パナマハットの『パナマ』の由縁をご存知ですか


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Hat

頭に被る装身具の一つ。寒暖や落下物などから頭を保護する役割を持ち、大きく分けて「ハット(HAT)」と「キャップ(CAP)」の二種類がある。
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本文で書いた通りパナマハットの原料の「パナマ草(トキヤ草)」はパナマではなくエクアドルが原産。また、パナマハット自体もエクアドルで長年愛用されている帽子が原型です。ではどうして「エクアドルハット」ではなく「パナマハット」と呼ばれるのでしょうか?



鍵を握るのがパナマの地理的要因、すなわちこの国が北米大陸と南米大陸との間の最も幅の狭い箇所=地峡にある点です。
かつては南米大陸の西側とヨーロッパやアメリカの東海岸とを往来する場合、この地峡を活かし海路の中継点として人も荷物も一旦陸揚げした場所が今日のパナマです。ですので実際には南米の北西部・エクアドル発のこの帽子も「パナマ発」と短絡的に捉えられて命名された、との説もあります。

しかし最も有力な説は、このパナマ地峡の役割を進化させたある巨大プロジェクト=パナマ運河の建設にあるようです。フランスが1880年に建設を始めたものの一旦放棄され、アメリカが1914年に完成させたこの長期プロジェクトには、多くの国の膨大な数の人が関与しました。そんな中、エクアドル出身の建設労働者達が暑さ対策で被っていた故郷の帽子に関心が高まります。欧米の技師達もこの帽子の快適性を気に入った結果、彼らが母国に持ち帰った際「パナマ運河の完成に貢献した帽子=パナマハット」として広めた…… 。


諸説ありますがいずれにせよ、最終的に帽子の形状に加工するのは欧米の場合も多いものの、編む工程までは今でもエクアドルの独擅場で、編目が細かければ細かいほど高級品となります。国宝級の名人が編んだ一品は、まるで和紙のように細やかかつしなやかで、数百万円クラスとも言われています。

文=飯野 高広
いいの たかひろ●大学卒業後大手鉄鋼メーカーに勤務したのち、服飾ジャーナリスト・研究家として独立。紳士靴やスーツなど男性の服飾品全般を執筆領域とし、ビジネスマン経験を生かした視点で論じる。また専門学校で近現代ファッション史の講義を受け持つと共に、テレビ番組への出演・総合監修を行うなど、メンズファッション全般の知識箱的存在として活躍中。著書には、『紳士靴を嗜む:はじめの一歩から極めるまで』『紳士服を嗜む:身体と心に合う一着を選ぶ』(朝日新聞出版)『大切な靴と長くつきあうための靴磨き・手入れがよくわかる本』(池田書店)がある。




Photo:ISETAN MEN'S net
Text:Takahiro Iino

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