ミタスニーカーズ・国井栄之──昔ながらの「味わい」と、現代の「機能」との融合
国井「名前ぐらいしか知らないブランドでしたので先入観はなかったのですが、矢作さんがお持ちになられたサンプル品は、すごく今っぽくシルエットも完成されていたし、カラーリングや素材使いもミニマムにまとまっていて万人受けしそうな靴だったんですけれど…。それ、パンサーのアイデンティティはどこにあるの?という疑問が湧くシロモノでした」。
それはモノトーンのシンプルなスニーカーだった。国内製造とレトロなムードという軸足を建てながらも、かつてのパンサーの名を借りた別物であることを国井は見抜いていた。
国井「歴史あるブランドなのだから当時を忠実に再現したほうがいい。だけどルックスはオーセンティックで、履き心地はコンテンポラリーなほうがいい。過去の靴だからといって、履き心地やフィッティングが昔のままというのはどうなんだろうと思い、機能的な素材を使ったフットベッドの採用を提案しました。ほかにも当時のカタログをめくりながら、この色とこの色のサンプルを作ってほしいとか、パーツをカットした部分に色がついていてはいけないことなんかも指摘して」。
「PANTHER GT DELUXE」16,200円
セカンド、サードとサンプル製作は回を重ねた。矢作も国井もそのたびに、納得の行く物づくりができてきていることを実感することとなる。福島の、昭和と同じ手作業に頼る工場は、しかし確実に2人の思いを形にしていったのである。こうしてかつての国産スニーカーを復刻するという想いは2016年春、現実のものになった。
国井「学校販売されていた運動靴だけに、地に足の付いた日本人の生活に密着した運動靴なんですよね。作り方やカラーリングも時代を反映していて、昭和の時代背景が滲んでいるところがパンサーらしさだと再確認しました」。
インソールにはオーソライト社のカップインソールを採用している。当時と同じ外見を継承するためにあえて採用した薄いアウトソールの衝撃を、インソールが十分に吸収して歩行性能をしっかりカバーしてくれる。ピンキング(ギザギザカット)されたスエードパーツはエッジが白く染め残されている。これは芯染め(内部まで染料を染み込ませる染色技法)されていない旧式の染色方法をあえて採用したスエードレザーを使っているためだ。現代の技術ではレザーはしっかりと芯まで色が浸透してしまうため、このようにはならない。あえてヴィンテージスニーカーのもつ味わいを再現するために、革の染色ひとつまでこだわりぬいて再現している。
国井「一般的な考えからすると、昔の製品を復刻するなんてことは簡単だと思いますよね。もともとあったものを、また作ればいいんだから。でもじつは逆なんです。昔はあたりまえだったことでも、素材がなかったり、機械がなかったり、技術が進化してしまったがために出来なくなってしまったことって意外と多いんです。洋服も同じですよね。正解があるものを作ることって、すごく難しいのに、矢作さんはホントに頑張ってくれたと思います。最近よく日本製は素晴らしいとか、日本製だから価値があるなんて、ヘンに日本を持ち上げる傾向があるけれど、個人的にはそこには意味がないと思っています。むしろ今回のパンサーは国内で作ったからこそ、五感に訴える完成度の高いモノ作りができたと思っています」。