Vol.24 山崎美弥子|ハワイ・モロカイ島で“1000年後の風景”を描き続けるアーティストが本当に伝えたいこと
ファッションイラストレーター、コンテンポラリーアーティストとして活躍したのち、ハワイの小島・モロカイで家族4人のひっそりとした暮らしを営みながら、自分のため、家族のため、そして神様からのメッセージを人々に届けるための創作を続ける画家・山崎美弥子さん。その作品集の発売を記念したイベントが、伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズで開催される。同イベントで展示販売される新作を描き終えたばかりの山崎さんにリモートインタビューを行い、作風そのままのピュアな“思い”を訊いた。
“Gold Loves Purple - future landscape one thousand years later -”
「ゴールドはパープルを愛してる ‒ 千年後の未来の風景 ‒」
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アートは志したわけじゃない。ただ得意で、1番簡単なことだった
東京・戸越に生まれて幼少の頃からアートに目覚め、多摩美術大学絵画科を卒業後はファッションイラストレーターとして活躍。自らのイラストを刺繍で表現した作品がバーニーズニューヨーク新宿店と横浜店のウインドウディスプレイに採用されたことをきっかけに、絵画、写真、映像、インスタレーションなどさまざまなアプローチのアートプロジェクトを手掛け、コンテンポラリーアーティストとしての名声も手にしていた山崎美弥子さん。
そんな彼女はいま、愛する家族とともにアメリカ・ハワイ州のモロカイ島で暮らし、この世のものとも思えないほどに美しい絵画作品をマイペースに制作し続けている。
今回のイベントは、そんな山崎さんの2冊目となる作品集“Gold Loves Purple - future landscape one thousand years later -”「ゴールドはパープルを愛してる ‒ 千年後の未来の風景 ‒」(赤々舎)刊行を記念し、新作が一堂に会する。
「若いときは、貪欲になんでもかんでもやっていました。でもここに移住する15年ほど前までにやりたいことはすべてやりきってしまって、正直、東京で作品発表したいという意欲はまったくないんです。自分の人生のある“章”が、そこで終わったという感じですね。でも数年前から『ぜひ、個展を』というお声が多くて……。どうやって断ろうかなって最初は思っていたけど、がっかりさせたくないから『じゃあ、やります!』って(笑)。」(山崎さん)
あまりに幻想的で、“風景画”なのか“抽象画”なのかも判然としない、山崎さんの近年の作品。しかし東京でファッションイラストレーターとして活躍していた当時は、まったく異なる作風だったという。
「いまみたいにSNSなんてないし、私たちの時代のアーティストは、作品発表の場がとても限られていました。雑誌やテレビなどの“メディア”に載せてもらうのも、とても大変だったんです。でも子供の頃から『絵を描いて生きていく』ことが当然のように自分の中で決まっていましたから、美大を卒業したあとは、ありとあらゆる雑誌社や出版社に作品を見てもらう営業に行きましたね。そのうちポツポツとイラストや挿絵を描くお仕事をいただけるようになり、そのリクエストに応える作品を描く日々。だから当時の作風は私自身のスタイルというより、クライアントの要望によってつくり上げられたものだったんです。」
大きな転機となったのは、ふと訪れたネパールでの刺繍との出合いだったといいます。ネパールの職人による美しい手刺繍で、自身のイラストを表現することを思いついた山崎さん。その作品を見た知人が、世界的なファッションショーケースでありそのウインドウディスプレーにも注目が集まっていたバーニーズ ニューヨークの、日本の責任者を紹介してくれることに。
「バーニーズニューヨークのウインドウといえば、あのウォーホルやバスキアがブレイクするきっかけとなった著名“メディア”。そんな大それたこと考えもしなかったけど、その知人は知らぬ間に連絡をしてくれ、会って見てくれると言ってくれていたのです。その知人自身も気に入ってくれたけど、ウインドウの内容を決定しているのは、ニューヨークのサイモン・ドゥーナンというクリエイティブディレクター。そこで作品をニューヨークまで送って検討してもらえることになりました。実物を海外まで送ってしまうというのも、当時らしいですよね(笑)。」
ファッション業界の有力者であるドゥーナン氏にも認められ、晴れてバーニーズ ニューヨーク新宿店、横浜店のウインドウを飾ることとなった、山崎さんの刺繍アート。その効果は絶大で、クリスチャン ディオールやコム デ ギャルソンといった人気ファッションブランドにまで取り上げられるほどのファッションイラストレーター、アーティストとして認知されるようになったという。
