17年目の節目で振り返る私のイタリア遍歴|バイヤーの“私的“定番物語──「気がつけば、ずっと愛用していました」vol.2
誰もが、ずっと好きで使い続けているものがある。そこには自分自身の想いとともに、贈ってくれた人からの想いや、作り手の想いなど、様々な想いを交差させているはず。三越伊勢丹のバイヤーにも、そんな想いの深い“私的”定番があります。
”私的”定番物語──第二回は、中学時代、アルペンスキー選手として海外渡航経験もある入社17年目、伊勢丹新宿店メンズ館4・5階バイヤーの渡部智博が、愛すべき品々について語ってくれました。
イタリアで培った、自分だけの「お洒落」を極める銘品
「入社以来、スーツ、紳士靴、雑貨、ドレスシャツ&ネクタイなど、さまざまな部署を2年毎に渡り歩いている感じですが、2013年からミラノオフィスに6年駐在しました。ですので、一番長く在籍したのはイタリア駐在なんです。ミラノオフィスでは紳士服だけでなく、食品やインテリアなども扱っていたため、イタリア国内様々なメーカーや工場を訪問していました。現地の人たちと付き合うなかで培った、イタリア流の着こなし方は堂に入ったもので、自分に似合うものを的確に選んでいます。 」「イタリアのビジネスマンは、日本のメディアが書き立てるような軽薄な方だけではなく、知的で品格ある人も多いです。洒落者のファッション業界人から仕事にスーツを着る知的富裕層の方まで多様です。」
冷静にイタリア人と付き合ってきたからこその渡部のお洒落は、日本人であることを前提に現地と溶け込む、知性あふれるアイテム選びがされていました。
〈RING JACKET/リングヂャケット〉スーツ
海外の一流ブランドにも通じるクオリテイと日本人の体型を知り尽くした型紙と仕立ては、さすがです。アームホールのカマの作りや前肩の袖付けなど、日本人体型に合う型紙であることは、袖を通したときに実感できます。日本が世界に誇れるスーツだと胸を張れるブランドです。いまクラシックスタイルが人気のアジア圏のセレクトショップでも〈リングヂャケット〉は人気が高く、イタリアやイギリスのスーツと比肩するクオリティとブランド力があります。実際に私もナポリのファクトリーや、ミラノのショールームに〈リングヂャケット〉を着ていくと、現地の方にとても褒められました。 日本人は日本のブランドを過小評価しがちですが、〈リングヂャケット〉のようなグローバルに通用するブランドがあることを、もっと知ってほしいですし、もっとたくさんの方に着てほしいと思っています。
〈LUIGI BORRELLI/ルイジ ボレッリ〉ドレスシャツ
〈ルイジ ボレッリ〉は、メンズ館でもっとも人気のあるカミチェリア(イタリアのシャツファクトリー)です。毎シーズンのようにボレッリだけで展開されるエクスクルーシヴファブリックがあるなど、トレンド提案ができるシャツブランドとしても優秀です。高めの台襟など各部の味付けは、いかにもナポリらしく、手仕事を多用するシャツメーカーはいくつもありますが、他には無い色気と味わいとが凝縮していると感じます。
タイドアップもノータイでもサマになる襟型が多いのですが、一番人気はセミワイドカラーの「ルチアーノ」。ミラノ駐在時代、オフィスの目の前にボレッリのショールームがあって、オーナーのファビオさんとも親しくさせていただいていました。ファビオさんが「シャツは襟型が第一」とおっしゃっていたことをよく覚えています。実際、この襟型はバランスの整った絶妙な襟の開きにも特徴があり、他のメーカーが型紙をコピーしても同じものにならないのだそうです。
〈FRANCO BASSI/フランコ バッシ〉ネクタイ
海外のファクトリーへ足を運び、昔のアーカイブを見ることは、バイヤーとしても勉強になります。どういう工場でどんな人々が作っているのかを見学すると、そのブランドの哲学やモノづくりへの思いを深く知ることができるからです。そこで学んだ各ブランドの想いを、お客さまに伝えたいと常々思っています。
北イタリアのコモにある〈フランコバッシ〉のファクトリーも訪問させていただきました。40年前のネクタイ生地の資料を見ると、今トレンドとなっているブラックベースのタイの生地がたくさんあって、当時の流行が今、どんなふうに甦っているのかを知ることができました。これは当時のデッドストック生地から選んだヴィンテージの1点物。独特の畝織りとシャリっとした生地は、私の好きなナポリ風の着こなし方にとても良く似合います。
〈MUNGAI/ムンガイ〉ポケットチーフ
