【鼎談】<DESIGN UNDERGROUND/デザインアンダーグラウンド>|家電蒐集家・松崎順一がナビゲートする「ビンテージラジカセ」の世界(1/3)
ビンテージラジカセが再評価されてきた絶妙のタイミング
金子晋也 今回のビンテージラジカセの期間限定フェアを、イセタンメンズと組む“第1章”とすると、実は過去に“第0章”があるんですよね。
松崎順一 はい、2011年に本館7階=催事場で、道具にフィーチャーした『Access to TOOLS 暮らしの道具展』というイベントに参加させていただきました。「歴史ある百貨店で中古のラジカセを展示販売する」という前代未聞の参加でしたが、お客さまからは好評で、自分が当時考えていた以上にラジカセが持っているポテンシャルに気づかせていただきました。そして当時の福田隆史バイヤーからお声をかけていただき、メンズ館8階=イセタンメンズ レジデンスで単独のイベントをさせていただきました。
イセタンメンズ レジデンス 金子晋也バイヤー
金子 その5年前の“第0章”のときはどんな感じでしたか?
松崎 当時、ビンテージラジカセはとてもマニアックなものでしたが、ファッションやアートが成熟している中で、物の価値以上に、カルチャーとしての新たな切り口として面白いアイテムだなと感じました。
金子 それからの5年間に松崎さんとラジカセを取り巻く環境は大きく変わりましたね。
松崎 はい。世間的にもビンテージ・レトロ家電は再評価を受けて、今回の期間限定フェアはとてもタイムリーなイベントになったと思います。
金子 イセタンメンズ レジデンスでも、“物からの提案”を一つステップアップさせて、現在は“人やコト”にフォーカスし、たとえばビンテージラジカセの物の価値に加えて、アナログな音を楽しむことまで提案していきたいという思いと見事に合致しました。
松崎順一
家電蒐集家。デザインアンダーグラウンド主宰。足立区をホームグラウンドとして家電再生活動を続ける「レトロフィッター」「家電系ガジェッター」「家電考古学者」として国内・海外を問わず、過去1970年代以降の近代工業製品(主にラジカセ)をこよなく愛し、発掘・蒐集・整備・カスタマイズ・企画イベント・ラジカセを使用したアート展などを中心に2003年から活動中。テレビドラマなどで家電の時代考証も多数担当する。『ラジカセ for フューチャー』は熊谷朋哉との共著。
マニュアル車を自分の思うように操るようなラジカセの魅力
金子 改めてお聞きしますが、松崎さんにとって「ラジカセの魅力」とは。
松崎 まず物の魅力として、日本の家電メーカーが70~80年代に一生懸命、メイド・イン・ジャパンで作ったものであること。今のデジタルにはハイレゾ音源などがありますが、それと比べると次元が違う音質を楽しめること。デジタルでは絶対表現できないアナログの音の魅力があります。
金子 このデカく迫力ある筐体(きょうたい)と、スイッチ類のメカ的な配列など、男なら絶対に好きですね。
松崎 音を聴く前にこのハードウエアのポテンシャルを引き出すことにも魅力を感じますね。重くてデカいのにポータブルという格好良さは、マニュアル車のシフトチェンジに似て、“操る楽しさ”があります。現代のブラッシュアップされた家電デザインとの対極として見ても面白い。
金子 これだけ生活の中にデジタルがある今だからこそ、新鮮に捉えてもらえるのでしょう。
松崎 はい。インテリアとしても洗練された空間にミスマッチの独特な存在感があるので、センス次第で使いこなしていただけます。
NEXT≫松崎順一氏が解説する「名機中の名機」
- PREV
- 1 / 3
- NEXT