そこはかとなく香るラテンの色気
イギリスにルーツをもつロトゥセだが、かれらの手にかかると雰囲気は一変する。たとえばいまから10年ほど前に完成させたグッドイヤー・フレックス。グッドイヤーウェルトをベースにしつつ、履き慣らす必要のない、ぐにゃりと曲がる底回りを特徴とする。
色も他に類をみない。この秋に登場した、ポートワインをイメージしたオポルトは好例だ。瑞々しい色味は選りすぐりの革のポテンシャルも寄与している。
「牧場と提携し、食用の副産物で、ハッピーな環境で育った牛にかぎって買い付けています。ハッピーな牛をハッピーな職人が料理するんだから、いい靴にならないはずがない」
いかにも快楽的なラテンのノリだが、一足の靴として完成すると、とたんに洗練の様相を帯びる。マヨルカ出身のデザイナー、ガブリエルの存在抜きには語れないけれど(ジョルジオ アルマーニやストーンアイランドでキャリアを積んだ20年選手だ)、島民性がもたらすものも大きい。かれらの奥ゆかしさがラテンという名の牛をひらりとかわす闘牛士の役割を果たすのだ。
駄目を押すのが製靴技術だ。その技術の高さはイギリスもお墨付きを与えた。数十社が名乗りをあげるコンペで150に及ぶ項目をパーフェクトにクリアして、少し前に契約を更新したばかりの受注先はバッキンガム。ロトゥセは、あの宮殿の近衛兵の靴をつくっている。
順風満帆なロトゥセがわざわざOEM生産を手がける理由はふたつある。ひとつがイギリスに学んでいまがあるという恩返しのような気持ち、もうひとつが人材育成だ。オーソドックスな軍靴をつくりつづければ職人の手は安定する。
「かつて一世を風靡したマヨルカの製靴業はみる影もありません。メーカーの数は一桁になり、靴の学校も90年代に廃校になりました。この街は観光業で成り立っている。しかし我々は、外注に頼るような安易な選択をしたくなかった」
げんざい、80人いる職人は、ゆっくりと代替わりがすすんでいる。
「工場長のトニーの息子も、いまは立派な戦力です。じつはトニーのお父さんも我々の工場で働いてくれた職人でした。代々ロトゥセの職人という例は枚挙にいとまがない」
マヨルカに根付くロトゥセなら分の悪いこの勝負も乗り切れるだろう。ロトゥセの靴はその島に育まれた職人が、古めかしい機械を直しながら、つくっているのだから。
Text:Takegawa Kei
Photo:Suzuki Shimpei
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