【インタビュー】クラシックを昇華させ、モード感を加味した4シーズン目の<CALMANTHOLOGY/カルマンソロジー>
製法もデザインも広がった、<カルマンソロジー>という世界。
ある意味、金子氏ならではの正統進化と言えるのかもしれない──。
自ら「究極のスタンダード」と位置づける、厳選された12型のドレスシューズからスタートした<カルマンソロジー>のコレクションは、若き日のイヴ・サンローランのようなエレガンスと“崩し”を表現したPAGE.02、静かな佇まいにエモーショナルな“動き”を内包したPAGE.03と、一歩ずつ着実な発展を見せてきた。そして、この秋冬に届けられたPAGE.04は、絶妙に中性的で男性の足元を美しく“魅せる”、優雅にしてシック、それでいてモードコンシャスなモデルが異彩を放つ。もちろんその作りは、圧倒的なまでに緻密で本格的なままだ。
「私はある程度、先々の展開まで見据えてコレクションを製作するようにしています。来春デリバリーされるPAGE.05では、自分なりの原点回帰を企図していました。だからそれにつながるPAGE.04は、<カルマンソロジー>というブランドがスタンダードから離れようとしたとき、どれぐらいの振れ幅でものづくりをすべきなのか、見極めるためのシーズンでもあったんです」
クラシカルなスタンダードから、モード感のあるオリジナルデザインへ──その世界を大きく広げた<カルマンソロジー>の進化は、幼少の頃から祖父のテーラーに入り浸り、後にヨーロッパのデザイナーズクローズを耽溺するようになった金子氏自身のヒストリーと、見事にシンクロして見える。そして作り手としての迷いや葛藤、それをどう乗り越えるかというプロセスまでユーザーに感じてほしいという、創作スタイルの顕れであるともいえるのではないだろうか。
「今季は初めてマッケイ製法にも挑戦し、カットシューズという新しいラインを登場させました。これは、過去3シーズンの製作を経た今だからこそできたこと。正統派のグッドイヤーウェルト製法から始めることで構造から徹底的に作り込み、そのノウハウを活かした独自のマッケイ製法に辿り着くことができました。例えば、一般的には中物(クッション材)に薄いスポンジが使われるのですが、<カルマンソロジー>ではグッドイヤーと同じようにコルクを使用しています。とても贅沢なマッケイですよね。同じように、例えば今後はウチならではのセメント製法なども探っていけたらと思っています」
大量生産やコストダウン、工程の簡略化を主たる目的として生まれたマッケイやセメント製法を、あくまで表現のバリエーションとしてポジティブに捉え、手間を惜しまず、独自に進化させようと取り組む金子氏。だが、もちろんデザイン面での進化と深化にも、眼を見張るものがある。
「昨季の白黒コンビシューズと今季のカットシューズによって、<カルマンソロジー>としてのデザイン的振り幅を確認することができました。このカットシューズは、紳士靴におけるパンプスを目指したもの。紳士靴というのは手法やラインにこだわりつつも、最終的にオーソドックスな定型に近づけるという考え方に囚われがちです。でも婦人靴のパンプスやハイヒールは、女性の足を美しく“魅せる”ということに特化している。この美しく“魅せる”カッティングラインを、紳士靴に落とし込んでみたいと思って作ったのが、カットシューズというシリーズなんです。履いたときの肌の見せ方、V字と隙間の作り方──カッティングによって生み出される美しい中性的な足のカタチこそ、このPAGE.04における最大のテーマといえるかもしれません」
色へのこだわりは、革そのものや金具にまで及ぶ。
満を持して、絶賛開催中のポップアップストアで展開されている、<カルマンソロジー>の「PAGE.04」コレクション。シーズンも終盤に差し掛かるなか、金子氏は期待通りの手応えを感じているようだ。
「反響はものすごくいいですね。予想はしていたのですが、ファッション性の高いモデルが登場したことで、今までとは違う層のお客様が増えてきた気がします。靴好きというより、ファッションがライフスタイルに組み込まれているような方々です。PAGE.04は<カルマンソロジー>として、モード感をここまで表現できる、というのが掴めたシーズン。ウエスタンカットのカットシューズなどデザイン性の強いモデルが具現化し、受け入れていただけたというのは、我ながら予想外でしたが(笑)」
そんなPAGE.04のラインナップが勢揃いする今回のポップアップストアでは、イセタンメンズ別注色のスペシャルなジョッパーブーツが登場。インラインでは展開のないレアなブラウンカラーのブーツとあって、大きな注目を集めている。
「実は伊勢丹さんから『ジョッパーが見たい』というリクエストをいただいていたとき、偶然PAGE.04に向けて製作中だったんです。実際にできあがったものを気に入っていただけましたし、私も異なる色展開があってもいいと思っていた。そこで、ダークブラウンでやりましょう、ということになったんです。想像通り、ブラウンにすることでシルエットが一気に柔らかくなると感じました。この柔らかさは、ブラックにはないものですよね。ただ最初からブラウンを想定して製作をスタートしたとしたら、このデザインやラインは決して生まれてこなかったものなんです」
しかしこの色別注、ただの色替えではなかった。理想の色と質感を表現するために、革そのものから選び直したというのだ。
「オリジナルのブラックはアノネイ社のヴェガーノという革を採用しています。でもブラウンというのは、ブラックと違ってタンニンが強い。ヴェガーノをブラウンに染めようとすると、履き込んだときのシワの表情がとても硬い印象になってしまうんですね。そこで、タンニンがありつつもクロームの比率が高い、デュプイ社のカーフに変更することにしました。そのほうがイメージ通りの、赤みのあるエレガントなブラウンに近づけられるという確信があったので。結果として、狙い通りのいい色に仕上がったと思います。色別注ではあったのですが、実は勝手に革別注にしてしまったんですよ(笑)」
さらにこのブラウンカラー、なんと金子氏自らがひとつひとつ丁寧にパティーヌした、渾身の製品手染めによるものなのだとか。
「革自体は肌色に近い薄茶色なんですが、何度もパティーヌを重ねることによって、この深いブラウンを表現しています。しかも革の色に合わせて、金具を真鍮に。とにかく手間と時間が掛かるので、12足作るのが精一杯だったんです」
シューズデザイナーでありながら、金具の加工や製品の仕上げ、磨き、さらにはディスプレー用の資材まで自らの手で行わなければ気が済まないというほどのこだわりは、まさに“靴人”ならでは。そして仕事量が激増する別注依頼にも、「別注というのは、自分のなかで考えていなかったことにもチャレンジできる。自分のためにもなるのでまったく苦にはならない」というのだから、もはや感嘆を超えて唖然とするほかないだろう。
そんな金子氏だが、多忙なスケジュールの合間を縫ってポップアップストアの店頭に立つ予定だという。
「まだ未定なのですが、週末のどこかで時間を見つけて接客させていただきたいですね。感度の高いお客さまに、お会いできるのが今から楽しみです」
伊勢丹メンズ館向けにデザインから起こした完全別注モデルも企画されているという<カルマンソロジー>からは、やはりこれからもずっと目が離せそうもない。
Text:Junya Hasegawa(america)
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