【インタビュー】長谷川裕也|靴磨き職人を子どもがなりたい職業に
スーツに身を包み、カウンター越しに靴を磨くBrift H(ブリフトアッシュ)をオープンしたのは2008年のことだった。路上すれすれからはじまった長谷川裕也の夢が具現すると、追いつき追い越せで切磋琢磨する若手もあらわれた。いまの目標をたずねたら、「子どもがなりたい職業にあげてもらうこと」といった。
「Brift H(ブリフトアッシュ)」を主宰する靴磨き職人の長谷川裕也氏
ブリフトアッシュは日本一高い靴磨きの店です。1,500円からスタートして、2011年のリニューアルを期に2,400円、そしてこの5月には4,000円に。,4000円はドリンクをお出しして、目の前で磨くブリフトアッシュを象徴するコースです。お預かりなら2,700円でお受けします。
みなさん、靴磨き=10分500円が当たり前と思っていらっしゃる。その先入観でみれば高いとお感じになって当然です。しかし、われわれが提供するサービスは従来の靴磨きではありません。お代に見合うスタイルを創造した自負があります。考えてもみてください。それなりのヘアサロンなら1万円近い出費を覚悟しなければならないんですよ。けして高いとは思いません。
磨き上げた技術を惜しみなく披露したその名も『靴磨きの本』をこの6月、上梓しました。出版というカタチで認められたのは素直にうれしいですね。
施術につかうクリームも自慢させてください。うちのクリーム、化粧品メーカーにつくってもらっているんです。おそらく世界ではじめてでしょう。じつはその会社の方が古くからのお客さんでした。
すべて化粧品につかわれる成分のみで構成されています。つまり、石油系が一切入っていない。保湿成分でできているんだから当然といえば当然ですが、仕上がりがどうにもさらっといかなかった。配合のバランスでこれを克服、3年かけて肌にも塗れるやさしいクリームができあがりました。
ここだけの話、湯水のように塗りたくるので、仕入れたクリームだと原価が跳ね上がって仕方がない、という台所事情もありました(笑)。
骨董通りにこの店を出して8年。現在はご近所のブルーム&ブランチにインショップがあり、北海道にはフランチャイズもオープンしました。物販もするようになるとスケールメリットは大切ですからね。つぎは直営を銀座に、フランチャイズを関西あたりに出したい。いずれはニューヨークにも上陸するつもり。来年リサーチへいこうと思っています。著書は近々韓国版と中国版が出る予定ですが、なんとか英語版もつくりたい。名刺がわりになりますから。目指すはこんまり(笑)。世界のスタンダードに、なんてね。
1500円の靴磨き屋を骨董通りに出すって決めたとき、まわりはみな絶対に失敗するっていいました。当初の計画よりは若干遅いけれど、まあまあのデキです。
職業に貴賤なしを教えてくれたひと
靴磨きでメシを食おうと思ったのはストリート、パンクの精神ですけれど、もとを辿れば母親の存在は避けてとおれません。母はキャバクラを経営していて、それでぼくを育ててくれました。“職業に貴賤なし”を身をもって教えてくれた。
肝が座っているなぁと思ったのは、品川駅で磨いていたころ。こっそりみにきたんです。運悪く、警官に撤去させられるタイミングでした。歩道橋から覗き込んでいたうちの母親、そのままなにもいわずに立ち去りました。すごいでしょ。
そうそう、すこし前に妹から聞いたんですが、馬乗りになってツワモノを殴ったそうです。これにはさすがに驚いた(笑)。
Text:Takegawa Kei
Photo:Ozawa Tatsuya
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