有限が無限を生むという、アルノーのデザイン哲学。
この<コート・エ・シエル>を象徴する、立体的フォルムのユニークな表現方法。実はドローイングや、CAD(コンピューター支援による3次元設計システム)によってデザインされたものではないという。
「ドローイングというのは、プラス発想のアプローチ。バッグにさまざまな要素を足すようにデザインするから、どれも似たようなものになってしまうでしょ? それに気づいた時、思い切ってドローイングすること自体を止めてしまおうと考えたの」
アルノーがドローイングの代わりにマイナス発想で取り組んだデザイン方法、それが、実際のファブリックを手に取って、折ったり曲げたり、畳んだりすることだった。
「デザインのツールを変えることで、ようやく“視点”そのものを変えることができた。直線的な水平線も、無限に続くかに思える地球の外周、海と空の“境界”でしかない。だから<コート・エ・シエル>のデザインは、建築的であると同時に自然由来のものだといえると思うの」
そういうとアルノーは1枚のコピー用紙を手に取り、ふたつのコップの上に橋渡しに置いてみせた。
「ほら。紙はただ真っ直ぐ置いただけでは、自重すら支えられない。でもこうして(紙を丸めてアーチを作ってみせる)曲線を作ってやると、美しいフォルムとペンを載せることもできるくらいの強度が生まれるの。丸めるだけでね。1枚のまったく同じファブリックから10の異なるバッグを生み出せるのは、このコンセプトが理に適っているからなのよ。これはドローイングからは決して生まれないアイデアよね」
シンプルな長方形のファブリックから創造されているとは思えないくらい、バラエティに富んだフォルムとデザイン性。<コート・エ・シエル>のバッグは、確固たるコンセプトと曲げられない原理という有限に縛られているようで、逆に無限の可能性を秘めているのだ。
「つまり折ったり曲げたりするだけではなく、捻ったっていいってこと。この“捻る”というアイデアを取り入れた新作を、今年の夏くらいにはリリースする予定。それも楽しみにしていてね」
“レス・イズ・モア”を体現する究極のシンプルさと、アルノーならではの“ツイスト”感の融合は、あっと驚くサプライズを引き起こす。<コート・エ・シエル>は、まだまだ進化していきそうだ。
Photo:Shunsuke Shiga
Text:Junya Hasegawa(america)
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