2020.02.15 update

【インタビュー】「LESS IS MORE(レス・イズ・モア)」の精神によって形造られる、<côte&ciel/コート・エ・シエル>という美しいフォルム(1/2)

モダンで都会的、そしてひと目でそれとわかる個性的なデザインで人気のラゲージブランド、<コート・エ・シエル>。そのチーフデザイナーを務める、エミリー・アルノーだ。大の親日家であり、改めて日本の自然の美しさに感銘を受けたという彼女にインタビュー。そのデザイン哲学とクリエーションのこだわりを訊くことで再確認できた、唯一無二のプロダクトの真の魅力とは?

削ぎ落とすことで広がる、フォルムという無限の宇宙。


<コート・エ・シエル>の誕生は、2008年。アップル社公認のガジェットアクセサリーを手掛けていたことでも知られる、ペーパーレイングループのデザインチームによって、フランス・パリで設立された。その代表作である「イザール」は、個性的なアシメトリーデザインと優れた実用性によって、高感度なデジタルノマドやファッションコンシャスな人々の支持を獲得。神経質なまでのこだわり屋、あのスティーブ・ジョブズ本人が愛用していたことで話題となったのも、記憶に新しい。

チームを率いるのは、生粋のパリジェンヌで人間工学や建築、アートにも造詣の深いデザイナー、エミリー・アルノー。「初めてゆっくりできる、久しぶりの来日」を果たした彼女を訪ね、他のどんなブランドとも異なる独創的デザインの秘密を訊いた。

「<コート・エ・シエル>というブランド名を思いついたのは、ミラノからパリへと帰るフライトの途中だったかしら。窓から見える海岸(コート)と空(シエル)の境界線──夕焼けに染まるそのラインが、とてつもなく美しかったの。と同時に、有機的な自然の景色のなかにあるその幾何学的境界線に、無限や“視点”の重要性を感じたのがきっかけね」


「人間の肌の延長のようなもので、中身がそのフォルムを決める」とアルノーが語る<コート・エ・シエル>のバッグは、近未来的でありながら実に有機的なデザインだ。だがその立体感のあるフォルムは、1枚の長方形、すなわち幾何学模様を折ったり、曲げたりすることによって生み出されている。パーツやディテールの類は徹底的に削ぎ落とされ、縫い目すら見当たらない。デザインは極めてシンプルで。ミニマルというよりほかないルックスだ。

「これこそ“レス・イズ・モア”の精神ね。ステッチはフォルムをつくるために必要だけど、デザイン的には余計なもの。究極のシンプルさのためには、縫製部分は表に見せない方がいいに決まってるわ。それに、ほとんどのバッグのボディに、長方形のファブリックを使っているの。四角形という幾何学的なデザインは、折り曲げることによって有機的な曲線を描くことができるし、無限のデザインを表現することができるのよ。これは日本の風呂敷や、折り紙にも通ずる考え方かもしれないわね」