間:2月10日(水)~2月16日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー、本館2階 リ・スタイルTOKYO
*三越伊勢丹オンラインストアでは、一部商品を2月3日(水)午前10時より販売開始予定
*営業時間変更のお知らせ
目指したのは心地よい空間
「僕が服に興味を持った頃は、ヨーロッパのデザイナーズブランドが全盛だったんです。買い付けはアメリカ、イギリス、フランスを中心に、個人的に東ヨーロッパ、社会主義国の雰囲気が好きなので、そういった土地へも足を運びます。」オーナーでありバイヤーを務め、オリジナルのデザイナーも手掛ける田村遼佑さんは、自らをディレクターと称する。古着店として紹介されることの多い<OUAT>だが、いま店の半分以上はオリジナルブランドが締め、古着率は高くない。足繁く買い付けに出かけていたヨーロッパへは、もう1年足を運べていないのだ。
「古着を売ることより、むしろ服が作られたコンセプトやその服が置かれている空間・空気に興味があります。そんな場所を自分の手で構築してみたいとずっと思っていたんです。古着は好きですが、自分の好きな古着がマスに受けるとも思っていません。それに若い頃から、だいたいいつも同じ格好だし、服を大量に買っているわけでもないので。」
店内には、オリジナルブランドとともに古着が並ぶ。それはよく見る大量買い付け系のネルシャツやジーンズではなく、ヨーロッパのメゾン&デザイナーズ系ブランドやミリタリー系のユニフォームなどの機能服で、どれも一点ずつ吟味されたものだ。クオリティも申し分ない。何気なく手にしたレディースのランバンのツイードジャケットは、いまのクリエーションには見られない、モダンクラシックな仕立てが際立っていた。聞けば海外に買い付けに行っても、現地ではミュージアムやギャラリーを回ることを優先しているという。アートやデザイン、建築方面出身なのかと聞けば、そうではなかった。
「出身は広島です。文系の4年制大学なら就職できるだろうぐらいな気持ちでいた普通の大学生でした。でもあるときふと自分がいいと思うものが、人とちょっとズレてるように感じたことがあったんです。普通だと思っていたことが、そうでもないと思うようになった頃から、なんとなくやりたいことが見えてきたんです。」
それが空間創りだったと田村さんはいう。古着と雑貨の置かれた空間、壁や天井、什器のイメージも明確だった。奨学金を得てまで入学した大学を中退すると、そのまま東京へと向かったのは21歳のこと。祐天寺に古着店、「Once Upon A Time/ワンス・アポン・ア・タイム」を開いたのは25歳のときで、2019年に店名を頭文字だけに変更して、いまの場所に移転したのだという。
「ワンス・アポン・ア・タイム」ならよく知っている。蛇崩から世田谷に向かう龍雲寺通り沿いの、三宿病院入口の信号横にあったセンスの良い古着店だ。店頭に並んでいた観葉植物のセンスがよくて、おそらく世田谷か目黒の育ちのよい地元の青年が、空き物件を活用して店をやっているのだと思っていた。
本格始動した教科書に沿わないオリジナルのクリエーション
「移転のタイミングで、この店のための洋服に特化した<OUAT>というブランドと、よりパーソナルなプロジェクトでプロダクト全般を展開する<MORSE/モールス>というレーベルをスタートさせました。でも僕は服作りを学んだことがあるわけじゃないので、既存のデザイナーのような教科書に沿ったものではありません。信頼できるパタンナーや生産管理と組んで、少しずつ型数も増やして。
でも基本的に好きなものは変わっていないので、アメリカの特殊部隊のユニフォームをオリジナルに落とし込んだり、バウハウス的な様式美を型紙に落とし込んだりして形にする作業を続けています。海外に買い付けに行けなくなったいま、服を作りたい気分が高まっているところです。」
「デザイナーとしてとか、ブランドとして名を売りたいわけじゃない。僕にとってはこの場所が大切なので。ここに来てくれる人が増えるなら、伊勢丹でのポップアップをやってみてもいいのかなと思いました。伊勢丹に足を運ぶ人たちが、ここの服をどのように見てくれるかに興味があるんです。」
2月10日(水)から一週間、伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリーと本館2階 リ・スタイルTOKYOで、メンズとレディースのポップアップが同時開催される。これに先立ち、2月3日(水)からは三越伊勢丹オンラインストアでも<OUAT>・<MORSE>の販売が開始される。
コレクションを三越伊勢丹スタッフが実際に着てみることに
今回のポップアップに先立って、今回一緒にお邪魔した三越伊勢丹のスタッフ、メンズ館デジタル担当の松岡と、本館2階リ・スタイルTOKYOを担当する更級が、コレクションの中から田村さんがセレクトしたアイテムや自身が気になるアイテムを着てみることに。<OUAT>らしいデザインには、古着からだけでなく、田村さんのいまの気分が込められている。素材の選びからディテールワークまでを解説しながらフィッティングしていく。