「やりたいことがどんどん実現できて、テレビにも雑誌にも取り上げてもらえるくらい運も良かったけど、20代も半ばを過ぎたある日突然、自分が美しいと感じる色が、以前とは変わってしまったんです。本屋さんでいろんなビジュアルを見てみたりしたものの、その理由も全然分からない。でもある時、夜中にパッと目が覚めて、突然「ハワイだ」と感じたんです。神様のお告げのように。ハワイのどこに行ったらいいかも分からないまま、とにかく色んな場所に行ってみました。そうやって訪れたモロカイ島と、運命的な恋に落ちてしまったんです。」
神様にもらった一瞬というのは、すべての人に起こりうるもの
「なぜモロカイなの、っていうのが気になると思うんですけど、実際モロカイ島はとても素晴らしい場所です。でも私が言いたいのは、『みんなもモロカイ島に来てね』ということではありません。私にとってのモロカイのような、それぞれの“答え”を見つけてほしいということなんです。私はたまたまモロカイだったけど、人によって全然違うはず。ひょっとすると、場所ですらないかもしれないですよね。」
2006年に、『モロカイ島の贈り物』というフォトエッセイを上梓した山崎氏。しかしモロカイ島をフィーチャーしたそのタイトルも、実は本人が望んだものではなかったという。
「本当は『島の日々』というシンプルなものにしたかったんです。でも出版社の担当の方が、それだとあまりに読者に伝わりづらいから、“モロカイ島”という言葉だけはどうしても入れてほしいと。すごく悩んだんですけど、本の中身、私の文章は一文字も直さずに進行してくれた出版社の、唯一のリクエストだった。だから受け入れることにしたんです。」
山崎さんは、読者に“モロカイ島”という土地、その言葉やイメージだけが強く印象付けられてしまうことを懸念していたようだ。
「新刊も『モロカイ島の日々』というタイトルだけど、私の希望は『サンダルウッドの丘の家』でした(笑)。マウイでも石垣でもモルディブでも、どこででも“宝物”は見つかると思います。でも“答え”はそういうものじゃない。モロカイ島はすべてのみんなの“答え”にはなりえないし、自分の“答え”は、自分自身の手で見つけ出してほしいと思うんです。モロカイ島のような美しい景色はモロカイでしか見られないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。東京に暮らしていたとき、五反田で見た目黒川に写った夕焼けは、ハッとするくらいキレイなものでした。でも忙しく暮らしていると、それに気づけなかったりするんです。モロカイの空も、東京の空も同じ。ひとつながりなんですよ。」
自分がいるべき場所にいること。なにより大切な家族や美しい風景に囲まれて暮らすことの幸せを実感しながら絵を描き続ける山崎さんには、一貫している創作テーマがあるという。
「小学校5年生のときに、神秘的な体験をしたことがありました。それ以来、常に『あれは何だったんだろう』と“答え”を探し求め、それがどんなものだったのかを表現するのが、私の人生そのものになったんです。モロカイ島で暮らし始めてから、東京に帰ったときに知人の“能力者”に言われたことがあるんです。『あなたは目に見えない世界を描く力がある。すべての望みを叶えることもできるけど、それだけの人生を送らないでください。もしも1000年後に私たちの理想の世界があるとして、そこに立ったあなたが1000年遡った“いま”という瞬間を生きてください』と。その“1000年後の風景”を描いて人々に見せるのが、私の使命だというんです。」
そこでようやく、子供のときに自分が見た神秘的な風景こそ、神様が見せてくれた“1000年後の未来”だと気がついたという山崎さん。以来、ライフワークとして描いてきた“風景”や自分の創作テーマを、初めて言葉で説明することができるようになった。
「神様の名前を呼んでお祈りをすると、“心の清らかな子ども”になれると教わり育ちました。その言葉自体がとても素敵だと感じたから、一所懸命お祈りをしていたんです。そうしたらある日、悟りの世界を垣間見たような、とにかく表現しようのない意識の体験をしました。“1000年後の風景”という言葉も喩えであって、実は1万年後かもしれないし、いまなのかもしれない。私が伝えたいのは1000年後とかモロカイ島とかいう表層的なことではなく、神様にもらった一瞬というのは、すべての人に起こりうるものだということ。それをただ見つめて欲しいから、この展覧会がその糸口になればいいですね。」
最後にこのイベントに向けて、山崎さんの“思い”を訊いてみた。
「私は常に同じことをやってきただけ。目の前に広がる海と空の風景には、ひょっとすると魂が宿っているかもしれません。でも、そこに思考はありません。誰の思いも込められてはいないです。私だったら、これだけさまざまな思いが溢れかえっている世の中で暮らしながら、さらに誰かの思いを壁に飾りたいなんて思いませんから。作品に“思い”なんて、絶対込めたくないですね。」
Text:Junya Hasegawa(America)
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