2017.01.18 update

【インタビュー】ステファノ・ガスパローニ |<STEFANOMANO/ステファノマーノ>、押さえ金がつなぐ家族の絆

軽いけれど耐久性があって、収納構造も申し分ない。天然コットンの芯をくるんだハンドルはもつほど手に馴染む。10番手の糸をゆっくりと縫い込んだステッチワークの美しさはひときわ異彩を放つ。ていねいに仕立てられたスーツならより上品さが増し、デニムなら大人にふさわしい余裕が生まれるバッグ--そんなブランドの歴史を紐解いたら、アルファロメオとフィアットの名も見つかった。


ステファノマーノは1974年にバッグ製造のガスプコム社を創業したカリロ・ガスパローニの次男坊、ステファノが2003年にはじめ、現在では兄のマッシモと2人で経営しているブランドだ。

「エレクトロニックやアーキテクチャーの学校に進みました。そういう分野で働いてみたいという思いはありましたが、それはとてもぼんやりとしたもので、確固たる未来を描いていたわけではない。学校にかようかたわら、家業はずっと手伝っていました」

とうじガスプコム社は猫の手も借りたいほどだった。ステファノは、忙しさに搦めとられるように気づけば腰を据えていた。パタンナーの仕事が与えられ、ひたすら型紙を切る毎日。身も心もヘトヘトになったが…。

「仕事が終わったあとの時間は自分の鞄づくりにあてるのが常でした。丸ごとひとつ、思いどおりにつくるのはとても楽しいことでした。これが日本のバイヤーの目にとまり、(自分のブランドを)やってみたらどうかと声をかけられたのです」


素人に毛が生えたようなものだったとはにかむが、肉厚なブライドルレザーの一枚革でハンドルを成型するなど、いまに通じる骨太なモノづくりの片鱗はうかがわせた。幼少のころより現場で遊び、長じて骨格となるパターンの仕事を叩き込んだからだろう。駆け出しにありがちな気負いのようなものもなかった。

コレクションの構築にあたり、ステファノが目をつけたのがリモンタ社のアデレイドというコットン・ナイロンだった。そのマテリアルはナイロン特有の軽量と光沢をそなえつつ、コットンをミックスすることでハリのある佇まいがキープされる特徴がある。こうして、21世紀のビジネスバッグの代名詞ともいうべき異素材のコンビネーションが完成した。

ステファノマーノの魅力はプロダクトとしての品質、バッグとしての使い勝手を謙虚に探求しつつ、武骨一辺倒のそれとは異なるところにある。


「われわれが根を下ろすアドリア海に面した街、アルバアドリアティカにはそれはそれは素敵なものしかありません。アルバアドリアティカに暮らし、働くわたしたちにとっては味気ないバッグをつくるほうが難しい」

そう笑うステファノはつづけていった。エレガンスとは色や形ではなく、つくり手のアイデンティティがにじみ出るものなのです、と。自然豊かな地で、手仕事ありきのモノづくりを謳うステファノマーノに色気を感じるのは当然なのだ。

ブランド名に冠した“マーノ”はイタリア語で“手”を意味する。


父カリノが生きつづける工房

ステファノマーノにはガスプコム社のほか、3つの工房が携わっている。その工房には材料はもちろん、ミシンなど機材一式を提供している。みな、ブランドのローンチ以来の付き合いだ。

それぞれが独立した存在でありながら、遠くの親戚よりはよほどわかりあえる関係。ステファノマーノは古き良き労働集約型産業が健全に機能している。「より良いものを目指そうと思えばベストのスタイルです」とステファノは いった。そのモノづくりは2009年、イタリア製造メーカー擁護機関協会という公的な機関にもみとめられた。

目下の課題は現場の若返りだ。ガスプコム社には全部で8人の職人がいるが、もっとも若くて50代という。「わたしもこの12月で49歳になります。これからは人材育成に力を入れたい。10年あれば、モノになりますから」

ステファノの話を聞いていて、父カリノにその姿をみせたかったとしみじみ思った。


カリノはなかなかの苦労人だったようで、ガスプコム社を興すまで職を転々とした。アルファロメオやフィアットを売っていたこともあるそうだ。そのひとつにイタリア・ミシンの名門、ミラノのネッキがあった。重要なポジションにつき、肝入りの新作を売り出すも市場の反応は芳しくなかった。オイルショックを機に独立すると、自前のミシンでアタッシェケースやビューティケースをつくりはじめた。これがドイツの通販雑誌で好評を博した。そうしてようやくOEM生産で頭角を表し、ステファノマーノ誕生の舞台をととのえた。

自分の力を試したいと訴えたステファノに対し、「うちの仕事はちゃんとするんだぞ」とだけいって好きにやらせたカリノは2年前に亡くなった。晩年はずっと臥せっていて、息子の活躍が理解できる状況になかった。

いまも工房で目を光らせていますよとステファノは顔をほころばせた。

「ミシンのプレッサーフット(押さえ金)は父さんが考案したものです。革が厚く、糸も太いステファノマーノのバッグはこれがないと縫えないんです」

Text:Takegawa Kei
Photo:Ozawa Tatsuya

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