春素材としてグッとくる“チェック×パンチング”のステンカラーコート
ファッションデザイナーを始める前、メンズファッション誌のエディターやスタイリストとして活躍していた<ティーエスエス>の鈴木卓爾氏。「僕たちが若いころは、借金してでも洋服を買う生活をしていた“洋服バカ”でしたが、今は楽しいことや興味の方向性がたくさんあって、服も好きだけど、自然とバランスをとっている人が多い。洋服との距離の取り方がうまいし、理解力も高いし、情報も手に入るし、着こなしや考え方も上手い」と語ります。そんな“自分らしくファッションを楽しんでいる時代”のスプリングコートとは……。
“レザーにパンチング”から発想した、ポリエステルに穴を開ける
――イセタンメンズから今回の【My Best Coat】の依頼があったとき、まずどう思いましたか?
自分は、最近世の中であまり見ないモノを作りたくなることがあって、<ティーエスエス>のスプリングコートを考えていたときに、“レザーにパンチング”を思い当たって、生地屋に「打ち込みのいいポリエステルやナイロンにパンチングできるかな?」と相談して、ハイカウント(高密度)の6素材ぐらいを試してみました。
試行錯誤して、<ティーエスエス>のスプリングコートに無地のパンチングの生地を使ったら、イセタンメンズのバイヤーがそれを気に入って、「パンチングが面白いので、今回の企画でこの生地を使用できませんか?」と打診があり、「チェックにパンチングはどうだろう」とまた6素材ほど試してみて、このチェック×パンチングの生地が一番しっくりきました。
こちらのコートの生地は、表がパンチングのポリエステルで、ライニングがコットンナイロンになっています。
――鈴木さんご自身は、春にコートを着られますか?
スプリングコートはジャケットの代わりになるアウターとして、アイテムの重要度が上がっていると思います。自分自身も、コートメインでの着こなしを考えるウエイトが上がっている気がしますね。<ティーエスエス>の春夏コレクションでもスプリングコートの存在感が増しています。
今回のパンチングのスプリングコートを着てみて気づいたのは、チェック柄と穴の感じがきちんと成立しているのはもちろん、パンチングがベンチレーション的な機能を果たしてくれて、風のはらみ方が春素材として良いなと感じました。
コート 73,440円
リラックスしながら“簡単な感じ”でのコーディネートがよく似合う
――【My Best Coat】についてご説明ください。
素材が面白いので、形は定番です。チェンジポケット付きのラグランスリーブで、フライフロントのステンカラーコート型は<ティーエスエス>で人気のあるデザインで、定番のものです。スプリングコートでこういうスラントポケットのものは意外とありません。
――今回のコートを中心にどういう着こなしを提案しますか?
コート自体に特徴があって、少しゆったり目なので、コーディネートは頑張らない感じで、カットソー、Tシャツ、スウェットパンツなど少しリラックス感を持って“簡単な感じ”で合わせてはいかがでしょうか。
コレクションを考えるとき、素材からの発想はもちろん、スタイリングのイメージで作っていく“ルック先行のデザイン”もいくつかあります。「こういうルックで着ると面白い」というのはとても大事にしていますね。
<ティーエスエス>の服は、基本「なんにでも合う」というのを大切にしていて、たとえばこの春夏ではジャケットとシャツとパンツを同素材で作っていますが、それを組み合わせてもバラして着ても違う見え方になるように考えています。
新しい服作りにチャレンジしたいから、海外へ打って出る
――今のメンズ館に対して感じていること、期待や要望などをこの機会にぜひ。
<ティーエスエス>は海外展開もしているので、海外のお客さんや知り合いが来たとき、「東京で見るべきお店」として伊勢丹は必ず行きます。ハイブランドからトラッド、ベーシックまで「日本のファッションが集約した形で見られる」ととても好評です。伊勢丹は、お仕着せもないし、カテゴライズもわかりやすいので、なんの注文もないです。良いお店ですよ。
服作りをしていて、自分のやりたいことを変えないでモノを作るには、残念ながら今の日本だとマーケットとして足りないので、ヨーロッパやアメリカの展示会にも持っていっています。そうすると「良いね」といってくれるお客さんが必ずいて、素材開発など、また新しい服作りにチャレンジできる。そのために海外に出ていって、海外の比率が少しずつ上がっています。
鈴木卓爾(すずきたくじ)
桑沢デザイン研究所ドレスデザイン科卒業。ファッション雑誌を中心としたスタイリスト、エディター、クリエイティブディレクターとして活動し、1999年にメンズブランド<TS>をスタートさせる。2009年1月にブランドコンセプトを再構築し、ブランド名を<ts(s)>へと変更。同時にフィレンツェで開催の合同展示会「PITTI IMMAGINE UOMO」に初参加し、以降年2回の出展を継続している。12年9月に東京・代官山にアトリエ併設の直営店をオープン。現代的解釈による独自のトラディショナルスタイルをベースに、ワーク、ミリタリー、スポーツなどのスタイルを取り入れながらラインナップを構成。「ありそうで無い物作り」、「行き過ぎない意外性」という自分なりのバランス、スタンスを目指す。
*価格すべて、税込です。
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