最近はノータイでスーツという方も多いですが、私がスーツを着るときは、できるだけネクタイとポケットチーフは欠かさないようにしています。ジャケットのときは、ノータイのときでもチーフは必ず挿すようにしています。 〈ムンガイ〉はフィレンツェの郊外に工場があるのですが、そこでは職人さんが一点ずつ手作業でチーフの縁を巻き縫いしています。
ミシンではなく手で縫うことで糸目がやわらかく、畳んでもチーフの縁がふわりと開きます。これは縁取りに手刺繍を入れたもの。手仕事なので、ひとつひとつに個性が合って、作り手の想いが伝わってくるところがいいですね。いまでは工場も職人の人手不足だそうですが、この技術が廃れないことを願っています。
〈EDWARD GREEN/エドワードグリーン〉ストレートチップ
〈エドワード グリーン〉の王道ストレートチップは、トレンドに左右されない銘品。TPOを選ばないので、仕事からフォーマルまで、様々なシーンで履いていますし、世界各地で履いた思い出深い一足です。まだ紳士靴を担当していた頃「いい靴は10年履ける」と聞いて、検証してみたいと思い10年前に買いました。
手入れは簡単にしていますが、たしかに10年は余裕でした。 グッドイヤーウェルト製法は買った当初は少し固いので、オフィスに置いて毎日短時間でも履くようにしていたら、半年ぐらいでいい感じに底材が沈んで足の形が付きました。そうすると、まるで自分の足に吸い付くような履き心地になったんです。そこで靴は育てるということを学びました。
服はイタリアブランドが多いですが、靴はイギリス靴を履くことが多いです。イタリア靴は色出しや革が美しくフォルムも独特なデザインが多いですが、イギリスの靴は端正で形もスマートで美しいクラシックなものが多く真面目な感じ。〈エドワード グリーン〉を履いていけない場所はありません。男の靴として、持っておくべき一足だと思っています。
〈COLUMBUS/コロンブス〉クラシックシューツリー
海外出張時には必ず革靴を2〜3足持っていきますが、その際、スーツケースの中で潰れてしまわないようにシューツリーは必需品です。でも、付属のツリーや防虫効果があるアメリカンシダーは、持っていかないようにしているんです。重くてスーツケースが重量オーバーになりかねませんので。 そこで持ち出し用には〈コロンブス〉のクラシックシューツリーを使っています。
このツリーは、ポプラの木を使っているので、とても軽くて、出張先に靴を持っていく際にとても重宝しています。周りの友人・同僚、お客さまにも薦めています。高級靴を買うとシューツリーはセットになっていますが、そういう靴ばかりではないので、別に購入するなら、ぜひ。
〈MONTBLANC/モンブラン〉ボールペン
海外のビジネスマンは、ペンにとてもこだわっていて、一生モノとして、とても大事にされる方が多いです。サインするときや、なにかモノを書くときなど安物のボールペンを手にすると、すぐに自前のペンに持ち替えるほど。サンクスレターを贈る文化もあり、文字を書くことの意味を、とても大切に考えているのでしょう。
この〈モンブラン〉は、ミラノ駐在が決まったとき、中高時代の同級生が壮行会を開いてくれまして、そのとき記念にプレゼントしてくれました。イニシャルが入っているのも感激しましたが、伊勢丹新宿店で購入してくれたことにも涙モノでした。
以来、仕事のときはポケットにペンを挿すことを習慣づけています。ミラノ駐在中、休暇でシャモニーにスノーボードをしに行ったとき、本物のモンブランを目にしたことも感動でした。軽くて持ちやすいし、書き味も最高です。スマートフォンやパソコンを使う仕事も多いですが、メモやサインなどするときには背筋が伸びる気がするんです。
〈Santa Maria Novella/サンタ・マリア・ノヴェッラ〉オーデコロン
海外の名店や老舗テーラーのアトリエ、老舗ホテルのラウンジなどを訪れると、とても良い香りのポプリが置いてあります。空間と香りの関係を、とても大切にしていることが伺えます。自宅でもポプリを置いていて、自然な香りに癒やされています。
もともとフレグランスは好きなのですが、〈サンタ・マリア・ノヴェッラ〉の「ポプリ」という香りに出会ったときは、これだ!と思いました。さっぱりとしていて気分がリフレッシュできるので、仕事に行く前などに付けていくと、きりっと頭が冴えるようです。オーデコロンなので、香りの持続はやや短めですが、アトマイザーに入れて持ち歩くことも。仕事の途中でリフレッシュするのにも使っています。
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Text:Yasuyuki Ikeda
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