「樹木の繊維を布にした」世界で初めて市販されるウッドクロスコート

──<スロウガン>小林 学

【My Best Coat】の取材で、東京・恵比寿の<スロウガン>のアトリエを訪れたとき、デザイナーの小林 学氏は明らかに興奮していました。その理由が、「樹木の繊維を布にした」通称ウッドクロスの世界初の商品化。小林さんは、「樹木が服になるということは、たとえば、NYのセントラルパークの樹木から、ジョン・レノンが着るトレンチが作れるということ。そこでは素晴らしいストーリーが生まれ、なにものにも代えがたい付加価値が生まれます」と語ります。


日本の技術が世界で初めて可能にした“樹木の服地”


――イセタンメンズから今回のMy Best Coat】の依頼があったとき、まずどう思いましたか?

やはり春夏なので、軽く羽織ることができるコートを作りたいなと思いました。メンズのスプリングコートには、通勤時にジャケットの上に着るコート、土日に着るカジュアルコートがありますが、もう一つ、カバーオールが長くなったような「ショップコート」も挙げられます。

「樹木の繊維を布にした」通称ウッドクロスは、以前にプレゼンを受けていて、「どうやって使おうか」ずっと考えていました。ウッドクロスは、樹木から採ったセルロース繊維を、紙のように梳(す)いて、それを裁断して撚(よ)って糸にしたものです。

イメージとしては、和紙から作られた糸・生地に近いのですが、とにかく軽い。強度も出るし、質感も良いし、今回は初めて世の中に出るので“樹木=ヘリンボーン柄”にしています。あまりに軽いので、個人的には春夏向けの素材かなと思っているほどです。

――小林さんご自身は、春にコートを着られますか?

<スロウガン>の今シーズンは、「80~90年代のラグジュアリーなブランドスタイル」をシーズンテーマにしていて、ビッグシルエットですが、生地の落ち感によるドレープがきれいにでるようなアイテムを中心に据えています。

今回のオンリーエムアイのコートもそのテーマからの発想で、春夏コレクションで展開しているスプリングコートよりシンプルに、ゆったり目のサイジングのショップコートに仕上げました。ベルトレスで丈の長めのデザインは自分でも着たいなと思います。



コート 70,200円

さらさらした麻のようなタッチが、春夏の着こなしを快適にする


――My Best Coat】についてご説明ください。

“メイドインジャパン”にこだわっている伊勢丹のために、日本の技術が生んだウッドクロスを採用しました。デザインはシンプルですが、サラッとした肌触りで、シャリ感や清涼感があり、麻よりも断然軽く、強度もあるという生地がマッチしています。カラーは、ネイビーとベージュの2色展開です。

――今回のコートを中心にどういう着こなしを提案しますか?

ウッドクロスは光沢感のないマットな素材感なので、シャンブレーシャツやドライタッチの麻のTシャツ、ボトムスはくるぶし上の軽快なレングスのパンツからショーツまで、洗いざらしと相性が良いと思います。

和紙で作られた洋服の良さを継承して、さらさらした麻のようなタッチなので、ゴールデンウィーク過ぎまで快適に着ていただけます。


作り手も、ブランドも、お店も、もっとお客さまにメッセージを


――今のメンズ館に対して感じていること、期待や要望などをこの機会にぜひ。

自分は今年51歳で、バブルの末期ごろに、ものすごく物を買った世代です。今は残念ながら、あのときに感じた「買わずにいられない」といった動機が湧かない。ワクワク感は少なくなっているかなと思います。

「今、買わないと」という緊張感や、説明を聞くお客さまの方が照れるぐらいの熱さのある店員など、そういう雰囲気や気持ちがある店であってほしいと思います。

<スロウガン>はメンズ館では改造した古着を売ったり、他の百貨店ではできないことを試させていただいていますが、私たち作り手も、ブランドも、お店も、付加価値が薄くなっている課題を解決していかなければと思います。

小林 学(こばやしまなぶ)

1988年、文化服装学院卒。パリを基点に3年間ヨーロッパ放浪後、フランスのデニムメーカーにデザイナーとして迎えられる。5年間、トゥールーズ本社(南仏)間を往復しながら、東京でクリエイティブを行う。93年、当時世界一の設備を誇る岡山のデニム工場入社。物作りの裏方を学びながら、国内外の幾多のブランドに対し、デザインと製品を提供する。98年、小林 学・由紀子の2名で<スロウガン>をスタート。ブランドは「なつかしくて新しい服」が基本テーマ。60~70年代の映画、音楽をインスピレーションの根源とし、「次の最新」を、時代の気分や過去のエッセンスから抽出。デザインからウエア製造までのアプローチを行っている。

*価格すべて、税込です。

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メンズ館6階=コンテンポラリー カジュアル
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