2019.04.09 update

【インタビュー】新たなフェーズへ突入した3シーズン目の<CALMANTHOLOGY/カルマンソロジー>が、見る者、履く者の心を静かに揺り動かす。

メンズ館地下1階=紳士靴でデビューコレクションからポップアップストアを開催し、大反響を得てきた<CALMANTHOLOGY/カルマンソロジー>。その崇高なデザイン哲学とクラフツマンシップは、紳士服の祭典「ピッティ・イマジネ・ウオモ」でも世界中のジャーナリストやバイヤーに衝撃を与えたようだ。そしていよいよ、4月10日(水)からメンズ館地下1階=紳士靴でスタートする3回目のポップアップを前に、名実ともに日本を代表するシューズデザイナーとなった金子 真氏に、ニューコレクションの見どころを直撃した。


ピッティ会場で再認識した、感情を動かすファッションのパワー。


金子氏にお会いするのは、これで4度目。その都度、クリエイティブで刺激的な会話を楽しめる数少ないデザイナーのひとりだ。デビュー以来、瞬く間にブレイクし、順調に歩みを進めている<カルマンソロジー>は、ついに海外の有力バイヤーやジャーナリストが一同に集う「ピッティ・イマジネ・ウオモ」にも出展。世界の度肝を抜くこととなった。だが出展したのは、なにも海外へのビジネス展開を意図したものではなかった。

「いずれは世界で勝負したいという気持ちもありますが、海外のお客様に<カルマンソロジー>らしい最高の靴をご提供するには、まず木型そのものから見直さなければなりません。骨格からして違いますからね。すべての人種にフィットするなんて、まず不可能ですし、そもそも僕のなかで『どんな木型が正解なのか』もはっきりしていないんです」


金子氏もそう語るとおり、すべては時期尚早ということなのだろう。いや、<カルマンソロジー>水準のこだわりを貫き通そうとするならば、ひょっとすると海外展開そのものが非現実的なのかもしれない。

そんな金子氏をピッティへと誘ったのは、ビスポークテーラー、デザイナー、アーティストなど、さまざまな“顔”を持つ鬼才・T-マイケル氏と、GQ JAPANのファッションディレクターを務める森口德昭氏。ふたりがキュレーターとなって東京を拠点とするベストデザイナーを紹介する企画展、「5 CURATORS」にピックアップされたのだった。

「実は初のピッティ会場でした。タイミング的に新作が間に合わなかったので、定番10型を見ていただくことにしたんです。ビックリするくらい高く評価していただきました。アメリカやロシア、英国のショップから実際に『ウチで取り扱いたい』というお声掛けをいただいたんですが……。お応えできず、とても申し訳ないと思っています。なにより『とにかく美しい』『こんな綺麗な靴は見たことがない』といったお声もいただいて、それが素直にうれしかったですね」


超絶的な技巧やディテールではなく、あくまで全体としての佇まい、フォルムや存在感を評価する向きが多かったことも、海外らしいと感じたという。そしてビジネス的な発展はなかったものの、将来性を感じる反応を得ることができたのだとも。だが今回の最大の収穫は、自らの感性や感情を刺激する、ファッション関係者たちの圧倒的なエネルギーだったと語る。

「デザイナーもバイヤーも、とにかく皆さんファッションに対して純粋。そんな人々との交流が、東京の制作現場に籠もって仕事をしていると忘れがちなファッションの“ワクワク”や“ドキドキ”を呼び起こしてくれる、とても貴重な体験となりました」

 

踊りがルーツの“踊る”ことのないデザインに、心は躍る。


いよいよ4月10日(水)にスタートするポップアップストアから販売が開始される、<カルマンソロジー>のPAGE.03。クラシックでオーセンティック、「言葉なき詩集」を意味する名前そのままの“静かなる”展開で、靴マニアたちを唸らせてきたこのブランドは、新たな局面を迎えることになる。


「本というのは、2ページごとにページをめくりますよね。<カルマンソロジー>も、自分のなかから湧き出るように生まれたベーシックであるPAGE.01、それをエレガントに“デザイン”し“崩し”を入れた02を踏まえ、PAGE.03と04という新たな“見開き”へとページをめくろうと考えました。この“見開き”ごと、つまり2シーズンごとに区切りをつけるという考え方は、これからも変わることはありません」


3季目ではじめてわかった、金子氏のクリエーションのプロセス。些細なことのように見えるかもしれないが、これは多くのファンにとって驚きであるはずだ。

「新しいページをめくるにあたって、静けさのなかにも少し“動き”をつけたいと考えました。動きといっても目に見えるものではなく、内に秘められた心の“動き”です。喜怒哀楽すべてを含む、高揚感を表現したかった。でも高揚感をそのままデザイン画にしてしまったら、線が暴れてしまいます。だから一旦ブレーキをかけて、デザインはあくまで静かに、繊細に。その裏側にあるシーンを、高揚感おぼえるストーリーにしようと思ったんです」


シーンとは、好きな人、時間、場所を思い浮かべ、その服装や情景から靴の“ライン”を導き出すためのもの。デザインという無限の自由が広がるクリエーションの世界に決意の楔を打ち込み、立ち位置を定めるうえで非常に大きな意味を持つという。

「そのためにブランドスタート以来、初めて言葉を使った詩を書きました。映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』をイメージしたものですが、テーマはキューバでも、ラテンミュージックでもない。家族以上のつながりや愛、人々の会話から音楽へと繋がっていく時の流れ、その情景こそが重要なんです」


あえてその詩の全文を公開することはしないでおきたい。PAGE.03のコレクションを見れば、その情景をつぶさに感じ取ることができるかもしれないからだ。

「踊ることなく踊る」

詩の終盤に、そんな一節があった。そして新作には、ギリーシューズ、Tストラップ、サイドエラスティックのウェスタンブーツがある。諸説はあるが、いずれも“ダンス”を起源とするデザインの靴なのだそうだ。

「踊ることなく踊る」

<カルマンソロジー>のデザインは静かだ。決して踊らない。金子氏の感情の昂ぶりも、研ぎ澄まされて内に秘められ、ユーザーにとってリアリティのあるデザインへと昇華を遂げている。踊りはあくまでデザインのルーツであり、踊らされるのは我々の心だけ。まさに“踊ることなく踊る”靴なのである。

Photo:Keita Takahashi
Text:Junya Hasegawa

*価格はすべて、税込みです。

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