2017.02.28 update

【対談】デザイナー鈴木大器×バイヤー今泉洋祐が語る、今着たいスプリングコート

人気デザイナーやブランドとのコラボレーション企画に力を入れているイセタンメンズが今春フィーチャーするのは“スプリングコート”。メンズ館6階=コンテンポラリー カジュアルのバイヤー今泉洋祐は、「"スプリングコート"というアイテムはカジュアルカテゴリーにおいて、着用時期は限られている上、販売期間が他のアイテムと比べると短く、難しいアイテム。一方で春夏ファッションの楽しさをお客さまにお伝えする意味においてはプレゼンテーションやコーディネイト上、非常に重要なアイテムです。そこで今回は軽くてシーズンレスな素材感で、デザイナーの皆さまが考える自分にとっての"My Best Coat(マイベストコート)"を作っていただきました。イメージは"着るコート"ではなく、"羽織るコート"です」と語ります。


そんな今泉が訪ねたのは、<ENGINEERED GARMENTS/エンジニアド ガーメンツ>のショールーム。大人の男が"今着たい"スプリングコートについて、デザイナーの鈴木大器氏と語り合います。

形はなるべくシンプルに、ディテールも排除して、より軽く

 
今泉洋祐 今のお客さまは、既存の枠に捉われないミックスコーディネイトが本当に上手。それはテイストに限らずアイテムのミックスも含めて見られる傾向です。春のコートの新しいスタイリング提案を考えると、"ポストジャケット"としての機能をスプリングコートが十分に果たせると思いました。毎シーズンコラボレーション企画にはご協力いただいていますが、今の自分のお買い場においてジャケットスタイルやセットアップスタイルの提案をする上では、<エンジニアード ガーメンツ>を外しては考えられません。そんな経緯から今回もお忙しい中大変恐縮ながら(笑)、参加をお願いしました。


<エンジニアド ガーメンツ>デザイナーの鈴木大器氏

鈴木大器 自分は世の中の流れ的なものに敏感な方ではありませんが、ショートジャケットにTシャツ、ショーツのような着こなしは気になっていて、ショートジャケットの代わりに中途半端な丈のショップコートなども面白いなと。
今泉 大器さんもスプリングコートは着られますか?
鈴木 今回の依頼を受けたコートの丈ぐらいのものは好きで着ますよ。
今泉 秋冬のコートと、春夏のコートではモノをつくる上で考え方は変わりますか?
鈴木 そうですね。秋冬はがっちりした素材でディテールに凝りますが、春はなるべくシンプルに、ディテールを排除して、軽い素材ですっきりと、ですね。


<エンジニアド ガーメンツ>
コート 51,840円

ミリタリーコートをベースに、ディテールのバランスを整えたコート


今泉 <エンジニアド ガーメンツ>では、毎シーズン様々な角度から違うアプローチでモノづくりをされていますが、今回の企画ではどんなアプローチで作られましたか?
鈴木 デザインは今春夏コレクションで展開しているものですが、素材は今回の企画のために用意したタフタです。ハイテク素材のマイクロファイバーの軽さと、フェザー(杢)グレーの色目が気に入りました。一枚仕立ての製品洗いでパッカリングがキレイに出ているのも特徴です。
今泉
デザインのベースは古いフィールドジャケットだそうですね。
鈴木 メンズで人気のあるコートにはミリタリーベースのものが多く、これも1941年の初期のミリタリージャケット「M-41」がベースです。あまり世の中に流通していない形ですが、個人的に好きなジャケットで過去に何度かモチーフにしたことがあります。M-41の着丈を長くして、ディテールのバランスを整えたコートで、チェスターコートに近い感じに仕上がりました。
今泉 <エンジニアド ガーメンツ>では、珍しい素材感の商品だと初めに上がってきたサンプルを見て感じました。


鈴木 ブランドの初期は天然素材がメインでしたが、もともと自分は軍モノの素材が大好きで、70年代後半にゴアテックスが出てくる以前の“65/35”のポリエステルコットンなど、60年代のアウトドア素材なども好きです。
今泉 デザインはミリタリーベースですが、スーツの上に羽織ってもかっこいいし、オンでもオフでも着られるコートですね。
鈴木 ややオーバーサイズ気味なので、スーツの上やTシャツとショーツにも、緩(ゆる)く羽織る感じがいいと思います。



服を組み合わせる力は、お金では買えません


今泉 <エンジニアド ガーメンツ>はメンズ館6階=コンテンポラリー カジュアルで現在取り扱わせていただいてますが、大器さんがメンズ館に対して感じていること、期待や要望などありますか?
鈴木 自分はNYにもショップを構えていますが、お店が好きで、店独自の世界観を大事にしたいと思っています。お店が好きで来てくれるお客さんはうれしいですよ。ブランドが主体になる百貨店では独自の打ち出しはなかなか難しいかもしれませんが、そこにまた可能性があるんじゃないかと思います。


メンズ館6階=コンテンポラリー カジュアルを担当する今泉洋祐バイヤー

今泉 自分がメンズ館2階でアシスタントバイヤーをしていた2005年に、当時立ち上げた「クリエーターズ・エッジ」のメインコンテンツとして<エンジニアド ガーメンツ>が入ってきて、いろんなブランドを組み合わせてコーディネイト提案できる面白さに気づかせてもらいました。あの頃は<ディオール オム>などモード全盛で、メンズ館ではアメカジは弱かったですね。<エンジニアド ガーメンツ>は時代のアンチテーゼのようでとても新鮮でした。
鈴木 ブランドは当時自分が着たい服がなくて始めたようなもので(笑)、細くなく、とんがってなく、黒じゃない服を作りたかった。アメリカンクラシックを作っているブランドも当時はなかったですね。
今泉 それ以来、イセタンメンズではずっとセールスも好調ですが、<エンジニアド ガーメンツ>はなによりカタログのスタイリングがカッコいい。単品としての魅力はもちろんですが、コーディネートされたときのスタイリングの格好良さが大好きです。


鈴木 服自体は組み合わせ次第で楽しめる普通のモノですが、洋服は着方次第なんです。 
今泉 服を着る面白さが凝縮した言葉ですね。
鈴木 僕らの作るモノは「完成された不良品」という言い方をしていますが、ハマったディテールや素材のマッチングなど“洋服の強さ”があるものが僕は好きです。洋服って面白いもので、たとえば30万円しようが、自分にピンとこないと千円の価値もない。
今泉 確かにそうですね。
鈴木 <エンジニアド ガーメンツ>は、良い生地、良いデザイン、良いパターンのいわゆる“良い服”には勝てないけれど、「一点気になるディテール」や「着たくなる素材」などで愛着を持てる服になりたい。洋服にある感情が価値を決めると思います。

 

鈴木大器(すずきだいき)

1962年、青森県弘前市生まれ。NEPENTHES AMERICA INC.代表。<ENGINEERED GARMENTS/エンジニアド ガーメンツ>デザイナー。ネペンテスのバイヤーとして89年に渡米、ボストン、NY、サンフランシスコを経て、97年より再びNYにオフィスを構える。99年にアメリカ製のオリジナルブランドとして<エンジニアド ガーメンツ>をスタート。08年CFDAベストニューメンズウェアデザイナー賞受賞。日本人初のCFDA正式メンバーとしてエントリーされている。

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Photo:Ozawa Tatsuya

*価格はすべて税込です

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メンズ館6階=コンテンポラリーカジュアル
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