まず田村さんに、松岡が着るアイテムのセレクトをお願いした。
BLACK MOTORCYCLE COAT×BLACK WORK TROUSERS
田村さんが松岡にセレクトした麻袋に使うリネンキャンバスのコートは、表側だけにウレタンコーティングを施してある。裏側はリネンが剥き出しで、ざっくりとした風合いは、やがて表面のコーティングが古着のように味を増していくことが容易に想像できるものだ。
「テクスチャから考えた服です。縫製部分にウレタン樹脂が滲むのも、あえてそのまま。そういうところが逆におもしろいと思っています。コートとシャツとパンツ、揃えて着ることもできるけど、一点使いでもいいと思います。ポケットのフリンジは京都の糸屋さんで作っている和紙の糸を手作業でほどいて使っています。」
今回コートとパンツをセットアップで着てみた松岡は、「テクスチャの質感により、圧倒的な存在感ですね。はじめて着る質感です。リネンキャンバスが経年変化していくことも、想像するとワクワクします。各アイテム単体でも、スタイリングを考えるのが楽しそうです。」と感想をくれた。
CHEMICAL PROTECTIVE JACKET
他に気になるアイテムを松岡に聞いてみると、このジャケットを選んだ。
アメリカの特殊部隊のユニフォームをベースに、現代的にアレンジしたブルゾンは、ストレッチ素材をつかったユーティリティウェア。袖口や背中には面ファスナーを使っていて、背中にはジップのポケットを取り付けることができるようになっている。今コレクションで明確なリファレンスのある唯一の一着だ。
「この面ファスナーは、本来ナンバリングや所属を表す表示が取り付けられるところなのですが、どうせならと取り外し式のポケットを取り付けてみました。着るときはできればポケットをはずして着てほしいと思います。」と田村さん。
店内にはベースとなったユニフォームの古着もあった。田村さんは、このウェアをとても気に入っているらしく、レディースにも同じデザインを採用したという。
お次は、本館2階 リ・スタイルTOKYOを担当するショップスタイリストの更級。
CP JACKET
更級自身が最も気になったのはこちらのアイテム。
米沢産のシルク100%のブルゾンは、先ほどの特殊部隊のユニフォームを、また別の形でアレンジしたもの。フードをかぶると前台襟が高く目だけが覗く構造は、ベースのユニフォームが顔を覆う必要がある危険な場所で着るものであったことがわかる。
「こちらは各部をスナップボタンやドローコードでアレンジできるようになっています。袖口は裾を絞ることで風の吹き込みを防ぐ仕様ですが、普段はシルエットを変えたり着こなしにアクセントを付けるのに自由に使っていただけたらいいと思います。」
更級は「着やすいし、アレンジも効くので、いろいろコーディネートが考えられそう。レディースではあまりユニフォームやユーティリティというキーワードがないので、とてもおもしろい服だと思います。」と、とても気に入った様子。
WALL KAFTAN
田村さんが更級にセレクトしたフロントをパネルカットにしたワンピースは、ギャザーを使わず平面的なパターンと縫製のみで作られている。生地は山形県・米沢のシルクを使っている。
「米沢シルクはタフで肉厚なシルク地で、メゾンブランドでもよく使用されています。このシルクなら平面のまま使ってもハリがあるので、このフォルムが保たれるんです。生地の良さだけで作った服ですが、あえて要尺を使わず、白の部分はもっとも美しく見える縦横の比率にこだわりました。」
着用した更級は「シルクの肌触りも気持ちよくて、和服のような平面なのに、まったく違った洋装に仕上がっている。このかたちでシルエットが出るのは面白いと思いました」と上々。
今回のポップアップでは、<MORSE>のコレクションピースの展示・販売も行われる。
いま世界がコロナ禍に意気消沈していても「買い付けに行った東欧圏には若い人が多くて、みんな笑顔だったのが印象的でした」と話す田村さん自身は、希望に満ち溢れ未来を見ている。カメラシャイだと笑う目が覗く黒いマスク顔、その澄んだ瞳は輝いていた。
- 開催期間:2月10日(水)~2月16日(火)
- 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー、本館2階 リ・スタイルTOKYO
*三越伊勢丹オンラインストアでは、一部商品を2月3日(水)午前10時より販売開始予定
*営業時間変更のお知らせ
メンズコンテンポラリー公式Instagram:@isetanmens_contemporary
リ・スタイルTOKYO公式Instagram:@restyle_tokyo_isetanmitsukoshi
Photograph:Natsuko Okada
Text:Yasuyuki Ikeda
*価格はすべて、税込です。
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伊勢丹新宿店 メンズ館6階 メンズコンテンポラリー
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